No.0327


 10日に公開された日本映画「去年の冬、きみと別れ」を観ました。かねてより観客が必ずダマされる「罠」が仕掛けてある作品だと聞いていましたが、いや、驚きました。じつによく考え抜かれたサイコ・スリラーで、わたしも気持ち良くダマされました。たいへん面白かったです。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』などの岩田剛典を主演に迎え、中村文則の小説を映画化したサスペンスドラマ。とある焼死事件の真相を追うルポライターが、次第に抜き差しならない状態に陥っていくさまを描写する。『グラスホッパー』などの瀧本智行が監督を務め、主人公の婚約者を『ピーチガール』などの山本美月が好演。そのほか斎藤工、浅見れいな、北村一輝らが共演している」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「松田百合子(山本美月)と婚約しているルポライター耶雲恭介(岩田剛典)は、猟奇殺人事件の容疑者である天才カメラマン木原坂雄大(斎藤工)のスクープを狙っている。この事件は世間を大きく騒がせたが、真相はわかっていなかった。耶雲は事件を解明しようと奔走するが、百合子が木原坂の標的になり......」

「去年の冬、きみと別れ」を観終わった後、わたしは「よくもまあ、こんな話を思いついたものだ」と感心しましたが、それはやはり中村文則の原作小説が優れていたからです。読者をダマす小説および映画といえば、一条真也の映画館「イニシエーション・ラブ」を思い出しました。この映画も「観客がまんまとダマされる」ことをウリにしていましたが、ラスト5分でラブロマンスからミステリーに転じる作風に意表を突かれました。

「イニシエーション・ラブ」と「去年の冬、きみと別れ」のダマされ方はちょっと種類が違いますが、ともに見事にダマされた後は爽快感のようなものが残りました。「やった、俺はきちんとダマされたぞ!」みたいな......。ホラー映画できちんと怖がることができ、感動のラブロマンスできちんと泣くことができたときのような満足感のようなものですね。そう、ダマされるというのは快感なのだと思いました。

「去年の冬、きみと別れ」の内容は何を書いてもネタバレにつながるので感想が書きにくいのですが、出演している男優陣が良かったです。斎藤工と北村一輝のドラマ「昼顔」コンビはともにクセのある存在感を示していました。この二人に比べると、主演の岩田剛典は存在感が薄く、「なんかパンチがない役者だなあ」と思いながら観ていたのですが、だんだん妖気のようなものを発してきて、最後は「すごい役者だ!」と感心するほど迫真の演技を見せてくれました。おっと、ネタバレになるので、これ以上は書けません。

 岩田剛典だけでなく、彼の恋人役を演じた山本美月も「なんだかパッとしない役だなあ」とか「これは、かわいそうな役だな」「これでは、彼女があまりにも救われない」などと同情していたのですが、こちらもすっかりダマされてしまいました。じつは彼女は......おっと、いけない、これまたネタバレになるので、これ以上は書けません。

 とにかく、「去年の冬、きみと別れ」はダマされることでカタルシスが得られる不思議な映画です。それにしても、「このダマし方、何かに似ている」と思っていたら、ここまで書いてようやく気づきました。そう、一条真也の映画館「22年目の告白―私が殺人犯です―」、あるいは「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」で紹介した映画のトリックによく似ています。日本映画、外国映画を問わず、これからも観客を見事にダマしてくれる面白いエンターテインメント作品の誕生を期待しています。