No.469


 日本映画「コンフィデンスマンJP プリンセス編」を観ました。コロナ禍で鳴りをひそめている映画館ですが、本来は5月に公開されるはずだったこの作品の公開が「映画館復活ののろし」的なイメージがありました。ところが、7月23日の公開日に東京都の366人をはじめ、日本全国で感染者数が激増。「第2波」の到来が確実なものとなりました。まことに不運なめぐりあわせですが、この映画をずっと観たかったのと、亡くなった三浦春馬さんの供養の気持ちも込めて、思い切って映画館に足を運びました。もちろん、ソーシャルディスタンスに配慮して、席の間隔が空けられていました。作品は非常に面白く、今回も気持ち良くダマされました!

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「2018年に放映されたドラマ『コンフィデンスマンJP』の劇場版シリーズ第2弾。香港でし烈なだまし合いを繰り広げた詐欺師たちが、今度は大富豪一族が抱える遺産を狙う。シリーズの演出・監督を務めてきた田中亮がメガホンを取る。ダー子、ボクちゃん、リチャードを演じる長澤まさみ、東出昌大、小日向文世のほか、竹内結子、江口洋介、広末涼子らシリーズに登場した面々に加え、ビビアン・スー、北大路欣也、デヴィ・スカルノらが新たに出演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「世界屈指の大富豪として知られるレイモンド・フウ(北大路欣)が逝去し、彼の子供たちのブリジット(ビビアン・スー)、クリストファー(古川雄大)、アンドリュー(白濱亜嵐)が遺産をめぐってにらみ合うが、相続人として発表されたのは所在のわからない隠し子のミシェル・フウだった。すると、10兆円とされるばく大な遺産を狙うため、世界各国から詐欺師たちが集まりミシェルを装う事態になり、信用詐欺師のダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)もフウ家に潜り込む」

「コンフィデンスマン」というのは日本語で「信用詐欺師」のことです。「コンフィデンスマンJP」のドラマや映画で仕掛けられる詐欺は非常に大掛かりです。中には「それは絶対ありえないだろう」というリアリティのない案件も多く、突っ込みどころも満載なのですが、まあ面白いからいいでしょう。大掛かりな詐欺を描いた映画といえば、「スティング」(1973年)が有名ですね。信用詐欺(コンゲーム)を扱った代表的な映画です。1936年のシカゴの下町を舞台に、3人組の詐欺師たちが繰り広げる痛快コメディ映画です。監督はジョージ・ロイ・ヒル。アメリカン・ニューシネマの代表作「明日に向って撃て!」で共演したポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが再共演を果たし大ヒットしました。 第46回アカデミー賞作品賞受賞作品であり、2005年に合衆国・国立フィルム保存委員会がアメリカ国立フィルム登録簿に新規登録した作品の1つでもあります。

 前作に続いて、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」でも、主役のダー子に扮する長澤まさみの演技が最高です。変顔も炸裂していて、役者魂を感じさせます。また、彼女は詐欺のために航空会社のCAやファッションモデルなど多様な役を演じるのですが、どれも良く似合う。スタイルが抜群なのでどんなコスプレも似合ってしまいます。一条真也の映画館「キングダム」で紹介した日本映画では、古代中国の辺境に住む「山の民」を武力で束ねる美しき女王・楊端和を演じましたが、セクシーなアクションシーンで観客を魅了しました。彼女なら、ワンダーウーマンにだってなれると思います。近作の「マザー」では祖父母殺害事件を犯す息子を溺愛する母親役を怪演しているそうですが、この作品もぜひ観たいです。

「コンフィデンスマンJP プリンセス編」の内容は、正直、ドラマを観ていないとわからないキャラやエピソードが満載です。じつは、この「コンフィデンスマンJP」というドラマ、シリーズで10作、プラスSPドラマ「運勢編」があるのですが、それらは必ずしも正しい時系列で放送されていませんでした。脚本家の古沢良太氏は、放送前のインタビューで、「とにかく暗くならないよう、明るく痛快にというのは考えています。1話1話が単独の話になっていて、あまり前後の話に相関関係がないようにしているので、放送される順番で起こる出来事は、必ずしも時系列ではないという含みを持たせたかったんです。だから、『あれはいつ起こったんだろう?』と思って見てほしいと思います」と述べています。なお、ドラマ「コンフィデンスマンJP」の時系列については、このブログが非常に参考になります

 一条真也の映画館「コンフィデンスマンJP ロマンス編」で紹介した劇場版第1弾は、とにかく面白かったです。特に、恋愛詐欺師ジェシーを演じた三浦春馬、香港の女帝ラン・リウを演じた竹内結子が良かったです。この劇場版では、長澤まさみ、東出昌大、小日向文世といったおなじみの役者陣の他にも、ドラマの各編で騙される役を演じた江口洋介(第1話・ゴッドファーザー編)、吉瀬美智子(第2話・リゾート王編)、石黒賢(第3話・美術商編)、小池徹平(第9話・スポーツ編)、佐藤隆太(第10話・コンフィデンスマン編)といった面々が登場し、さながらオールスター映画のようでしたね。子どもの頃に観た夏休みの「東映まんが祭り」で、一話完結の「仮面ライダー」に登場するショッカーの怪人たちが劇場版で一同に会した時と同じ「お得感」がありました。(笑)今回の「プリンセス編」でも、江口洋介、石黒賢が前回に続いて出演し、新たに広末涼子(SPドラマ・運勢編)、前田敦子(第7話・家族編)が参加しています。

 しかし、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」で一番印象に残ったのは、なんていってもヒロインのコックリを演じた関水渚です。広瀬すずにそっくりで驚きましたが(実際、2人はともに22歳で身長も同じ159センチ!)、彼女は映画「町田くんの世界」(2019年)に主演した新人だそうです。「町田くんの世界」は未見ですが、「舟を編む」で日本アカデミー賞最優秀監督賞を最年少で受賞し、世界から注目を集める石井裕也監督の作品です。主人公の町田くんは運動も勉強も苦手で、見た目も地味ですが、人を愛する才能がズバ抜けていました。そんな彼が初めて"わからない感情"を知った時、周りのすべての人を巻き込んでいくドラマだとか。"町田くん"こと町田一を演じた細田佳央太、ヒロインの猪倉奈々を演じた関水渚のW主演ですが、2人は1000人を超えるオーディションから大抜擢され、演技経験ゼロのまま同作に主演を果たしました。

 関水渚は1998年6月5日、神奈川県出身。一青窈やMayJ.などを輩出した森村学園中等部・高等部卒業。ホリプロ所属。石原さとみに憧れて芸能界を志し、2015年に行われた「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」のファイナリストに選ばれたことをきっかけに芸能界入りしました。2017年4月「アクエリアス」のCMでデビュー。この年に大学に進学。グラビアアイドルとしては2017年9月6日発売の「週刊少年サンデー」、11月13日発売の「ヤングマガジン」で初登場にして表紙を飾りました。初の主演映画「町田くんの世界」では、第43回山路ふみ子映画賞山路ふみ子新人女優賞、第74回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞、第62回ブルーリボン賞新人賞、第93回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞。10月クールのドラマ「4分間のマリーゴールド」でドラマ初出演。そして、2020年7月23日公開の「コンフィデンスマンJP プリンセス編」にダー子の子猫としてチームに新加入するコックリ役で出演したわけです。これからの日本映画界にとって期待の大型新人で、広瀬すずとの共演も楽しみ!

 不倫騒動でバッシングされ続けた東出昌大の姿もスクリーンで久々に観ました。唐田えりかとの不倫が報じられ、妻が妊娠・出産、育児を経験している大変な最中のアバンチュールに「東出不倫」は主婦を中心に猛バッシングに発展しました。妻・杏は離婚に向け、弁護士を立てたとも報じられています。そんな"崖っぷち"の東出でしたが、実はいま、彼のもとに仕事のオファーが殺到しているといいます。ところが、新型コロナウイルスが世界を席巻したため、テレビ番組は再放送へとシフト。6月にはアンジャッシュ渡部建の「多目的トイレ不倫」、それから芸能界から引退を表明した木下優樹菜に世間の注目がスイッチしたのです。渡部、木下と、東出の後に続いた不倫スクープがあまりにゲスすぎたため、形勢逆転。東出不倫の罪深さが薄らいできたというわけです。SNSでは、「渡部に比べて、東出の方が浮気相手を大事に扱ってる感」「ユッキーナみたいに全方位に網張ってるわけじゃないから、浮気相手と純愛と言われたらそんな気もする」という声も上がっています。

 さて、東出が復活できたもう1つの理由として、「コンフィデンスマンJP」シリーズの主役である長澤まさみが堂々と東出のサポートを明言したことが大きかったようです。映画宣伝のため、長澤、東出、小向の3人があるインタビューを受けたとき、記者から「今後、どんな役を演じたいですか」と聞かれた東出は「今の僕に‟次"を語る資格はありません」と答えたところ、長澤は「そんなこと言わないでよ」と言って泣き出したそうです。それを見ていた関係者は「東出さんのしたことは、女性にとって許せないことであり、それは長澤さんも感じていることでしょう。しかし彼女には"これまで映画を共に盛り上げてきた戦友"という思いもあるようです」と語っています。長澤は東出について「このまま俳優として終わってほしくない」いう思いがあり、「コンフィデンスマンは3人じゃないと!」と宣言したことで、今後もシリーズで東出さんの続投は決定的となったとか。当初は3作目のお蔵入りもささやかれていましたが、来年3月以降にハワイロケをする方向で話が進んでいるとか。

 そして、亡くなった三浦春馬について。
 今月19日、人気俳優として活躍していた彼はクローゼットの中で首を吊って死亡していたそうですが、わたしは一条真也の映画館「東京公園」で紹介した映画を観て以来のファンでしたので、かなりショックを受けました。まだ30歳と若く、これからが楽しみだったのに非常に残念です。彼は生真面目な性格で、ネットでの誹謗中傷などを憎んでいたとか。今年1月、彼は、スキャンダルを報じられるなどした有名人に対するネット上のバッシングが激烈を極める現状に「立ち直る言葉を国民全員で紡ぎ出せないのか」との思いをツイッターに投稿し、世間の風潮に異論を唱えました。じつは、それは友人である東出昌大を思ってのことでしたが、彼の投稿に対しては批判的な声が多く寄せられ、彼自身もネットでの誹謗中傷に悩まされることになります。

 三浦春馬が投稿した意図は不明ですが、東出昌大は何か感じ取ったことがあったようです。映画の宣伝のために出演した番組で、この件には触れずに「凄い頑張り屋さんで大好きだった彼なので、彼のした選択を言い訳にして、僕らが頑張らないっていうことを決めちゃったら、それこそ彼に対して申し訳が立たない」と声を絞り出しました。騒動からの再起を図る東出にとって、亡き友人からのメッセージは大きかったようです。また、長澤まさみは三浦春馬との突然の別れに「弟のように思っていたところがあったのでとても残念」と沈痛な面持ちで話しました。「コンフィデンスマンJP プリンセス編」に三浦春馬は天才恋愛詐欺師のジェシー役で出演していますが、ダー子を演じた長澤まさみと息の合ったダンスや掛け合いを見せてくれました。スクリーンの中で生き生きと動き回る彼がもうこの世にはいないということが信じられないほどの躍動感でした。ルックスも演技もダンスも歌(桑田佳祐から「歌がうまい」と太鼓判を押された)も最高レベルだった彼の自死は、本当に残念でなりません。
f:id:shins2m:20160908133140j:image
死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)



 拙著『唯葬論』(サンガ文庫)にも書きましたが、わたしは、すべての人間の文化の根底には「死者との交流」という目的があると考えています。さらに、拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)に書いたように、映画とは「死者との再会」という人類普遍の願いを実現するメディアであると思っています。そう、映画を観れば、わたしは大好きなヴィヴィアン・リーやオードリー・ヘップバーンやグレース・ケリーにだって、三船敏郎や高倉健や菅原文太にだって再会できます。そして、三浦春馬の出演映画を観れば、いつでも彼に会えるのです。しかし、それにしても、あまりにも才能豊かだった彼の若すぎる死が惜しまれてなりません。

 コロナ禍の中で散っていった三浦春馬は、アメリカ人にとってのジェームス・ディーンのような「永遠の生」のアイコンとなる可能性を秘めているのではないでしょうか。自死の直後に公開された「コンフィデンスマンJP プリンセス編」を劇場で観ることは、わたしにとっては彼の葬送儀礼であり、そのとき映画館はセレモニーホールと化したのです。 謹んで、故人のご冥福を心よりお祈りいたします。合掌。