No.856
日英合作映画「コットンテール」をシネプレックス小倉で観ました。主演のリリー・フランキーは北九州市出身で、わたしと同い年です。彼のことは正直言って苦手なのですが、この作品は予告編に葬儀のシーンがあり、グリーフケアの香りがプンプンしたので観ることにしました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『万引き家族』などのリリー・フランキー、『ベルファスト』などのキアラン・ハインズらが共演した、イギリス、日本合作の家族ドラマ。イギリスにある「ピーターラビット」発祥の地に遺骨を散骨してほしいという亡き妻の願いをかなえようとする、夫と息子一家の姿を描く。監督はパトリック・ディキンソン。『羊の木』などの錦戸亮、『東京島』などの木村多江のほか、高梨臨、イーファ・ハインズらが共演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「兼三郎(リリー・フランキー)は妻・明子(木村多江)を亡くし、彼女の葬式で疎遠だった息子の慧(錦戸亮)と彼の妻・さつき(高梨臨)、その子供のエミと顔を合わせる。喪主にもかかわらず兼三郎が酒に酔う中、明子の遺言状の内容が明らかにされ、子供のころに愛した『ピーターラビット』発祥の地であるイギリスのウィンダミア湖に自分の遺骨を散骨してほしいという彼女の願いが明らかになる。イギリスに飛んだ兼三郎と慧一家だが、慧とけんかした兼三郎は一人で湖に向かう」
タイトルの「コットンテール」は、世界的ロングセラーとして知られる児童書『ピーターラビットのおはなし』に登場するうさぎのキャラクターの名前です。1902年に初版本が出た同書はビアトリクス・ポターの処女作ですが、ピーターラビットと彼の家族が紹介されました。ピーターには3羽の姉妹がいて、それぞれ名前がフロプシー、モプシー、コットンテールというのでした。しかし、末娘のコットンテールが映画のタイトルに使われた理由については、具体的な説明はありませんでしたね。
不機嫌そうな兼三郎が自宅のある集合住宅を出る場面から映画は始まります。隣人に声を挨拶されても無視し、地下鉄の中では他人に肩をぶつけても謝りもしない彼の姿を見て、わたしは「なんだ、失礼な奴だな! リリー・フランキー本人もこんな奴じゃないのか?」と思いましたが、じつは彼は妻を亡くした直後で気が動転していたのでした。このシーンを見て、わたしは一条真也の読書館『7つの習慣』で紹介したスティーブン・R・コヴィーの大ベストセラーに出てくる「ニューヨークの地下鉄で体験した小さなパラダイム転換」の有名なエピソードを連想しました。
この映画は、基本的に配偶者を失った悲嘆からの回復と、残された家族の再生を描いています。リリー・フランキー演じる兼三郎が認知症が進行する妻の明子(木村多江)を亡くし、彼女の遺言に従って希望の場所に散骨する物語です。若き日の兼三郎と明子を、工藤孝生と恒松祐里が演じました。見事なキャスティングだと感心しました。たしかに、工藤孝生が老いたらリリー・フランキー、恒松祐里が年齢を重ねたら木村多江になる感じがするではないですか! ただ、小説家志望の英語教師である兼三郎と良家の子女らしき明子がいきなり寿司屋で初対面を果たすことには違和感がありました。ちょっと説明不足でしたね。
明子の認知症が次第に重症化していくのは、見ていて辛かったです。兼三郎が寝ている間にオムツが外れてパジャマを汚した明子を浴室でシャワーに当てる場面は介護のリアルを感じましたが、一条真也の映画館「八重子のハミング」で紹介した2016年の日本映画を思い出しました。佐々部清が監督を務め、ガンと闘いながら若年性アルツハイマー病の妻を介護した陽信孝の原作を基に描くドラマです。山口県萩市を舞台に、4度のガンの手術に耐えた夫が、次第に記憶を失っていく妻と過ごした約12年の日々を綴ります。夫を升毅、妻を高橋洋子が演じています。
また、明子の遺書に従ってイギリスまで渡り、妻が望んだ場所に散骨しようとする物語は、一条真也の映画館「君を想い、バスに乗る」で紹介した2021年のイギリス映画を連想しました。妻を亡くした90歳の男性が、路線バスのフリーパスを利用してイギリス縦断の旅に出るロードムービー。道中さまざまな出会いやトラブルを経験しながら、妻との思い出の地を目指す主人公の姿が描かれる。最愛の妻メアリー(フィリス・ローガン)に先立たれた90歳のトム・ハーパー(ティモシー・スポール)は、路線バスのフリーパスを使ってイギリス縦断の旅に出る。長年暮らした家を離れ、妻と出会った思い出の地を目指すトム。道中さまざまな人たちと出会い、トラブルに巻き込まれるが、メアリーと交わした約束を胸に旅を続けるのでした。
イギリス人であるパトリック・ディキンソン監督は、「君を想い、バスに乗る」をきっと観ていたのではないかと思います。それにしても、映画に登場するイングランドの自然は美しく、このような場所での散骨を希望した明子の気持ちも理解できました。彼女は、幼い頃から『ピーターラビット』の物語が好きで、その舞台となった土地の湖で眠るというのは素敵な弔い方だと思います。わたしは、死後の世界とは各人のストーリーーにほかならず、一種のイメージ・アートでもあると考えています。死後、「極楽浄土に行く」とか「天国に昇る」というのも宗教的物語なら、明子が自分の死後にピーターラビットの世界で暮らすというのも立派な物語であり、イメージ・アートです。
「コットンテール」は人間の生老病死を扱った作品で、悪くはないのですが、同じテーマの多くの作品のようには感動することはできませんでした。それはやはり、出演している俳優が原因だと思います。わたしは、やはり、リリー・フランキーがダメなのです。対談やインタビュー、トークショーなどでの彼の語り口も苦手です。一条真也の映画館「パレード」で紹介したNETFLIX映画のように脇役としての出演ならいいのですが、主演はどうしてもダメです。学生時代にオックスフォード大学と早稲田大学で日本映画を学び、日本に非常に造詣が深いディキンソン監督は、スペシャル対談でリリーのことを「世界最高の俳優の1人」などと大絶賛していますが、どうも、ディキンソン監督の感性とわたしのそれは合わないのだと思いました。
あと、主演のリリー・フランキーだけでなく、兼三郎と明子の1人息子・慧を演じた錦戸亮も苦手でした。旧ジャニーズ事務所に所属していた彼は、関ジャニ∞、NEWSの元メンバーとして活躍しました。ジャニーズは、木村拓哉をはじめ、岡田准一、二宮和也、生田斗真、藤ヶ谷太輔、中島裕翔、目黒蓮などなど素晴らしい役者を多く世に送り出しましたが、わたしは錦戸亮を良い俳優とは思いません。顔も演技もくどくて苦手です。伝え聞く彼のスキャンダルからも性格の悪さが窺えて、わたしはダメですね。
一方、慧の妻・さつきを演じた高梨臨は良かったです。彼女を初めて知ったのは乙一原作のホラー映画「GOTH」(2008年)の森野夜役でしたが、「こんな完璧な美少女がいたとは!」と感動したことを憶えています。「コットンテール」の初日舞台挨拶に真紅のドレス姿で出演した彼女は最高に美しかったですね! リリー・フランキーは彼女のことを「お酒めちゃくちゃ飲む」などと言っていましたが、一緒に飲んだことがあるのですね。長澤まさみとも仲が良いらしいですし、なんか許せませんね。ますます、リリー・フランキーが嫌いになりました。(笑)個人的な感想を言えば、この映画の主演は彼と同い年で同郷の光石研か松重豊が良かったと思います。