No.676
 

 2月12日の日曜日は暖かったですね。小倉の気温は16度にまで上昇しました。その日の夜、シネプレックス小倉で日本映画「#マンホール」を観ました。一条真也の映画館「そして僕は途方に暮れる」で紹介した映画を観て「やっぱり、ジャニーズ・タレントの俳優力すごいな!」と思っての鑑賞でしたが、結果は大正解。ホラー寄りのサスペンスでしたが、いやあムチャクチャ面白かったです。これはおススメ!
 
 ヤフー映画の「解説」には、「アイドルグループ『Hey!Say!JUMP』の中島裕翔主演によるサスペンス。マンホールに転落して出られなくなってしまった男が、SNSを駆使して脱出を試みる。メガホンを取るのは『武曲 MUKOKU』などの熊切和嘉。原案・脚本は『ライアーゲーム』シリーズなどの岡田道尚」とあります。
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「不動産会社に勤務し、トップの営業成績を誇る川村俊介(中島裕翔)。社長令嬢との結婚式を明日に控えた川村のためにサプライズパーティーが開かれるが、ひどく酔った彼はその帰り道にマンホールに転落してしまう。マンホールの底で目を覚ました彼は、スマートフォンのGPS機能を使って自分の居場所を特定しようとするも誤作動してしまう。知人や元恋人、警察に助けを求めるものの、状況は変わらずに時間だけが過ぎていく」
 
 この映画は感想を述べるだけでネタバレになるリスクがあります。予告編を観て、なんとなくフジテレビの「世にも奇妙な物語」みたいな映画ではないかと思いました。特に、1995年4月3日に放映された「トイレの落書き」という当時SMAPの木村拓哉が主演した作品を連想。地下鉄のトイレに閉じ込められたキムタクがありとあらゆる手段で生き延びようとするサバイバル・サスペンスでしたが、本作「#マンホール」はその斜め上を行っていましたね。スマホで現在位置を調べたところ渋谷を指したので、渋谷署に連絡したりするのですが、まともに取り合ってもらえないあたりから不穏な空気が流れ始めます。最初は、マンホールの穴から満月が見えていましたが、この月が「ようこそ、奇妙な世界へ!」と語っているようでした。
 
 中島裕翔演じる俊介は、あらゆるスマホの機能を使ってマンホールの場所探ろうとします。そのうち、ツイッターのアカウントを作成してツイートを投稿。それを読んだフォロワーたちから続々と情報が集まってくる様子を観て、一条真也の映画館「search/サーチ」で紹介したハリウッド映画を思い出しました。「娘が行方不明 唯一の手がかりは24億8千万人のSNSの中にある」のキャッチコピーで、失踪した16歳の娘を捜すために彼女のパソコンを操作する父親の姿が描かれます。家出なのか誘拐なのか不明のまま37時間が経過。娘の生存を信じる父親は、娘のパソコンでInstagramなどのSNSにログインしますが、そこで彼が見たのは自分が知らなかった娘の一面でした。100%すべてPC画面の映像で展開するサスペンス・スリラーの傑作です。
 
 また、スマホの動画で通過する電車の音を録音して、それをツイッターに投稿し、フォロワーたちに分析させるというシーンからは、一条真也の映画館「THE GUILTY/ギルティ」で紹介したデンマーク映画を連想しました。主人公が電話の声と音を通して誘拐事件の解決を図ろうとする異色サスペンスです。この映画が長編初監督作となるグスタフ・モーラーが、緊急ダイヤルの通話を頼りに誘拐事件と向き合うオペレーターの奮闘を描きます。警察官のアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)はある事件を機に現場を離れ、緊急通報司令室のオペレーターとして勤務していました。交通事故の緊急搬送手配などをこなす毎日を送っていたある日、誘拐されている最中の女性から通報を受けます。そこからは観客に息もつかせぬ緊迫のドラマが展開していくのでした。
 
 この映画、正直言ってツッコミどころは多いです。何よりも、あれだけスマホで一晩中電話をかけ続け、ツイッターはまだしも、動画撮影や動画の投稿という最もバッテリーを消費する行為を続けながら、俊介のスマホのバッテリーがほとんど減らない(後半でバッテリーの残量が映りましたが、ほぼ満タン近かったです!)ことに違和感をおぼえたのは、わたしだけではありますまい。あと、映画の後半で俊介が落ちたマンホールの位置が判明しますが、渋谷で飲んでいて歩いて帰っていたのに、どうしてその場所にあるマンホールに落ちたのかがよくわかりません。原因となった人物も判明するのですが、その人物が1人で俊介を拉致してその場所まで連れて行くのは、どう考えてもリアリティに欠けるのです。「映画だから、そんなこと、どうでもいいだろ!」という声も聞こえてきそうですが、わたしは細部にリアリティが感じられないと気になって仕方がない人間なのです。どうも、すいません!
 
 しかしながら、わたしが抱いた些細な違和感や疑問など忘れさせるぐらいに俊介を演じた中島裕翔が最高でした。というか、99分の上映時間のほぼ大半が彼の一人芝居なのですが、まったく飽きさせませんでした。舞台の一人芝居というのは珍しくありませんが、映画館の大スクリーンに約1時間半、1人の俳優しか映らないというのは、わたしは寡聞にして他の例を知りません。これは本当に凄いことだと思います。それにしても、ジャニーズ事務所にはどうしてこんなに名優が揃っているのでしょうか。先に紹介した木村拓哉をはじめ、岡田准一、二宮和也、藤ヶ谷太輔、そして最近では目黒蓮......本当に、みんな素晴らしい役者です。中島裕翔も含めて、一度、ジャニーズ名優総出演の映画を観たいものですね!
 
「#マンホール」の主人公・俊介は、結婚式の前夜にサプライズで同僚たちから結婚祝いをされますが、そこで泥酔し、果ては蓋の開いたマンホールに落ちてしまったわけです。最後に明らかになる真相には驚かされますが、わたしは「結婚式を祝うサプライズには気をつけないと」と思いました。そもそも、大事な結婚式の前の晩に出歩くものではありません。そして、「サプライズ」「穴」というキーワードから、どうしても、2011年8月に石川県の海岸で起こった不幸な事件を思い出してしまいます。当時23歳の新婚夫婦が友人らが掘った落とし穴に誤って転落死亡する事故が発生したのです。夫の誕生日のサプライズのために、妻は友人たちと一緒に砂浜に巨大落とし穴を掘りました。そして、妻は夫と一緒にその落とし穴に落ちます。サプライズ成功かと思いきや、夫婦は頭から落ちて、頭から上半身が砂に埋まってしまい、窒息死するという痛ましい事故になったのです。この事件のニュースに接して以来、わたしは「サプライズ」が怖くなりました。犠牲となられたご夫妻の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌。