No.625


 映画「NOPE/ノープ」をシネプレックス小倉で観ました。8月26日公開で、もっと早く観たかったのですが、諸般の事情で鑑賞が遅れました。タイトルの「NOPE」は「ありえない」という意味で、一条真也の映画館「ゲット・アウト」「アス」で紹介したジョーダン・ピール監督の最新作です。わたしは、この監督がお気に入りなのですが、今回も非常に面白かったです!

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『ゲット・アウト』『アス』などのジョーダン・ピールが監督、脚本、製作を務めたサスペンススリラー。田舎町の上空に現れた謎の飛行物体をカメラに収めようと挑む兄妹が、思わぬ事態に直面する。『ゲット・アウト』でもピール監督と組んだダニエル・カルーヤ、『ハスラーズ』などのキキ・パーマー、『ミナリ』などのスティーヴン・ユァンのほか、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアらが出演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「田舎町に暮らし、広大な牧場を経営する一家。家業を放って町に繰り出す妹にあきれる長男が父親と会話をしていると、突然空から異物が降り注ぎ、止んだときには父親は亡くなっていた。死の直前、父親が雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目にしていたと兄は妹に話し、彼らはその飛行物体の動画を公開しようと思いつく。撮影技術者に声を掛けてカメラに収めようとするが、想像もしていなかった事態が彼らに降りかかる」

 予告編からではっきり示しているように、この映画にはUFOが登場します。UFOというのは「未確認飛行物体」という意味ですが、最近ではUAP(未確認航空現象)という言葉が使われるようです。映画の中でも紹介されていましたね。そのUFO・UAPの正体は意外な存在でした。ネタバレになるので詳しく書くことはやめますが、子どもの頃は怪獣大好き少年だったわたしは、東宝の特撮SF映画「宇宙大怪獣ドゴラ」(1964年)や「ウルトラQ」の第11話「バルンガ」を連想しました。しかし、「怪獣の造形は、アメリカより日本の方が優れているなあ」とも思いましたね。

 ジョーダン・ピールは黒人監督ですが、「ゲット・アス」で黒人を差別する白人への憎しみを見事にスクリーンで表現しました。この「NOPE/ノープ」でも、白人への嫌悪感が強く漂ってきます。映画の草創期に貢献した黒人の子孫が映画界からぞんざいな扱いを受けるという描写もそうですが、映画の撮影中にチンパンジーが凶暴になって人間を襲うシーンが印象的でした。チンパンジーは共演した白人たちを殺戮するのですが、ジュープというアジア人の少年にだけは敵意を見せず、それどころか友好のサインであるグータッチをしようとします。現在でも、アジア人を「イエロー・モンキー」と呼ぶ白人は多くいますが、チンパンジーはジュープが同じ見世物であり道化であると共感したのかもしれません。

 その意味では、「Gジャン」と呼ばれたUFO・UAPもチンパンジーと同じように、自らを見世物として扱う人間を攻撃します。ネタバレにならないようにギリギリの線で言うと、Gジャンを直視した者は殺され、視線を逸らした者は救われます。まるで見た者を石に変えてしまう妖女ゴーゴンやメドゥーサのようですが、見ることによって命を奪われる存在というのは、まるで映画そのもののメタファーではないかと思いました。それにしても、ジョーダン・ピールという人は、よくこんな発想ができるものです。

 「ゲット・アウト」や「アス」のときも大いに驚かされましたが、今回の「NOPE/ノープ」も奇想天外な映画でした。わたしは最初に彼を知ったとき、その奇想ぶりから「M・ナイト・シャマランの再来」のように思っていましたが、シャマランは「シックス・センス」(1999年)に感動した観客をその後は裏切り続けています。シャマラン作品には、「NOPE/ノープ」と似たテーマの「サイン」(2002年)がありますが、これはどうしようもないトンデモ映画でした。同じような題材を扱っても「NOPE/ノープ」とは月とスッポン。ジョーダン・ピールは、シャマランをとっくに超えてしまいましたね。