No.460


 シネ・リーブル神戸で日本映画「星屑の町」を観ました。日曜日というのに、観客はわたしを含めてなんと2人。でも、北九州では上映されていない作品なので、観ることができて良かったです。主演ののんが、スクリーンの中で輝いていました。映画は面白かったのですが、ラストが最悪で、せっかくの名作が台無し!

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「ラサール石井らによるユニット『星屑の会』の舞台を映画化したドラマ。東北の田舎町を舞台に、地方巡業にやってきたムード歌謡コーラスグループと歌手を夢見る女性との出会いを描く。監督は『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』などの杉山泰一。コーラスグループの面々を大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、歌手を目指す女性をのんが演じる」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「元レコード会社社員の山田修(小宮孝泰)がリーダーを務める、市村敏樹(ラサール石井)や天野真吾(大平サブロー)といったクセ者ばかりのコーラスグループ『山田修とハローナイツ』は、ベテラン歌手のキティ岩城(戸田恵子)らと地方巡業を続けていて、山田の故郷である東北の田舎町で公演を行う。ある日、山田の弟・英二(菅原大吉)の息子の幼なじみで、歌手を夢見る愛(のん)という女性がグループに入れてほしいと頼みにくる」
f:id:shins2m:20200315232459j:plain
シネ・リーブル神戸にて



f:id:shins2m:20200315232538j:plain
上映直前の3番シアター



 それにしても観客2人というのは、奥菜恵主演のJホラー「弟切草」と一条真也の映画館「アントラム/史上最も呪われた映画」で紹介した世にも奇妙なオカルト映画を観たとき以来です。そういえば、2本とも観たのは小倉のコロナワールド(!)という商業施設内のコロナシネマ(!!)というシネコンにおいてでした。今回、わたしがシネ・リーブル神戸の3番シアターに入ったとき、もう1人の方と目が合いました。すると相手が会釈をされたので、わたしもペコリと一礼しました。お互いマスクで顔は隠しており、座席も対角線上に離れていたのに、なんなんだこの連帯感は?(笑)

 わざわざ神戸にまで出掛けてこの映画を観たのは、もちろん結婚披露宴の帰りだったこともありますが、のんが幾多の試練を超えて、6年ぶりに映画主演を果たしたのに、公開のタイミングが最悪だったことを不憫に思ったからです。のんは長女と同い年ですが、「ここは俺様が、のん推しとなって応援してやるぜ!」と変な義侠心を出したのです。

 のんが能年玲奈の名で「あまちゃん」の天野アキを演じたのは2013年ですが、未知の輝きを持った彼女のインパクトは絶大で、それまでオワコンとされていたNHK朝ドラが復活して高視聴率が続きます。わたしは「あまちゃん」をリアルタイムでは観ませんでしたが、後追いしてネットで全話を鑑賞しました。東日本大震災で甚大な被害を受けた東北の被災地を舞台にしていたこともあり、「あまちゃん」というドラマは、多くの日本人にとってのグリーフケアの役割を果たしたのではないかと思います。

「あまちゃん」では、「じぇじぇ」に代表される彼女の東北弁も魅力でしたが、今回の「星屑の町」でも東北弁が炸裂しています。「あまちゃん」以来のファンにはたまらないでしょうが、実際、「あまちゃん」のアキと「星屑の町」の愛は同一人物ではないかと思うぐらい、その容姿も性格も似ています。そういえばアキもアイドル志望でしたが、愛の歌は素晴らしく、のんの歌唱力を改めて見直した人は多いでしょう。ハローナイツに入るオーデイションで歌った藤圭子の「新宿の女」も良かったし、デビュー後に歌ったピンキーとキラーズの「恋の季節」もキュートでしたが、やっぱり最高なのは「シャボン玉」。一度聴いたら耳を離れません。

「田舎娘を演じさせたら天下一品!」と言いたいところですが、愛がハローナイツに入ってデビューするや人気者になるのですが、どんどん綺麗になっていきます。表情さえも大人っぽくなり、妖艶ささえ感じます。「BVLGARI AVRORA AWARDS 2019」のゴールデンカーペットセレモニーに登場した映像を観たときも思いましたが、のんは本当に美しくなりました。広瀬すず、浜辺美波といった今どきのかわい子ちゃんがネコ系だとしたら、のんはイヌ系のかわい子ちゃんです(ちなみに、橋本環奈もイヌ系だと思います)。まあ、ネコもイヌもかわいいですけどね(笑)。

 それにしても、のんは美声の持ち主です。
「あまちゃん」の大ヒットで国民的アイドルとなった彼女は、その後、事務所とのトラブルで苦難の時期を迎えました。改名を経て、彼女がその魅力を再びわたしたちの前に示してくれたのは、その美しく澄んだ声でした。一条真也の映画館「この世界の片隅に」で紹介したアニメ映画で主人公すずの声を担当したのです。第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめ、世界各国でも高い評価と根強い支持を受けたこの名作で、悲嘆の淵に立ちながらも明るさを失わないすずの姿は、声優のんのイメージと見事に一致しました。

 わたしは「この世界の片隅に」が大好きで、もう何度も観直していますが、グリーフケア映画の最高傑作とさえ思っています。「星屑の町」には戸田恵子も出演しており、歌手のキティを演じています。歌謡ショーの楽屋でキティと愛が人生について語り合う場面があるのですが、なかなか感動的なやりとりでした。それにしても、よく考えたら「アンパンマン」と「すず」が会話しているわけで、すごいことですね!

「星屑の町」は、地方回りの売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」の悲哀を描く舞台「星屑の町」シリーズを映画化したものです。劇作家・演出家の水谷龍二とラサール石井、小宮孝泰が「笑ってホロリとする作品」を作ることを目指し、「星屑の会」というユニットを結成しました。平成6年に第1作「星屑の町・山田修とハローナイツ物語」が上演されたのを皮切りに全国各地で作品を上演し、平成28年には第7作目となる「完結編」、さらに平成31年冬にはアンコール上演されました。じつに四半世紀にわたって愛され続けたわけですが、映画版も出演者が高齢化はしているにせよ、なかなか味がありました。

 なによりも、昭和歌謡の名曲の数々が流れるのがいいですね。映画にはスナックでカラオケを歌うシーンも登場しますが、ここのところコロナ騒動でずっとカラオケを歌っていないことに気づきました。やはり、好きなときに映画を観れて、好きなときにカラオケを歌える日常が早く戻ってほしいです。そういうわけで映画「星屑の町」を楽しく鑑賞したわたしですが、ラストで愛が選択した新しい生き方はいただけませんでした。わたしが彼女の父親なら絶対に「それは止めておけよ」と言いたくなる選択でしたね。あのラストさえなければ、素晴らしい名作だったのですが・・・・・・。