No.1277
6月2日、日本映画「ラプソディ・ラプソディ」を打ち合わせの間を縫ってシネスイッチ銀座で観ました。正直あまり期待していなかったのですが、面白かったです。単なる人間ドラマを超えた壮大な相互グリーフケアの物語でした!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「俳優としても活動する『さよならドビュッシー』などの利重剛監督がメガホンを取った人間ドラマ。人との関わりを避けるように生きてきた男の人生が、知らぬ間に婚姻届を出されていたことで大きく動き出す。ジャズピアニストの大西順子が音楽を担当。主人公を『岸辺露伴は動かない』シリーズなどの高橋一生、見ず知らずの彼と勝手に籍を入れるヒロインを『さよなら ほやマン』などの呉城久美が演じるほか、利重、芹澤興人、池脇千鶴らが共演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「パスポート更新のため役所を訪れた夏野幹夫(高橋一生)は、戸籍謄本に全く身に覚えのない『続柄:妻』の記載を見て驚く。知らぬ間に繁子という女性と結婚していることを知った彼は、正体不明の妻を捜し始め、ある生花店で彼女を見つける。戸惑いながらも繁子(呉城久美)と懸命に向き合おうとするうちに、人付き合いを避けるように生きてきた幹夫の人生が変わり始める」
この映画、主人公の夏野幹夫の叔父さん役を演じた利重がすごく良かったです。主演の高橋一生を完全に喰っていました。彼は本作の監督も務めていますが、監督名は利重剛で、俳優名は利重なのですね。映画の冒頭からニューグランドホテルが登場し、港の見える丘公園も何度も出てきます。とにかく監督の"横浜愛"が炸裂していました。そして、叔父さんと一緒に訪れた中区の区役所で戸籍謄本を取った幹夫は、自分が知らない間に結婚していたことに気づきます。「今は実印も認印も要らずに婚姻届が受理できるんですよ」という区役所の職員の説明を聴いて、わたしも幹夫と一緒に仰天しました。そんなおかしなシステム、どうかしています!
わたしが同じ目に遭ったら、すぐに警察か弁護士に相談しますが、温厚な幹夫は事を荒立たせることを好まず、結婚相手の繁子という女性を探して会いに行きます。幹夫はようやく生花店に勤めている繁子に会えるのですが、その瞬間、彼女は猛ダッシュで逃げ出します。幹夫も必死で追いかけるのですが、元陸上部だった彼女の逃げ足は速く、なかなか追いつけません。わたしは、このシーンを見ながら、謝罪も説明せずに逃げまくる繁子という女性に憎しみに似た感情が湧いてきました。あまりにも幹夫に対して失礼すぎます。その後の繁子の態度も気に入りませんでした。しかし、繁子は大きなグリーフを抱えており、それがトラウマとなっていました。じつは、幹夫も同じでした。そのうちに、2人は相互に相手のグリーフをケアしていきます。
本作を観ながら、一条真也の映画館「嘘を愛する女」で紹介した2018年の日本映画を思い出しました。この映画は本作と反対で、高橋一生が被害者ではなく加害者というか、嘘の人生を生きる人間を演じているのです。世話好きな研究医の恋人・小出桔平(高橋一生)と5年にわたって同居している食品メーカー勤務の川原由加利(長澤まさみ)。ある日、桔平がくも膜下出血で倒れて寝たきりになってしまいます。さらに彼の運転免許証、医師免許証が偽造されたもので、名前も職業も嘘だったことが判明。彼女は探偵の海原匠(吉田鋼太郎)と助手キム(DAIGO)に桔平の素性調査を依頼する。そして桔平が執筆中だった小説が見つかり、そこから瀬戸内のどこかに桔平の故郷があることを由加利は知るのでした。
利重も良かったですが、最高に存在感を示したのは池脇千鶴です。彼女は幹夫の会社の同僚OLである「りずむ」を演じているのですが、ひそかに幹夫に好意を寄せています。幹夫の机の上にりずむの手作りのぬいぐるみが日に日に増えていく様子は、「これがもっと増えるとホラーだな」とか思ってしまいました。ある日、りずむは弁当を2個作ってきて、幹夫をランチに誘います。そこで幹夫は「ボク、結婚してるんですよ」と打ち明けるのですが、それを聴いたりずむは「・・・え!?」と言ったきり絶句して、ものすごい表情をします。それはもう変顔を超えた"凄い"表情としか表現できないもので、この顔を見れただけでも映画のチケット代の元は取れたと思いました。それにしても、一条真也の映画館「ジョゼと虎と魚たち」で紹介した2003年の日本映画で日本中を泣かせた池脇千鶴が堂々たる女優さんになったものです。
インタビューでは、エンタメ系ライターの望月ふみ氏の「この映画で届けたかったものは?」という質問に対して、利重監督が「僕は、何かしら夢が入っているのが映画だと思っています。ムシャクシャしている時に、自分の代わりに悪い人をやっつけてくれたら『明日も頑張ろう』と思える。これも夢だと思うし、情けない主人公が情けないことをして、『自分だけじゃないんだ』と思えるのも夢。どこかしらで信じられる夢というか、こういうことってちょっとなさそうだけど、『でもあるかもしれないね、まだまだ人生捨てたもんじゃないかな』と思えるものが観たい。そこにはリアリティがないとダメだと思っていて。登場人物たちを、いるんじゃないかと思える」と答えています。わたしは、この映画を観て「結婚って、やっぱり縁だな!」と思いました。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、恋愛もお見合いもアプリも、勝手に籍を入れられるのもすべて縁です。大事なことは、その縁を良縁にすることだと思いました。


