No.1271
5月26日、ブログ「冠婚葬祭総合研究所報告会」で紹介した「葬祭等に関する意識」ウェビナーに参加した後、世界的に大ヒットしている葬祭映画を観ました。TOHOシネマズシャンテで香港映画「旅立ちのラストダンス」を観たのです。香港映画の歴代興収第1位だそうですが、一条真也の映画館「ほどなく、お別れです」で紹介した日本映画の香港版というべき作品で、心あたたまる冠婚葬祭映画の名作でした。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「葬儀業者と葬儀を取り仕切る葬儀道士の姿を通じて、香港の人々が抱く家族観や死生観を見つめるコメディードラマ。ウエディングプランナーから葬儀業者に転身した男と伝統を大切にしてきた葬儀道士が、衝突を繰り返しながらも絆と信頼を深めていく。監督はアンセルム・チャン。『毒舌弁護人~正義への戦い~』などのダヨ・ウォン、『Mr.BOO!』シリーズなどのマイケル・ホイ、『オーヴァーヒート 最後の制裁』などのミシェル・ワイのほか、チュー・パクホン、キャサリン・チャウらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「コロナ禍による業績悪化で多額の負債を抱えたウエディングプランナーのトウサン(ダヨ・ウォン)は、葬儀業界へ転身する。利益を追求することしか頭にないトウサンは、道教の葬儀儀式『破地獄』の慣習などに戸惑い、破地獄を取り仕切る昔気質の厳格な道士マン(マイケル・ホイ)と衝突を繰り返す。だが、マンやその娘マンユッ(ミシェル・ワイ)、そして彼女の家族と交流を重ねるうちにマンとの隔たりは解消され、彼は破地獄が行われる意味を知る」
この映画の白眉は、何と言っても「破地獄」のシーンです。わたしも、その存在は知っていましたが、じっくり見るのは初めてです。破地獄は、道教や中国の伝統的な葬儀において、故人の魂を地獄の苦しみから救い出すために行われる宗教儀礼(法事)のことです。生前に罪を犯した故人が落とされる地獄の門(九泉)を破ります。地獄で受けている激しい苦しみから故人を解放します。魂を浄化し、無事に次の来世へと生まれ変われるよう先導します。主な儀式内容ですが、香港の伝統葬儀の場合、床に瓦を並べて地獄の門に見立てます。次に、中央に火をつけた盆(火盆)を置きます。道士(お坊さん)が剣を持ち、激しく踊りながら瓦を叩き割ります。火を飛び越えるアクションで、暗闇の地獄に光をもたらす様子を表現します。
葬儀における破地獄は、残された家族が故人のために行う、最大の孝行とされています。儀式中に焚かれる線香の煙が、現世とあの世を繋ぐ道しるべとなります。破地獄は「無形文化財」になっていると知って、驚きました。わたしは一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団の理事長を務めていますが、「冠婚葬祭は日本文化の集大成」であると、つねづね考えています。ですので、「日本の葬儀も無形文化財にしてほしいものだ」と強く思いました。大ヒットしただけあって、「旅立ちのラストダンス」の出演陣はみな良かったです。特に、ダヨ・ウォンが演じた主人公トウサンは、「ほどなく、お別れです」の目黒蓮ほどではないにしろ、なかなかのイケメンでした。ウェディング業界からフューネラル業界に転職したトウサンは最初こそ戸惑いますが、「婚礼は新郎新婦が相手、葬祭は故人が相手。基本は変わらない」と覚悟を決めて新しい仕事に取り組む姿は清々しかったです。
一方、もう1人の主役というべきマイケル・ホイが演じた道士マンは、いつもイライラしていて「こんなにストレスを溜めていては長生きできないぞ」と思わせるほどでした。道士である彼は女性を汚れた存在として遠ざけます。特に女性の月経を嫌うのですが、これはちょっとSDGsの時代に完全に逆行しています。道教は日本の神道に近いところがありますが、神道も「血の穢れ」を嫌いますね。それどころか「死の穢れ」をも嫌うわけですが、道教や神道に深いシンパシーを抱くわたしでさえ、「このへんは、何とかならないのか」と思ってしまいます。それでも、香港の道教に基づく葬儀は興味深かったです。葬儀の形式は、国により、民族によって、きわめて著しく差異があります。これは世界各国のセレモニーには、その国の長年培われた宗教的伝統や民族的慣習などが反映しているからです。儀式の根底には「民族的よりどころ」というべきものがあります。わたしは、儀式はあらゆる民族にとっての「文化の核」だと考えています。
最後に、この映画をTOHOシネマズシャンテのスクリーン1の最後列で鑑賞したのですが、わたしの席は中央の通路側でした。シアター全体が暗くなって上映開始寸前のとき、ノースリーブの派手な感じの女性が1人で入ってきて、通路を挟んだわたしの隣席に座りました。すると、その女性がよく笑うのです。この映画はコメディ要素もあるのですが、日本人のわたしから見て、そんなに可笑しいとは思えません。でも、その女性は「ギャハハハ!!」と声をあげて大笑いするのです。そのうち誰かが亡くなったり、葬儀の場面になると、今度はその女性がハンカチを顔に当てて号泣するのです。その泣き声もかなりの大きさでした。別に映画を観て笑ったり、泣いたりするのは悪いことではないのですが、ちょっと驚きました。また、そこまで映画に没頭できる彼女を羨ましくも感じました。そして、「もしかすると彼女は香港の人で、この映画の関係者なのかもしれない」と思いました。


