No.1292
6月20日、日本映画「マジカル・シークレット・ツアー」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で鑑賞。有村架純が主演ということで楽しみにしていましたが、面白かったです!
ヤフーの「解説」は、「2017年に起きた主婦たちによる金の密輸事件から着想を得たドラマ。さまざまな事情から金の密輸に手を染めた女性たちが、これまでになかった自由を感じていく。メガホンを取るのは『佐藤さんと佐藤さん』などの天野千尋。『ちひろさん』などの有村架純、『アイミタガイ』などの黒木華、『禍禍女』などの南沙良のほか、塩野瑛久、佐野史郎、斎藤工らが出演する」です。
ヤフーの「あらすじ」は、「夫の高志(塩野瑛久)が横領をして会社を解雇され、さらに借金を抱えていたことを知った和歌子(有村架純)は、借金返済のためにシンガポールから金を密輸する闇バイトに手を染める。そこで借金に追われる非正規雇用の研究員・清恵(黒木華)と未婚で妊娠中のキャバクラ嬢・麻由(南沙良)と知り合った和歌子は、自分たちだけで金の密輸を始める。密輸の成功で金を稼ぎ、それまで感じたことのなかった自分らしく生きる自由や喜びを得る和歌子たちだが、思いも寄らない事態が起きる」です。
本作の冒頭から有村架純演じる主人公の和歌子が苦難に遭います。それも、ジェットコースターのように次から次に苦難に遭うのですが、観ていて辛くなりました。しかも、彼女は幼い男の子と乳飲み子を抱えているのです。わたしは出張でよく飛行機に乗りますが、幼い子どもと乳飲み子を抱えている女性をよく見かけます。そんなとき、いつも「大丈夫かな? 何か手伝えることはないかな?」と思い、荷台の荷物を取るときなどはサポートを心掛けています。そんなわけで、和歌子の絶望と不安を感じて、心が痛くなりました。
横領で会社をクビになった夫はクモ膜下出血で意識不明のまま。実家の工場は寝たきりの祖父を抱えて倒産寸前。夫の入院費に加えて借金の返済までしなければならない和歌子はどうしようもなく、金の密輸という犯罪に手を染めます。もちろん犯罪は悪いことですが、乳飲み子を抱えた若い母親が生きるために他に選択肢がなかったとしたら同情してしまいます。和歌子と同じく金の運び屋としてシンガポールに集められた連中は、みな人生に行き詰った人々ばかりでした。
シンガポールでの金の購入は、投資グレードの現物金や金製品に消費税(GST)がかからない非課税メリット があるため、非常に人気があります。日本で金を購入する場合にかかる10%の消費税分を抑えて購入することが可能です。投資用のインゴットを求める外国人も多いことで知られます。それにしても、本作を観て「こんなに簡単に密輸ってできるの?」「見つかっても、税金さえ払えば金は返してもらえるの!」と驚いていたら、現在は非常に厳罰化されており、金も没収されるそうです。まあ、それはそうでしょうね。
和歌子とシンガポールで知り合った借金に追われる非正規雇用の研究員・清恵は黒木華が演じましたが、さすがの安定した名演技でした。黒木華を初めてスクリーンで見たのは一条真也の映画館「小さいおうち」で紹介した2014年の山田洋二監督、松たか子主演映画で若い女中の役をしたときでした。「これはまた古風な顔立ちの女優が出てきたな!」と思ったものですが、彼女も大女優に成長しましたね。彼女が演じた清恵は中堅の研究員。奨学金600万円の返済に追われながら、任期付きのポストで大学の研究室にしがみついています。40歳が目前ですが、韓流グループ「NEON」に推し活をしているという設定です。
最初の金の密輸が成功して達成感をおぼえた和歌子は、清恵と未婚で妊娠中のキャバクラ嬢・麻由(南沙良)を誘って、女3人だけで密輸を行います。最初はうまくいっていましたが、ある出来事がきっかけで彼女たちは窮地に立たされます。クモ膜下出血の夫の意識が戻り、実家の工場は売却されて、祖父が亡くなった和歌子は、再び追い詰められますが、祖父の葬儀の最中に金の密輸をしていたことが親戚中にバレます。当然ながら批難の嵐となりますが、そこでブチ切れた和歌子は他人の車に乗って爆走するのでした。ペーパードライバーである自身の爆走ぶりに大はしゃぎする彼女の姿を見ながら、わたしは「有村架純はやっぱり上手いなあ!」と感心した次第です。
本作「マジカル・ミステリー・ツアー」を観て、金の密輸に手を染めた女性3人の背景には深刻な貧困があったことを忘れてはなりません。日本の格差社会・貧困化の主な原因は、バブル崩壊後の規制緩和による非正規雇用の急増、少子高齢化による社会保障負担の増大、税制や再分配機能の弱体化だとされています。特に正規・非正規の待遇格差が固定化し、若年層やひとり親世帯の貧困が深刻化しています。シンガポールで人生初の犯罪(金の密輸)に手を染めるとき、清恵は「そんなに悪いことじゃないよ。人を殺すわけじゃないんだし。誰も傷つけないんだし。ただ税金を払わないだけじゃない」と言うのですが、そのとき麻由は「税金なんて金持ちだけが払えばいいんだよ!」と言い放ちます。この「こころの叫び」はとても印象的でした。


