No.580


 3月20日の日曜日、シネプレックス小倉で日本映画「ウェディング・ハイ」を観ました。長女の結婚式を6月5日に控え、いま、わが家はバタバタしていますが、何かの参考になればと観てみました。正直あまり期待はしていなかったのですが、想定外に面白かったです。基本的にドタバタ・コメディですが、久々に大笑いしましたね。脚本を書いたバカリズムの才能の豊かさには感嘆しました。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『殺意の道程』シリーズなどで脚本家としても活動しているお笑い芸人・バカリズムのオリジナル脚本を、『勝手にふるえてろ』などの大九明子監督が映画化。くせ者ぞろいの参列者たちによって混乱する結婚式を舞台に、敏腕ウエディングプランナーが数々のトラブルを解決すべく奔走する。主人公を『今日も嫌がらせ弁当』などの篠原涼子、新郎新婦を『水曜日が消えた』などの中村倫也と『町田くんの世界』などの関水渚が演じるほか、岩田剛典、中尾明慶、向井理、高橋克実らが出演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「石川彰人(中村倫也)と新田遥(関水渚)のカップルは、担当ウエディングプランナーの中越真帆(篠原涼子)に支えられ、結婚式当日を迎える。二人の上司によるスピーチをはじめ、余興VTRや乾杯の発声など、結婚式お決まりの演目に張り切る参列者たちの熱意が暴走し、式は思わぬ様相を呈し始める。新郎新婦から助けを求められた真帆は、披露宴スタッフと力を合わせて式を円滑に進行すべく奔走するが、式場に遥の元恋人・八代裕也(岩田剛典)が現れてしまう」

 わたしは、基本的に葬儀をテーマにした映画は必ず観ますが、結婚式をテーマにした映画はあまり観ません。理由は、フューネラル映画と違って、ウェディング映画には駄作が多いからです。しかし最近は少し様子が変わって、一条真也の読書館「くれなずめ」で紹介した作品などは異色のウェディング映画で面白かったです。また、一条真也の映画館「糸」、および「そして、バトンは渡された」で紹介した映画で描かれた結婚式のシーンは感動的でした。でも、「ウェディング・ハイ」はあまり観たいとは思いませんでした。その大きな理由には、主演女優である篠原涼子が最近、離婚したこと。それも、年老いた夫を捨てて若い韓国人アイドルとの不倫に走ったことが不愉快だったからです。彼女は、結婚式の映画にはふさわしくないとも思いました。

 しかし、主演女優への不快感を補って余りある面白い映画でした。バカリズムの脚本は本当に笑えました。三谷幸喜の名作である「ラヂオの時間」(1997年)、「みんなのいえ」(2001年)、「THE 有頂天ホテル」(2006年)、「ザ・マジックアワー」(2008年)などに通じる笑いのセンスとテンポの良さを感じました。まさに、優れた喜劇の才能と久々に出会った気分です。しかし一点だけ言わせてもらうと、ウ〇コのネタで力づくで笑わせるのは、いかがなものでしょうか? 日本お笑い界の大御所であるビートたけしも、かつて「小学生じゃあるまいし、ウ〇コで笑いを取るのは最低!」と言っていたように記憶しています。(笑)

 この映画、若手俳優が3人出演しています。中村倫也と向井理と岩田剛典で、3人とも長身でイケメンです。これだけ揃っていれば、誰が新郎を演じても良かったのでしょうが、今回は中村倫也が演じました。向井理は刑務所を出所したばかりの御祝儀泥棒の役、岩田剛典は新婦の元カレの役でした。向井も岩田もいわばカッコ悪い役ですが、特に岩田の場合は例のウ〇コのネタが関わってくることもあり、かなりの(文字通りの)汚れ役でした。「よく、こんな汚い役を引き受けたな」と思いましたが、彼の役者魂を見た気がします。一方、充実のイケメン俳優陣に比べて、メインの若手女優が関水渚だけというのは寂しかったですね。

 その関水渚演じる遥の元カレである裕也(岩田剛典)は、「この結婚は彼女の両親が仕組んだもので、彼女本人は望んでいないはず」と思い込み、結婚式場に元カノの遥を奪還に行こうとします。これは、名優ダスティン・ホフマンのデビュー作で、映画史上に残る名作「卒業」を連想させます。1967年のアメリカ合衆国の青春恋愛映画で、監督はマイク・ニコルズ、出演はダスティン・ホフマンの他に、アン・バンクロフト、キャサリン・ロスなど。アメリカン・ニューシネマを代表する作品の1つで、日本では翌1968年に公開され、大ヒットしました。

 映画のラストで、ホフマン演じるベンジャミンは、元カノのエレーン(キャサリン・ロス)が結婚式を挙げている教会に乗り込み、エレーンと新郎が今まさに誓いの口づけをした場面で「エレーン、エレーン!」と叫びます。ベンジャミンへの愛に気づくエレーンは「ベン!」と答えます。2人は手に手を取って教会を飛び出し、バスに飛び乗ります。バスの席に座ると、2人の喜びはやがて未来への不安に変わり、背後に主題歌であるサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」が流れるのでした。一方、「ウェディング・ハイ」では温泉地から駆け付けるという時間的制約から結婚式にはどうしても間に合わず、裕也は披露宴会場に乗り込もうとします。そのとき、彼の友人が「奪い返すなら、やっぱり教会じゃね? 教会なら花嫁まで一直線で行けるけど、披露宴会場だとテーブルとか障害物が多いでしょ」と言うのですが、あまりにも説得力があって納得してしまいました。

 それにしても、「ウェディング・ハイ」のキャラクターはクセ者ぞろい。映画監督になる夢をあきらめきれない映像会社スタッフ。キャバクラ嬢と不倫して家族から見捨てられ、しかもその不倫映像が社内で流出して立場を失った新郎の会社の部長。受けを狙ってコーラの2リットルボトルを一気飲みするなど、いつも道化を演じ続けている新婦の会社の課長など。それに加えて、本当は縄投げの余興がやりたかったBARのマスター、縄抜けイリュージョンの余興がやりたかった新郎の叔父など、一癖も二癖のある連中ばかりです。でも、この映画では彼らの誰をも絶望させず、それどころか人生への希望を抱かせ、心から「結婚式に参加して良かった」と思わせるところが素晴らしい!

 わたしは冠婚葬祭会社の社長を務めています。わが社にはホテルや結婚式場もあります。いわば、わたしはブライダル・ビジネスのプロです。そんな立場で観ても、じゅうぶん楽しめましたし、あと、勉強になりました。いまどきの(といっても、コロナ前の)結婚披露宴のスタイルを確認することができましたし、披露宴の最中の不測の事態に対応する場面などはドキドキしながら観ました。新郎新婦の紹介ムービー、主賓挨拶、乾杯の挨拶などが押しに押しまくって、なんと1時間も押してしまうのですが、会場には次の披露宴が控えており、延長はできません。その際のウェディング・プランナーの機転と知恵は大したものでした。例えば、20分強の祝辞ムービーを3分に短縮する場面を見て、わたしは「素晴らしい!」と膝を打ちました。ムービーに限らず、披露宴というイベント自体においても大切なのは「編集」という営みです。挨拶も余興も長ければ良いというものではなく、そこには編集が行わなければなりません。これは、わが社のウェディング・プランナーのみなさんにも、ぜひ鑑賞していただきたい!

 新郎父のマジック、新婦父のマグロの解体ショー、新郎友人の太鼓、新婦友人のダンスという4つの余興の時間がどうしても取れないとわかったとき、篠原涼子演じるウェディング・プランナーの中越真帆は「ウルトラC」で4つを共演させ、それが見事に成功したときは本当に感動しました。料理を個別に出す時間がなかったので、調理長に頼み込んで、複数の料理を併せて大皿に盛ったアイデアにも感心しました。あと、新郎新婦のお色直しを急ぐときは、BGMもテンポの速い行進曲にするなど、「なるほど!」と膝を打つようなアイデアの数々が披露されます。これは「映画だから」というレベルの話ではなく、実際の冠婚葬祭業、いやビジネス全般、さらには人生そのものにも通用する知恵の宝庫ではないでしょうか。さまざまな課題を「全体として解決する」点などは、SDGsにも通じるのではないかとさえ思いました。
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むすびびと~こころの仕事』(三五館)



 中越真帆も自身の結婚式に感動し、お世話をしてくれたウェディング・プランナーに憧れて、この仕事に就いたのでした。新郎新婦(特に新婦)のさまざまな悩みや不安に寄り添うウェディング・プランナーはまさに「サービス業」というよりは「ケア業」であると思いました。「こころの仕事」であると思います。拙著『むすびびと~こころの仕事』(三五館)で、わたしは「思いやり、感謝、感動、癒し、夢、希望など、この世には目には見えないけれども存在する大切なものがたくさんある。逆に本当に大切なものは目に見えない。そして、その本当に大切なものを売る仕事がサービス業なのですね。サービス業こそは心に残る仕事にほかなりません。愛用している自動車やパソコン、またビルや橋を見ても、それに関わった人たちの顔は浮かんできません。でも、サービス業は違います。サービス業とは、サービスしてくれた人の顔が浮かんでくる仕事です。お客様の心に自分の顔が浮かんでくる仕事、こんな贅沢なことはありませんね。まさに、『こころの仕事』です」と書きましたが、今なら「サービス業」を「ケア業」に書き換えたいです。「こころの仕事」は、まさに「ケア業」!

 コロナ禍で、多くの結婚式が延期や中止になりました。その結果、多くのグリーフが生まれました。ようやく新規感染者も減少傾向となり、春の訪れもあって、結婚式を挙げる気運が高まってきました。現在、わたしが副会長を務める全互協をはじめとしたブライダル業界が一丸となって、「全国結婚式応援キャンペーン」が行われています。本キャンペーンでは、2022年2月1日から4月30日までの応募期間中、サイトからのご応募、または協賛会場でご成約いただいた方にSS賞「計2組に500万円相当の結婚式」、S賞「計7組に250万円相当の結婚式」、A賞「5組に、ご家族と故郷で前撮り」などのプレゼントを行っています。そのムービーには福岡の修猷館高校出身の女優・井桁弘江さんが出演していますが、全互協の会議でこの動画を初めて観たとき、自分の娘の姿と重なって不覚にも落涙しました。最後に「ふたりを、みんなを、幸せにする。結婚式をしよう。」と大声で言いたいです!