No.470
映画「透明人間」を観ました。H・G・ウェルズの古典SFをベースとしながらも、現代を舞台にしたサイコスリラーにアレンジされています。恋人が自死した女性の物語ということで、最初はグリーフケア映画の予感がして鑑賞しました。実際はグリーフケアとは無縁でしたが、殺された肉親の復讐という要素はありました。想像していた以上の秀作であり、SFホラー映画の傑作でした。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『ゲット・アウト』や『パージ』シリーズなどのジェイソン・ブラムが製作を担当したサスペンス。自殺した恋人が透明人間になって自分に近づいていると感じる女性の恐怖を描く。メガホンを取るのは『アップグレード』などのリー・ワネル。『アス』などのエリザベス・モス、『ファースター 怒りの銃弾』などのオリヴァー・ジャクソン=コーエン、『キリング・グラウンド』などのハリエット・ダイアーのほか、オルディス・ホッジ、ストーム・リードらが出演する」
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「天才科学者で富豪のエイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の恋人セシリア(エリザベス・モス)は、彼に支配される毎日を送っていた。ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみのジェームズ(オルディス・ホッジ)の家に身を隠す。やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトム(マイケル・ドーマン)から、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられるが、彼女はそれを信じられなかった」
「透明人間」は、ユニバーサル・スタジオの礎を築くモンスターの世界の新たなる幕開けとなる「ダーク・ユニバース」シリーズの第2弾です。一条真也の映画館「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」で紹介した第1弾は、トム・クルーズを主演としながらも、期待したほどのヒットになりませんでした。同作は、1932年製作の「ミイラ再生」を新たによみがえらせたアクションアドベンチャーで、エジプトの地下深くに埋められていた王女の覚醒と、それを機に始まる恐怖を活写しているのですが、あまり怖くなかったです。ホラー映画という感じではなかったですね。
ユニバーサルといえば、モンスター映画の老舗として知られますが、同社が「アヴェンジャーズ」や「ジャスティス・リーグ」ばりのフランチャイズ企画として立ち上げたのが「ダーク・ユニバース」です。自社の財産である怪物キャラを再生させていくのが目的だと言えるでしょう。「ダーク・ユニバース」では、1920〜1950年代にユニバーサルが精力的に作っていた「ユニバーサル・モンスターズ」シリーズより、「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」「ミイラ再生」「透明人間」「フランケンシュタインの花嫁」「狼男」「オペラの怪人」「大アマゾンの半魚人」などの中からリブート作品を製作していく企画です。
「ダーク・ユニバース」のFacebook公式ページなどのSNS上では、ラッセル・クロウ、ハビエル・バルデム、トム・クルーズ、ジョニー・デップ、ソフィア・ブテラが一同に介した写真が公開されていますが、とんでもない豪華メンバーたちが新時代のモンスター映画で競演してくれることになりそうです。「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」の公開後、一条真也の映画館「美女と野獣」で紹介した映画を手掛けたビル・コンドン監督が、1935年の名作「フランケンシュタインの花嫁」で新たにメガホンを取り、ハビエル・バルデムがフランケンシュタインを演じるという話がありましたが、まだ実現していません。さらには、、ジョニー・デップが透明人間を演じるという話もありましたが、結局は実現しませんでしたね。
第1弾の大作が期待以上のヒットにならなかったためにダーク・ユニバースは打ち切りかとも囁かれましたが、低予算の700万ドルで作られた第2弾の「透明人間」が全米で2月28日に公開スマッシュヒットし、5ヵ月遅れで日本公開されたのです。透明人間のモンスター映画というよりは、見えない存在に怯えて精神が病んでいくサイコホラーとして作られていますが、これが大成功。ウェルズの『透明人間』はこれまでに何度も映画化されていますが、本作が最高傑作ではないでしょうか?
透明人間誕生のきっかけも、これまでのように、ただ新薬を飲んで全身が透明化するという設定ではありません。もともと、その設定だと色々と無理があるというか、突っ込み所が多かったです。しかし、今回の「透明人間」では、新進気鋭の光学の研究者が驚くべき方法を思いつきます。そして、21世紀の透明人が誕生するわけですが、これ以上はネタバレになるので書けません。悪しからず。
今回の「透明人間」はとにかく怖いです。透明人間そのものの本質や恐怖をよく描いていました。見えない存在というだけでも怖いのに、それが自分を攻撃してくるとしたら、その怖さはハンパではありません。どんな格闘技の達人だって、銃やナイフを持っていたって、透明人間の敵ではありません。どこかの国がこんなものを実際に兵器として開発したら、戦場では無敵でしょうね。そんな無敵の透明人間に立ち向かうヒロインのセシリアを演じたエリザベス・モスがすごく良かったです。見えない敵と戦う知恵も素晴らしいし、後半の奮闘ぶりは「エイリアン」の女主人公を演じたシガニー・ウィーパーを連想させました。
よく考えたら、フランケンシュタインの怪物や吸血鬼ドラキュラや狼男やミイラ男や半魚人などよりも、透明人間のほうがずっと怖いことに気づきました。そして、透明人間というのは悪魔や悪霊のメタファーなのだということにも気づきました。それは「不可視の邪悪なるもの」とでも呼ぶものなのです。「不可視の邪悪なるもの」ならば、ウイルスのメタファーとも言えますね。ウイルスといえば、「コロナマン」というモンスターがいずれ誕生するかも? まあ、現在は世界中どこでも、「俺はコロナだ!」と叫ぶだけで皆が逃げて行きますけどね。(苦笑)
それから、この「透明人間」という映画、H・G・ウェルズというよりも江戸川乱歩の雰囲気があると思いました。ひょっとすると、ジェイソン・ブラムかリー・ワネル監督のどちらかが乱歩ファンなのかもしれません。マッドサイエンティストとしての光学博士は『鏡地獄』の主人公のようですし、姿が見えないのに人の気配がするという不安は『人間椅子』に通じる世界、セシリアが屋根裏部屋で体験する恐怖(映画の中で最も怖いシーンでした)は『屋根裏の散歩者』に通じる世界でした。ということは、ラストシーンは『お勢登場』でしょうか。おっと、これ以上はネタバレになりますので、興味のある方は劇場でご覧ください。マスクをお忘れなく!