No.457
映画「スキャンダル」を観ました。セクシャルハラスメントをテーマにした内容とのことで、会社経営者のコンプライアンス研修のつもりで観たのですが、ハラスメントというのは人間の尊厳を喪失する悲嘆を招く行為であり、グリーフケアにも通じていることを悟りました。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「2016年にアメリカのテレビ局FOXニュースで行われたセクシュアルハラスメントの裏側を描いたドラマ。テレビ局で活躍する女性たちをシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、数々のセクハラ疑惑で訴えられるCEOを『人生は小説よりも奇なり』などのジョン・リスゴーが演じる。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』などのジェイ・ローチがメガホンを取り、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』などのチャールズ・ランドルフが脚本を手掛けた」
ヤフー映画の「あらすじ」は以下の通りです。
「大手テレビ局FOXニュースの元人気キャスター、グレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)が、CEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで提訴する。メディアが騒然とする中、局の看板番組を背負うキャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は、今の地位をつかむまでの軌跡を振り返って動揺していた。一方、メインキャスターの座を狙うケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)は、ロジャーと対面する機会を得る」
セクハラがテーマと聞くと、正直言って、物語の展開は読めます。被害者となった女性が勇気を奮って告発し、最後は加害者の男性が敗北するという展開です。映画「スキャンダル」も大筋はその通りなのですが、さすがはハリウッドを代表する女優たちを使っているだけあって、なかなか楽しめるエンターテインメントに仕上がっていました。わたしの好きなニコール・キッドマンが最初の告発者となるグレッチェン・カールソンを演じましたが、リアルな演技はさすがです。「アイズワイドシャット」(1999年)や「アザーズ」(2001年)の頃の眩しいぐらいに妖艶な魅力はもう感じませんが、年輪を重ねたうえでの重厚な演技は、大物女優の貫禄たっぷりですね。
メーガン・ケリー役のシャーリーズ・セロンも良かったです。つねに毅然とした女性を演じました。大統領候補時代のドナルド・トランプからの攻撃を受けて苦悩するTVキャスターの役ですが、もちろんこれは事実に基づいています。日本で総理大臣の候補者が1人の女性キャスターを個人攻撃することなどありえませんが、アメリカではこんなことでも通用してしまうのですね。あと、この映画を観て、アメリカ人がいかに政治好きかということを改めて知りました。選挙権のある国民はすべて「トランプか、ヒラリーか」、支持する候補をはっきり決めている印象です。政治意識の低い国民が多い日本では想像できません。大統領選挙などは一大イベント、まさに「まつり」です。
そして、マーゴット・ロビーがすごく良かった。オーストラリア出身ということで、それこそニコール・キッドマンの再来ですね。2人とも、伝説のセクハラの巨匠で金髪フェチのアルフレッド・ヒッチコック監督が生きていたら、絶対に気に入られていたでしょう。一条真也の映画館「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で紹介した映画で、マーゴットを初めてスクリーンで観ました。シャロン・テートの役を生き生きと演じていましたが、本当に美しく、「THEハリウッド・ビューティー」といった感じでしたが、あまり美貌のことに言及するのはセクハラ的にアウトですかね?(苦笑)
でも、この「ハリウッド」を観た男性なら、誰でも「マーゴット・ロビーはいい女だなあ!」と言いたくなるでしょう。もしかすると、この映画はそういう問題発言を男性から引き出すための罠なのかもしれませんね。(笑)
一条真也の映画館「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」で、わたしは「なんだかんだ言っても、映画には美女が出演していないと楽しくありません」と書きましたが、それは本心です。でも、別に若い美女には限りません。日本人女優でいえば、若尾文子、岩下志麻、北川景子、白石麻衣、広瀬すず、浜辺美波......みんな美しいですし、彼女たちの姿は目の保養になります。年齢は関係ありません。「スキャンダル」に出演している女優でも同じことで、52歳のニコール・キッドマン、44歳のシャーリーズ・セロン、29歳のマーゴット・ロビーは3人とも美しい。美しいものを「美しい」というのは美意識の発動にして感性の自由であり、そこにハラスメントの問題など関係ありません。
ハラスメントといえば、一条真也の読書館『ハラスメントの境界線』で紹介した白河桃子氏の著書は大変勉強になりました。同書の第2章「女性から見たハラスメント」では、「イリノイ州立大学の、セクハラ研究のパイオニアといわれるジョン・プライヤー教授は、ワシントンポストの記事の中で、セクハラをする人には3つの共通した特徴があると述べている。3つとは、(1)共感力の欠如、(2)伝統的な性別の役割分担を信じている、(3)優越感・権威主義だ。そのうえで、プライヤー教授は「(セクハラを行う人を)とりまく環境も大きく影響している」と指摘している。そうした傾向のある人を、そういったことが許される環境に置けば、歯止めが利かない。Impunity(免責状態)にあることが、(セクハラを行うか行わないかに)大きく関連する。(岡本純子「エリート官僚がセクハラを否定する思考回路」『東洋経済オンライン』2018年4月24日)」という文章が紹介されています。
また、同書の第5章「#MeToo以降のハラスメント対策最新事情」では、「求められる管理職の多様性」として、白河氏は以下のように述べています。
「教育、雇用などの社会的機会の平等が求められる欧米からすれば、『男性だけの同質集団』は時代遅れで『リスクがある』ものに映るでしょう。海外のクライアントが、同じような年齢、性別の集団しか出てこない企業に対して『取引するのをやめておこうか』『投資をやめよう』とためらう可能性は大いにあります。それほどに『同質性』のリスクは『日本型組織』の脆弱性として、看過できないものになっているのです」
「#MeToo」運動といえば、映画界も震源地になりました。米国映画界の実力者として、業界内で非常に大きな影響力を持ち、業界の人々から恐れられ、逆らいがたい存在となっていたハーヴェィ・ワインスタインがセクハラで告発されたのです。もともと、2006年に若年黒人女性を支援する非営利団体「Just Be Inc.」を設立したアメリカの市民活動家タラナ・バークが、家庭内で性虐待を受ける少女から相談されたことがきっかけで、2007年に性暴力被害者支援の草の根活動のスローガンとして提唱し地道な活動を行ったのが「#MeToo」の始まりですが、2017年にニューヨーク・タイムズが、2015年から性的虐待疑惑のあった映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる数十年に及ぶセクシャルハラスメントを告発したのです。これは後に「ワインスタイン効果」と呼ばれるほどの大反響がありました。
2015年にワインスタインの名を出さずに問題のセクハラを告発していた女優のアシュレイ・ジャッドら数十名が実名でセクハラを告発、雑誌「ザ・ニューヨーカー」も10ヶ月に及ぶ被害者への取材記事をウェブ版で発表し、大きな話題になりました。セクハラや性的暴行が発覚したことで、ワインスタインが経営するワインスタイン・カンパニーは経営が悪化、2018年3月19日に連邦破産法の適用申請手続きが行われました。また、被害者たちによって申し立てられていた性的暴行の件で、2018年5月25日にニューヨーク市警によって逮捕され、その姿はマスコミにもさらされ、訴追されました。そして、なんと、わたしが映画「スキャンダル」を観た今月24日当日、ニューヨークの裁判所の陪審はワインスタイン被告に有罪評決を出しました。FOXのセクハラ騒動もいいですが、わたしは個人的にこのワインスタインのスキャンダルの映画を観たいです。いずれは映画化されるのでしょうか?
『礼を求めて』(三五館)
セクシャルハラスメントとパワーハラスメントの両方を合わせて「セ・パ両リーグ」などと呼ぶようですが、わたしは、ハラスメントの問題とは結局は「礼」の問題であると考えています。「礼」とは平たく言って「人間尊重」ということです。この精神さえあれば、ハラスメントなど起きようがありません。今から約2500年前、中国に「礼」を説く人類史上最大の人間通が生まれました。言わずと知れた孔子です。彼の言行録である『論語』は東洋における最大のロングセラーとして多くの人々に愛読されました。特に、西洋最大のロングセラー『聖書』を欧米のリーダーたちが心の支えとしてきたように、日本をはじめとする東アジア諸国の指導者たちは『論語』を座右の書として繰り返し読み、現実上のさまざまな問題に対処してきたのです。
さて、世間ではコロナウィルスの感染拡大の話題で持ち切りですが、映画産業への影響はどうなのでしょうか。「スター来日中止の流れも、シネコンは通常活況。長期的には? 現時点の新型コロナウイルスの映画界への影響」というネット記事では、来日を予定していたスターの動向にも影響が出ているそうです。先日のアカデミー賞で「ジュデイ 虹の彼方に」で主演女優賞を受賞し、今月下旬に来日予定だったレネー・ゼルウィガーは、キャンセルの方向で動いているといいます。各種イベントが中止や延期になっている中で、映画館の営業は通常どおり続いているようです。この3連休の初日も映画館はいつもの週末のような賑わいを保っていたとか。
一条真也の映画館「パラサイト 半地下の家族」や「1917 命をかけた伝令」で紹介した人気作品も数字はまあまあで、一条真也の映画館「ミッドサマー」で紹介した映画などは完売が続いているとか。映画ジャーナリストの斉藤博昭氏は、同記事に「人々が激しく動き回るわけではない映画館は、感染のリスクが少ないという報道も耳にしたりするものの、韓国の大邱の教会で起こったような感染が、もし日本の映画館で起こってしまえば、シネコンは全国規模での営業停止となる可能性もあり、予断は許さない。その映画館営業停止で何より深刻な状況なのは中国で、北京や上海といった大都市を含め、国内ほぼすべての映画館は休業のまま」と書いています。うーん、そのうち、日本でも映画館が危険ゾーンになるのでしょうか。ここ最近で、だいたい観たい映画は全部観たので、もうすぐマスクも尽きることだし、しばらく映画館に行くのは控えようかなあ? ちなみに、カラオケはこのところずっと行っていません。はい。