No.705


 4月16日の日曜日、日本映画「世界の終わりから」をT・ジョイリバーウォーク北九州で観ました。わたしはメガホンを取った紀里谷和明監督のデビュー作「CASSHERN」(2004年)が大好きなのです。また、一条真也の映画館「さがす」で紹介した昨年1月公開の映画で熱演した伊東蒼に注目していて、彼女が主演と聞いて、上映ラスト1日前に鑑賞。「なんだか凄いものを観たな」とは感じましたが、この映画が傑作なのか駄作なのかは迷うところです。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『CASSHERN』『ラスト・ナイツ』などの紀里谷和明監督が、世界を救うために力を尽くす女子高校生の姿を描いたドラマ。親を亡くして生きる希望を失った主人公のもとに、突然政府の特別機関を名乗る人物が訪れる。主人公を『湯を沸かすほどの熱い愛』や『さがす』などの伊東蒼が演じる」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「高校生の志門ハナ(伊東蒼)は事故で親を亡くし、学校にも居場所がなく、生きる希望を持てずにいた。ある日、ハナの前に政府の特別機関を名乗る男性が現れる。彼はハナに自分の見た夢を教えるように頼むが、彼女は混乱してしまう。しかしその日の夜、ハナは奇妙な夢を見る」
 
「CASSHERN」を観たときの衝撃は今でも記憶しています。紀里谷監督は宇多田ヒカルのミュージックビデオ「FINAL DISTANCE」や「traveling」の演出家として知られており、彼女の夫でもありました。1970年代に人気を博したタツノコプロの名作アニメを、製作費6億円をかけて実写映画化。"新造人間"として蘇った孤高のヒーロー、キャシャーンこと東鉄也が壮絶な戦いを繰り広げる物語です。紀里谷監督をはじめとする気鋭の映像スタッフが手掛けた先駆的で美しいビジュアルが素晴らしかったです。主演の伊勢谷祐介さんに六本木ヒルズのクラブで開かれたパーティーでお会いしたとき、わたしが彼に「『CASSHERN』、素晴らしかったです。日本映画の最高傑作だと思いました」と言うと、彼は「本当っすか!」とすごく嬉しそうな顔をしました。宗教哲学者の鎌田東二先生も同作を絶賛していました。
 
「さがす」で失踪した父親を捜す女子中学生の楓を演じた伊東蒼を初めて知ったときも衝撃を受けました。彼女は2005年9月16日生まれで、現在17歳。大阪府大阪市出身。2011年、6歳の時にドラマ「アントキノイノチ〜プロローグ〜 天国への引越し屋」でデビュー。2016年、一条真也の映画館「湯を沸かすほどの熱い愛」で紹介した同年の多くの映画賞を受賞した話題作で子役ながらに重要な役どころを演じ、「第31回高崎映画祭 最優秀新人女優賞」を受賞。2017年には「島々清しゃ」で映画初主演を務め、「第72回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞」を12歳という史上2番目の若さで受賞しています。「湯を沸かすほどの熱い愛」で共演した杉咲花のように、いずれはNHK朝の連続テレビ小説のヒロインを演じる可能性を持った有望女優ですね。
 
 このように、わたしに衝撃を与えた監督と女優がタッグを組んだ作品が「世界の終わりから」なのです。不幸続きの女子高生が「世界を救う役割」を押し付けられる終末セカイ系映画ですが、原作と脚本も紀里谷監督が担当しています。これが、ちょっと「?」な感じなのです。夢というマルチバースを題材にしているところはまだいいのですが、その他の物語の設定に無理がありすぎるように感じました。夏木マリの役が湯婆婆そのもので、カオナシみたいなキャラも出てきて、なんだか伊東蒼まで「千と千尋」に見えてきました。あと、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の影響も明らかですね。それにしても、本編の1部を8夜にわたって先行配信するという試みには仰天しました。公開前の映画のかなりの部分をタダで観ることができるわけです。わたしは、本番の鑑賞体験が損なわれるので第1話しか観ませんでしたけど。
 
 両親を事故で亡くした高校生の志門ハナ(伊東蒼)は、学校でも弱みを握られたレイナ(前田悠雅)にいじめられ、友達は幼馴染のタケル(若林時英)しかいませんでした。ある日、ハナは不思議な夢を見ます。戦国時代のような場所で、侍同士が殺し合っていました。そこにいた少女ユキ(増田光桜)に助けられたハナは、侍たちを振り払って、ユキの家へと向かいます。しかし、彼女の両親はすでに殺されており、ハナとユキは侍に取り囲まれてしまいます。そんな2人の前に無限(北村一輝)と呼ばれる侍の長が現れるのでした。夢から醒めたハナは、警視庁の警備課に所属する江崎(毎熊克哉)と佐伯(朝比奈彩)が彼女をある場所に連れ去ります。そこには不可思議な老婆(夏木マリ)がいて、見覚えのある奇妙な文字で埋め尽くされた分厚い本を読んでいました。その本には「世界のすべて」が記されており、世界は数週間後に滅びるというのです。さらに老婆は「お前の夢が世界を救う」とまで言います。
 
 その日から江崎と佐伯がハナを護衛することになり、夢を見るたびに謎のアジトに連れていかれることになります。黒ずくめのファッションで決めた女性刑事の佐伯がえらい美人さんだと思っていたら、なんと、朝比奈彩さんでした。一条真也の映画館「レッドシューズ」で紹介した今年2月24日から全国公開された映画の主演女優です。この映画にわたしも出演していた御縁で、ブログ「花束贈呈と舞台挨拶」で紹介したように、昨年12月9日に行われた北九州先行上映の舞台挨拶で、主演の朝比奈彩さんと松下由樹さん、雑賀俊朗監督に花束をお渡ししました。場所は、ちょうど「世界の終わりから」と同じT・ジョイリバーウォーク北九州で、シアターの番号まで同じでした。「世界の終わりから」を観て、改めて朝比奈さんの美貌に魅せられましたが、「レッドシューズ」ではいつも地味なファッションや髪型をしていました。もったいなかったですね!
 
「世界の終わりから」では、マルチバースとしての夢の世界が明かされていく中で、未来の映像が絡んでくる流れになっています。未来はソラ(冨永愛)だけが生き残っている世界で、AI(声:又吉直樹)だけが唯一の話し相手でした。ソラは荒廃した砂漠で何かを探していて、それが世界を救う何かであると信じていました。一方、遥かな過去に生きるハナは自分勝手な人々に苛まれていながら、彼女自身は人類のために行動を強いられます。当然ながら、彼女は「この世界は救うべき価値のあるのものなのか」を問い続けます。両親はおらず、唯一の肉親であった祖母も亡くなり、天涯孤独となったハナ。SNSで身バレしたために執拗なネットリンチに遭い、心ない誹謗中傷に晒されるところも見ていて辛かったです。
 
 それにしても、「世界の終わりから」は奇妙な映画です。ファンタジーであり、SFでもありますが、「世界は不条理で救いがない。自分も死ぬのだから、他の人間も道連れにして死ぬべき」というニヒリズムが全篇に漂います。それでも、最後の最後で「世界を愛する」という精神が示されるのですが、こんなヘビーな映画を135分も観せられてはグッタリ疲れてしまいます。美術的な素晴らしさ、人物描写の繊細さ、世界が終わっていくチープ感は「CASSHERN」を思わせるものがありました。紀里谷監督は1968年、熊本県球磨郡あさぎり町(旧免田町)出身。1983年、中学2年終了と同時に中退し、単身アメリカのサンディエゴに向かいました。ニューヨークに在住していた26歳以降にCM、広告、雑誌のアートディレクションなど幅広く活躍。撮影を通じて知り合った宇多田ヒカルと2002年に結婚しましたが、2007年に離婚。
 
「世界の終わりから」の演出ですが、正直ちょっとくどく感じました。特に、伊東蒼演じるハナが涙を流すシーンが多すぎると思いました。あまりにも何度も何度も彼女を泣かせるので、いいかげん「もっと他の演出はないのか」と心の中で叫びました。しかし、映画の完成披露舞台挨拶で紀里谷監督が泣き出した姿を見て、納得できるものがありました。彼は現在54歳ですが、デビュー作の「CASSHERN」から本作「世界の終わりから」まで全5作という非常に寡作の映画監督です。きっと、この映画の製作にかける想いには強いものがあったのでしょう。「どうして、世界は自分の願い通りにならないんだ!」という焦りや怒りもあったかもしれません。そんな中でようやく作りたかった映画が完成し、舞台挨拶にまで至って感無量になったと想像することができます。それと、「涙は世界で一番小さな海」ということで、「本当に世界を救うには、涙という海を通じて人類の心が1つにならないと」とのメッセージが込められていたというのは考えすぎか?
 
 紀里谷監督は、とても純粋な人だと思います。子供の頃に好きだった「新造人間キャシャーン」を映画化し、映画監督デビューしました。2009年には2作目「GOEMON」を制作し、明智光秀役で俳優としても出演。2012年チェコで、クライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン出演の映画「ラスト・ナイツ」を撮影、2015年に公開しています。そんな紀里谷監督が自身の「好きな映画ベスト3」をネット番組で公表していました。それによれば、1位が「地獄の黙示録」、2位が「シン・レッドライン」、3位が「エレファントマン」だそうです。どれも異色の作品ばかりですが、監督いわく「衝撃を受けて、後の人生が変わった映画」「神がかった奇跡の映画」をセレクトしたとのこと。「シン・レッドライン」は「CASSHARN」に多大な影響を与えたそうです。そんな紀里谷監督の入魂の最新作である「世界の終わりから」は超ヘビーな力作でした。鑑賞後は、かなり疲れましたね。