No.0152
日本映画「私の男」をレイトショーで観ました。
「鬼畜大宴会」「アンテナ」「フリージア」「海炭市叙景」「夏の終わり」などの熊切和嘉監督の作品で、浅野忠信と二階堂ふみが主演しています。
わたしのブログ記事「サンクスフェスタ八幡」で紹介したイベントをはじめ、29日の日曜日は予定がいろいろ詰まっていたのですが、夜は何か映画でも観たいと思っていました。いま観たい映画がたくさん公開されているのですが、「渇き。」や「トランセンデンス」を押しのけて、結局観たのは「私の男」でした。
というのも、29日の早朝に、「浅野忠信、最優秀男優賞で31年ぶりの快挙『私の男』がモスクワ映画祭でW受賞」というネット記事を見つけたからです。その記事には、「俳優・浅野忠信(40)と女優・二階堂ふみ(19)主演映画『私の男』(監督:熊切和嘉氏)が28日、第36回モスクワ国際映画祭(6/19~6/28)のコンペティション部門で『最優秀作品賞』と『最優秀男優賞』をW受賞した。同映画祭において、最優秀作品賞は1999年(第21回)の『生きたい』(新藤兼人監督)以来15年ぶり、浅野が受賞した最優秀男優賞は、1983年(第13回)の『ふるさと』の加藤嘉、以来31年ぶりの快挙となった」と書かれていました。
「私の男」という映画は完全にノーチェックだったのですが、直木賞作家・桜庭一樹氏によるベストセラー小説を映画化したものだそうです。流氷に閉ざされた北海道と東京を舞台に、孤児となった少女と彼女を引き取ることになった男の禁断の関係を描き出しているとのことで、興味が湧きました。早朝にたまたま観たネットの記事でモスクワ国際映画祭のW受賞を知ったことから、これはもう「今日、この映画を観よ!」という神のお告げに違いない(笑)と思い込んだ次第です。最近、映画の神様からのお告げがやたらと多いような気がします。(苦笑)
さて、「私の男」とはいかなる映画なのか?
「Yahoo!映画」の「解説」には、以下のように書かれています。
「直木賞作家・桜庭一樹によるベストセラー小説を、『海炭市叙景』などの熊切和嘉監督が映画化。流氷に閉ざされた北海道と東京を舞台に、孤児となった少女と彼女を引き取ることになった男の禁断の関係を描き出す。互いに秘密を抱え寄り添うように生きる父と娘には、浅野忠信と二階堂ふみがふんするほか、高良健吾、藤竜也らが共演。時代の移り変わりに合わせてフィルムとデジタルを駆使し、北海道の雄大な自然を捉えた映像にため息が出る」
また、「Yahoo!映画」の「あらすじ」には、以下のように書かれています。
「奥尻島に猛威を振るった津波によって孤児となった10歳の花(山田望叶)は遠い親戚だという腐野淳悟(浅野忠信)に引き取られ、互いに寄り添うように暮らす。花(二階堂ふみ)が高校生になったころ、二人を見守ってきた地元の名士で遠縁でもある大塩(藤竜也)は、二人のゆがんだ関係を察知し、淳悟から離れるよう花を説得。やがて厳寒の海で大塩の遺体が発見され、淳悟と花は逃げるように紋別の町を去り・・・・・・」
浅野忠信という俳優を最初に意識したのは、たしか「ACRI」(1996)でした。その後、「ユメノ銀河」(1997)、「東京日和」(1997)、「ねじ式」(1998)、「乱歩地獄」(2005)などでの演技が印象に強く残っています。もちろん、それら以外にも膨大な数の映画に出演していますが、わたしの中には幻想的な映画によく出演しているというイメージがあります。
ただ、この「私の男」で演じた主役の淳悟はクズのような男で、浅野忠信の持ち味が生かされていなかったように感じました。最初にスクリーンに登場した瞬間から、オーラがないというか、まったく生気のようなものが感じられず、観ていてイライラするほどでした。
もう1人の主演の二階堂ふみは、相変わらずの存在感を放っていました。
彼女は2007年にテレビドラマ「受験の神様」で女優デビュー、最優秀新人俳優賞など数々の賞を受賞し実力派女優と評価されています。一浪の末、今年の春、慶應義塾大学総合政策学部にAO入試で合格していますが、多くの映画に出演しながらの合格は凄いですね。わたしは、自身のブログ記事「ヒミズ」で紹介した作品のときから彼女に注目していましたが、なんといっても同ブログ記事「地獄でなぜ悪い」で紹介した映画での熱演(怪演?)には圧倒されました。
いずれも園子音監督の作品ですが、彼女はまだ19歳といいますから、なんとも末恐ろしいかぎりです。
さて、「私の男」の感想ですが、わたしにはピンときませんでした。多くのレビュアーが言っているように「暗くて」「エロい」映画ですが、そこで描かれている世界はわたしの好みではありませんでした。インモラルな男女関係が悪いというのではありません。人間の心の「闇」の部分を描くのは問題ありません。実際、同ブログ記事「告白」やブログ記事「悪人」で紹介した映画も「闇」を描いていますが、もっと深みがありました。「私の男」には深みがありません。はっきり言って、浅いです。殺人にまつわる緊迫感も不足していました。それから、二階堂ふみ演じた花の人間描写は良かったですが、彼女以外の登場人物の描き方が雑で、感情移入ができませんでした。
じつは、二階堂ふみ以上に存在感を放った役者がいました。
花の幼女時代を演じた子役の山田望叶ちゃんです。奥尻島の大地震による津波で孤児となった幼女になりきった望叶ちゃんの演技は素晴らしかったです。特に、家族をすべて津波で失い、呆然自失として水のペットボトルだけを抱えている姿が鮮明に目に焼き付きました。遠い親戚を名乗る淳悟から引き取られて避難所を去るとき、幼い彼女は初めて車の中で号泣します。この場面がまた胸を打ちました。このままの調子で物語が進んでいれば、この作品はグリーフケア映画の名作になった可能性があったのに、おかしな方向に逸れていってしまい、まことに残念です。
この映画、どうしてモスクワ国際映画祭で「最優秀作品賞」を受章したのでしょうか。ずばり、厳寒の北海道の暗さのようなものがロシア人の心の琴線に触れたからではないでしょうか。主人公たちが住んでいた紋別の町は雪に覆われ、冬のロシアを彷彿とさせる閉塞感がありました。また、藤竜也が演じる大塩老人が寒風吹きすさぶ中、オホーツクの流氷に流されていくシーンには異様なリアリティがありました。淳悟と花のインモラルな関係を知っている老人は、「そんなこと神様が許さんぞ!」と叫びます。それに対して、花は「私が許すもん!」と叫び返すのですが、このあたりはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の大審問官を連想しました。いろんな意味で、ロシア人好みの映画のような気がします。