No.525
公開が延期されていた日本映画「くれなずめ」をようやく観ました。結婚披露宴と二次会の「狭間」の時間に起きる奇跡にまつわる物語だと聞いていたので、ぜひ観たいと思っていた作品です。コロナ禍で思うように行われなくなった日本の結婚式について想いを馳せようと思って観たわけですが、物語が意外な展開となって、結婚式ではなく葬儀に想いを馳せてしまいました。この映画は、ヒューマンドラマでありながら、ファンタジー映画でもありました。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「劇団『ゴジゲン』を主宰し『バイプレイヤーズ』シリーズなどで知られる松居大悟監督が、実体験を基に執筆したオリジナル舞台劇を自ら映画化。友人の結婚式で余興を披露すべく集まった高校時代の旧友たちが、披露宴終了から2次会が始まるまでの時間を過ごす中で起きる出来事を描く。『カツベン!』などの成田凌が主演を務め、『アンダー・ユア・ベッド』などの高良健吾、『街の上で』などの若葉竜也のほか、浜野謙太、藤原季節、舞台版から続投する目次立樹らが出演」
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「高校時代に帰宅部だった6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに再会。久々に出会ったアラサー男たちは、披露宴と2次会の間の中途半端な時間を持て余しながら、青春時代の思い出話に花を咲かせる。彼らは今までと変わらず、これからもこの関係は続いていくのだろうと思っていたが、ある出来事が起きる」
高校時代の6人の仲間のうち、主人公・吉尾和希を成田凌、舞台演出家として活躍する藤田欽一を高良健吾、欽一の劇団に所属する舞台俳優・明石哲也を若葉竜也、後輩で唯一の家庭持ちであるサラリーマン・曽川拓を浜野謙太、同じく後輩で会社員の田島大成を藤原季節、地元のネジ工場で働く水島勇作を目次立樹が演じています。成田凌はNHK朝ドラの「おちょやん」に、高良健吾は同じくNHKの大河ドラマ「青天を衝け」にそれぞれ重要な役どころで出演中であり、なかなか豪華なキャストだと言えます。みんな演技力があって、見応えがありました。ただし、成田凌が演じる主人公は「ヨシオ」とみんなから呼ばれますが、てっきり名前だとばかり思っていたら苗字でした。それゆえ、映画の重要な場面で「和希」という名前が出てきたとき、同一人物とわかりませんでした。「吉尾」という姓は紛らわしいですね。
タイトルの「くれなずめ」とは、暮れそうで暮れない「暮れなずむ」の命令形です。「暮れなずむ」といえば、TVドラマ「3年B組金八先生」の主題歌で、海援隊が歌った「贈る言葉」の出だしの歌詞「暮れなずむ街の光と影の中~♪」を思い出します。暮れなずむ時間というのは、黄昏時のことです。黄昏(たそがれ)は、夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味ですが、昼と夜の「狭間」の時間であり、なつかしい死者に再会する時間でもあります。映画「くれなずめ」の登場人物たちも、5年前に亡くなった高校時代の友人と再会するのでした。監督の松居大悟氏は、自身の体験を基に脚本を書いたそうですので、仲間の死というグリーフを経験されているのでしょう。
『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)
ネタバレにならないように気をつけて書きますが、「くれなずめ」には、「死者は忘れられたときに、もう一度死ぬ」という言葉が登場します。拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)でも紹介しましたが、アフリカのある部族では、死者を二通りに分ける風習があるそうです。人が死んでも、生前について知る人が生きているうちは、死んだことにはなりません。生き残った者が心の中に呼び起こすことができるからです。しかし、記憶する人が死に絶えてしまったとき、死者は本当の死者になってしまうというのです。誰からも忘れ去られたとき、死者はもう一度死ぬのです。わたしは、同書に「あなたの愛する人を二度も死なせてはなりません。いつも、亡くなった人を思い出して下さい」と書きました。思い出すことによって、生者と死者との結びつきは深まるのです。
「くれなずめ」では、高校時代に帰宅部でつるんでいた6人が、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集まります。彼らは恥ずかしい余興を披露するわけですが、撮影で使われた結婚式場は互助会業界の仲間である日冠さんの「アンフェリシオン」でした。わたしもよく会議などで訪れる施設です。そこで6人組のアテンドをするウエディング・プランナー役の飯豊まりえが可愛かったです。一条真也の映画館「糸」で紹介した日本映画を観たときにも思ったのですが、結婚式というのは昔の友人に再会する場でもあります。「糸」では、菅田将暉演じる漣と小松菜奈演じる葵の中学の同級生同士が結婚し、東京のゲストハウスウエディング会場で披露宴を挙げます。そこで2人は8年ぶりに再会し、いったん止まっていた物語が再び動き始めるのです。結婚式だけでなく葬儀もそうですが、冠婚葬祭というのは思わぬ人に再会して縁を繋ぎ直す、つまり「出会い直し」の場でもあるのです。
それにしても、主演の成田凌の役柄の広さには驚きます。一条真也の映画館「ホムンクルス」で紹介した映画で奇怪なマッド・サイエンティストを演じたかと思えば、本作では内向的で優しい青年を演じることもできる。さらにはNHKの朝の顔にもなって、本当に才能豊かな役者だと思います。「くれなずめ」では、高校時代の仲間たちが高校時代の思い出を振り返りますが、わたしも高校時代のことをいろいろと思い出しました。わたしの母校は福岡県立小倉高校で、先輩に福岡県の服部誠太郎知事、後輩に武田良太総務大臣などがいます。じつは、このたび、わたしは同校の評議員に就任することになりました。依頼されたとき、「どうして、わたしが?」と思いましたが、どうやら、Wikipedia「福岡県立小倉高校」の「著名な出身者」に名前が出ているからのようです。せっかくの御縁ですので、母校の未来のために頑張りたいと思います。最後に、高校時代の親友で、現在も親しくしている同級生が咽喉がんで入院し、かなり心配していましたが、無事に手術も成功して退院しました。本当に良かったです!