No.618


 シネマート新宿で映画「セルビアン・フィルム」を観ました。これまでの人生で観た映画の中で、最も不愉快で胸糞の悪い最低の映画でした!

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「生活のために高額ギャラの仕事を引き受けた元ポルノ男優が、悪夢のような出来事を体験する戦慄のハードコア・スリラー。そのあまりにも過激でグロテスクな内容から、世界各国のホラー・ファンタジー系映画祭を騒然とさせた。そんな問題作のメガホンを取ったのは、セルビアの新鋭、スルディアン・スパソイェヴィッチ。主演は、『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』のスルジャン・トドロヴィッチ。容赦のないバイオレンスにポルノ・シーン、さらには常軌を逸したストーリーにぼう然となる」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「元ポルノスターのミロシュ(スルジャン・トドロヴィッチ)は、高額ギャラをもらえる映画への出演を持ちかけられる。妻子との平凡な日々を送っていたものの、生活に困っていたこともあり、ミロシュは怪しみながらも迎えの高級車で依頼人の元へ。そこでミロシュは、富豪のクライアントの要求に応える芸術的なポルノ映画に出演してほしいと頼まれ......」

 この映画のポスターには、「人でなしの映画。」というキャッチコピーとともに「これが噂の鬼畜残酷ホラー史上、一番ヤバいやつ。一生分のトラウマがここにある」と書かれています。一応、「ホラー」とあるので、ちょっと苦手な新宿まで嬉々として観に行きました。じつは、この夏は一条真也の映画館「ブラック・フォン」「Xエックス」「哭悲/THE SADNESS」「女神の継承」などなど、ホラー映画が豊作なのですが、わたしはすべてを観ています。「最後に『セルビアン・フィルム』も押さえて、パーフェクト!」と意気込みましたが、上映開始後すぐに違和感を覚えました。すなわち、「これって、ポルノ?」と思ったのです。ただのポルノは次第にハードコア・ポルノになっていきましたが、ある地点から一気に狂気の鬼畜映画に! なんと言いますか、ポルノ映画が1周回ってホラー映画になった感じですね。はい。

 その中でも、「Xエックス」がちょっと「セルビアン・フィルム」に近い印象があります。というのも、ポルノ×映画撮影×ホラーという三重構造が同じだからです。もっとも、「セルビアン・フィルム」の方が圧倒的に下劣ですが。「Xエックス」は、ある老夫婦が暮らす家に足を踏み入れた若者たちの運命を描いています。1979年のアメリカ・テキサス州を舞台に、3組のカップルが映画撮影のために訪れた農場で悪夢のような出来事に遭遇します。女優のマキシーン(ミア・ゴス)、マネージャーのウェインをはじめ6人の男女は、映画「農場の娘たち」を撮影するために借りた農場を訪れます。そこで彼らを迎え入れた老人ハワードは、宿泊場所となる納屋へ一同を案内します。一方マキシーンは、母屋の窓から自分たちを凝視する女性に気付くのでした。

 映像のグロさ、衝撃度から言えば、「哭悲/THE SADNESS」で紹介した台湾ホラーも「セルビアン・フィルム」に通じるところがあります。というか、負傷して眼球が取れた人物の眼窩にイカれた野郎がペニスを突っ込むショッキング・シーンは両作品に共通しています。「セルビアン・フィルム」は2012年公開で、「哭悲/THE SADNESS」は10年後の2022年公開なので、おそらく後者が前者の影響を受けたのでしょう。「哭悲/THE SADNESS」は、人が感染すると凶暴化する未知のウイルス「アルヴィン」がまん延した台湾で、決死のサバイバルに挑む人々の姿を描いています。感染しても風邪に似た軽い症状しか現れないことからアルヴィンに対する警戒心が緩んでいましたが、突如ウイルスが変異します。感染者たちは凶暴性を増大させ、罪悪感を抱きながらも殺人や拷問といった残虐な行為を始めるのでした。

 「Xエックス」も、「哭悲/THE SADNESS」も、ホラー映画というよりは鬼畜映画と呼んだ方がいい内容です。しかし、そんな両作品も「セルビアン・フィルム」の鬼畜度には到底かないません。とにかく、「セルビアン・フィルム」は度外れてヤバい映画なのです。ネタバレになるのであまり書きたくはありませんが、レイプや拷問や同性姦などは当然のこと、一般にはタブーとされる獣姦や屍姦や近親相姦も当然で、なんと新生児姦などという神をも恐れぬトンデモFUCKの数々が登場するのです。もう、この映画そのものがFUCKINな存在で、観ていて呆然としました。「よくぞ、まあ、ここまでやったもんだ!」と変な意味で感心してしまいましたね。この映画のレビューの中に「R-30くらいでいい。」というものがありましたが、わたしも同感です。

 それにしても、こんな観るに堪えない残酷映画をわざわざ4Kリマスターで映像をクリアにする必要があるのか? わたしには疑問です。そもそも、こんな下劣な映画を企画して製作すること自体も疑問です。疑問といえば、1人で鑑賞している年配のご婦人が何人かいましたが、「あのお婆さん、こんな鬼畜映画だと知っていて観に来たの?」と思いました。また、若いカップルも何組かいたのにビックリ! 「デートでこんな気持ちの悪い映画観て、どうするの?」と彼らにインタビューしてみたくなりました。わたしの娘が彼氏からこの映画に誘われたとしたら、即刻、「そんな変態男とは別れなさい!」と言うと思います。わたし自身、「これを観たことをブログで発信すれば、自分の品性が疑われないか」と、そんな心配をしてしまうぐらい、とにかくトンデモなく、ヤバい映画なのです!!

 上映されたシネマート新宿の真向かいには新宿伊勢丹がありますが、わたしは「伊勢丹で高級ブランド品とか買い物しているお客さんたちは、すぐ近くで最低の狂った鬼畜映画が上映されているのを知っているのだろうか?」と余計な心配をしてしまうほどのクレージー・ムービーでした。でも、「そんなに不愉快だったのなら、観ない方が良かったか」といえば、そうは思いません。「映画というのは、ここまで醜悪な世界も描くことができる」ということがわかり、映画表現における可能性のようなことまで考えることができました。ちなみに、本作は「トラウマ映画」の代表作とのことですが、わたしにはトラウマは残りませんでした。鑑賞直後は「うへー、嫌なものを観てしまった!」とは思いましたが、その後に旨い鮨をつまみながら好きな冷酒を飲んだら、すべてを忘れてゴキゲンになりました。半世紀以上をかけてホラー免疫のできているわたしのメンタルは、そんなにヤワではないのです!