No.651


 11月23日の勤労感謝の日、シネプレックス小倉で日本映画「母性」を観ました。 一条真也の映画館「告白」で紹介した映画と同じく、湊かなえの小説を映画化した作品ですが、いろんな意味で不愉快な内容でしたね。ストーリー自体は面白いのですが、観ていると心がざわつくのです。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「実写化もされた『告白』『ポイズンドーター・ホーリーマザー』などで知られる湊かなえの小説を映画化。一人の女子高生の死を巡り、母と娘それぞれの視点によって衝撃的な事実が浮かび上がる。監督を『ナミヤ雑貨店の奇蹟』などの廣木隆一、脚本を『窮鼠はチーズの夢を見る』などの堀泉杏が担当。娘を愛せない母を『SPEC』シリーズなどの戸田恵梨香、母の愛を求める娘を『マイ・ブロークン・マリコ』などの永野芽郁が演じるほか、三浦誠己、中村ゆり、山下リオ、高畑淳子、大地真央らが出演する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「ある日、女子高生の遺体が発見される。事故や自殺か、あるいは他殺なのか、その真相は不明だった。悲劇に至るまでの過程が母・ルミ子(戸田恵梨香)と娘・清佳(永野芽郁)それぞれの視点で明らかになっていくものの、双方の証言は同じ出来事を回想しているにもかかわらず食い違い、母と娘の複雑な関係が浮き彫りになる」
 
 累計100万部突破というベストセラーの原作小説は、アマゾンの内容紹介に事故か、自殺か、殺人か――。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる事件の真相とは。圧倒的に新しい、母娘ミステリー!」「女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。『愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて』。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。......遡ること11年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも――。圧倒的に新しい、『母と娘』を巡る物語(ミステリー)」と書かれています。
 
 作家・湊かなえは、小説に登場する人物たちの心理描写に長けています。それは、あまりにもリアル過ぎるゆえに、しばしば読者に不快感を与えます。彼女の小説を映画化した「母性」という映画も、非常に不愉快な内容でした。というのも、登場人物たちの1人1人に、わたしの周囲によく似た人物がいるからです。あまり詳しく書くと、わたし自身のプライバシーが守れなくなるので控えますが、近くにいる人間たちの良くない面が次々に連想されて、嫌になりました。きっと、わたし以外にもそういう観客はいたのではないでしょうか。こういう嫌な気分にさせるというのは原作小説が人間の深層心理をよく捉えているからだと思います。映画の方は、冒頭で自死を図った女子高生が誰だったのかがわかりにくかったことを含めて、少々説明不足ではないかと思える点が多々ありました。
 
 この映画、女優たちの競演が素晴らしいです。一条真也の映画館「そして、バトンは渡された」「マイ・ブロークン・マリコ」で紹介した映画で主演を務めた永野芽衣の存在感と演技力は相変わらず輝いていました。彼女が演じた清佳の母親のルミ子を演じた戸田恵梨香も良かったです。映画ではくたびれた農家の嫁を演じた彼女が舞台挨拶などでは見違えるように美しい姿で登場したのを見て、「やっぱり女優はすごいなあ!」と感心しました。ルミ子の母親(清佳の祖母)を演じた大地真央もなかなかの演技でした。アイフルのCMでの女将さん役とはまったく印象が違いましたね。そして、清佳の父方の祖母を演じた高畑淳子が最高でした。これ以上ない嫌な姑の役で、しかも「こういう婆さん、現実にいるよなあ」と思わせる怪演でした。日本アカデミー賞の助演女優賞ものだと思います。
 
 そんな高畑淳子、大地真央、戸田恵梨香、永野芽衣といった豪華女優陣が、それぞれの「母性」を表現します。そして、女性は命を繋いでいく当事者であることを示します。映画の中で、高校教師の清佳(永野芽郁)が先輩の男性国語教師を居酒屋に誘うシーンがあります。2人は彼らの高校で死亡した女生徒の死因に母親が関わっているのではないかと疑っており、そのことについて話し合います。清佳が「母性とは何ですか?」と質問すると、先輩は「それは、女性が子どもを愛して、育てようとする本能だよ」と答えます。しかし、清佳は「さすが、国語教師。辞書みたいな答ですね」と言って、その答を否定します。そして彼女は、「母性とは本能ではなく、後天的なものだと思います」と言うのでした。
 
 そう、母性は,本能的に女性に備わっているものではありません。それは、あくまでも文化的・社会的特性なのです。母性は、その女性の人間形成過程,とりわけ3~4歳ころの母親とのか関わりによって個人差があるといいます。コトバンクによれば、今日では、母性を「生物学的に見て体の中に、受精、妊娠、生産、授乳することのできる生殖機能を備えている性」と限定して使われており,女性が母性機能を持つことへの必要な配慮と保護を加えつつ,社会的参加を含む女性の個性や自己表現の機会均等を実現していくことが求められているそうです。ならば、戸田恵梨香が演じたルミ子のように先天的に母性が薄い女性もいるのではないでしょうか。
 
 男性であるわたしには「母性」についてはよくわかりません。頭ではわかっても、体で理解できません。でも、子どもはいるので「父性」については何となくわかります。映画「母性」に登場する人物の中で、最も不愉快だったのは三浦誠己が演じたルミ子の夫、清佳の父親でした。この男、姑から嫁も守れず、娘の真摯な問いかけにも答えられず、まったく情けない限りで、父親失格です。彼は大学時代に学生運動を身を投じて挫折したようですが、そんなことは妻や娘を守れないことの言い訳にはありません。清佳は父が参加していた学生運動とやらが日米安保とかベトナム戦争などに反対していたことを知り、「そんなものに反対して挫折したって、ちっとも自分は傷つかないじゃないの!」と父に言い放ちますが、まったくその通りです。学生運動の闘士など「大きな敵」と闘っていると錯覚しても、しょせんは自分の家族も守れない弱虫ばかりでした。
 
 ブログ「明日は、ブレイキングダウン6」ブログ「今日は、ブレキングダウン6」で紹介した格闘技イベントの出場者たちの幼稚な煽りや振る舞いを見ても、つくづく「日本には父性が足りない」と感じました。さらに言えば、「強い親父がいなくなった」と痛感します。強い親父といえば、亡くなったアントニオ猪木さんを思い出します。猪木さんは、実際の子というよりも、多くの弟子たちにとって強い親父でした。一条真也の映画館「ACACIA―アカシア―」で紹介した日本映画を監督した辻仁成氏も、「父性のシンボルといえば猪木さんしかいない」と考えて、「ACACIA―アカシア―」の主演をオファーしたそうです。
シネプレックス小倉で「レッドシューズ」を告知
 
 最後に、シネプレックス小倉の通路に新作映画の「レッドシューズ」が告知されています。この日初めて同作の予告編もスクリーンで観ましたが、ブログ「二度目の映画出演」で紹介した、わたしの出演作です。雑賀俊朗監督の最新作で、朝比奈彩主演。共演に佐々木希、観月ありさ、松下由樹など。全編オールロケを行った北九州市での先行上映が12月9日から始まりますが、なんと、わたしが舞台挨拶で朝比奈彩ちゃんに花束贈呈することになりました。今から、ワクワクが止まりません!