No.857
東京に来ています。 いくつかの打ち合わせを終えた後、アメリカ・イギリス合作映画「ARGYLLE/アーガイル」をTOHOシネマズ日本橋で観ました。いわゆるスパイアクション映画ですが、肩の力を抜いて観れる娯楽映画として楽しめました。
ヤフーの「解説」には、「『キングスマン』シリーズなどのマシュー・ヴォーン監督によるスパイアクション。小説の内容が現実のスパイ組織の行動を言い当てていたことから、その作者が命を狙われる。キャストには『コードネーム U.N.C.L.E.』などのヘンリー・カヴィル、『ジュラシック・ワールド』シリーズなどのブライス・ダラス・ハワード、オスカー俳優のサム・ロックウェルのほか、ブライアン・クランストン、デュア・リパ、サミュエル・L・ジャクソンらが集結する」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「有名作家のエリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)は、すご腕エージェントのアーガイル(ヘンリー・カヴィル)が活躍する人気スパイ小説『アーガイル』シリーズの新作執筆に苦慮していた。あるとき愛猫のアルフィーを連れて列車で移動中、突如見知らぬ男たちに襲われ、同じ車両に乗り合わせていたエイダンと名乗るスパイ(サム・ロックウェル)に助けられる。その後も命を狙われ逃げ惑う中、エリーは自分が書いた小説が本物のスパイ組織の行動と一致していたことを知る」
「ARGYLLE/アーガイル」はスパイアクション映画ですが、このジャンルでは、なんといっても「007」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズが有名ですね。「007」シリーズは、作家イアン・フレミングが1953年に生み出した架空の英国秘密情報部のエージェントを主人公とする小説群ですが、彼は12の小説と2つの短編小説集に登場している。1964年にフレミングが亡くなって以降は、8人の作家がボンドの小説やノベライズを執筆していています。1962年にショーン・コネリーがボンド役を演じた『007は殺しの番号』から始まった映画シリーズは、これまでにボンド役をロジャー・ムーア、ダニエル・クレイグと変えて25作が製作されています。一連のシリーズ作品は、映画史に燦然と輝くスパイアクション映画の金字塔といえます。
「ミッション: インポッシブル」シリーズは、ブルース・ゲラーが制作したテレビシリーズ「スパイ大作戦」をベースにした、アメリカのスパイアクション映画のシリーズです。主人公は、IMFのエージェントであるイーサン・ハントで、すべてトム・クルーズが演じています。1996年に始まった本シリーズは、前作のテレビシリーズから6年後の世界を舞台に、ハント率いるIMFの主要なフィールドチームが、差し迫った地球規模の災害を防ぎながら、敵の攻撃を阻止するというミッションを描いています。映画は、テレビシリーズのようなアンサンブルキャストではなく、ハントが常に主役です。一条真也の映画館「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」で紹介した2023年公開の最新作は世界中で大ヒットしました。
もう1つ、スパイアクション例がといえば、「ARGYLLE/アーガイル」のシュー・ヴォーン監督がメガホンを取っている「キングスマン」シリーズを忘れてはならないでしょう。このシリーズは、架空の諜報組織「キングスマン」の活躍を描いたアクション・コメディ映画で構成される、イギリス・アメリカの映画シリーズです。2012年にマーベル・コミックから発売された、マーク・ミラーとデイヴ・ギボンズ(英語版)による同名のコミックを原作としています。ジェーン・ゴールドマンと共同執筆した脚本をマシュー・ヴォーンが監督した映画「キングスマン」が2015年2月に公開されました。その後、2017年9月に続編「キングスマン:ゴールデン・サークル」が公開、2021年12月には、前日譚「キングスマン:ファースト・エージェント」が公開されました。
「007」シリーズも、「ミッション:インポッシブル」シリーズも、ともに世界の映画産業を支えている大作シリーズです。「ARGYLLE/アーガイル」は、この二大スパイアクション・シリーズと比べると、ちょっと見劣りします。何が見劣りするといえば、やはり主人公のスパイの存在感に尽きるでしょう。「ARGYLLE/アーガイル」の上映時間は139分もあるのですが、すご腕エージェントのアーガイル(ヘンリー・カヴィル)の出演は少しだけで、あとは作家のエリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)が主役として活躍します。しかし、この主演女優が演技にも体型にも締まりがないのです。
「007」シリーズにはボンドガール、「ミッション:インポッシブル」シリーズにはイーサンガールというセクシー・ダイナマイトみたいな美女が登場します。「ARGYLLE/アーガイル」のブライス・ダラス・ハワードもそれなりにセクシーな役を演じています。しかし、それまでの出演作ではスリムなイメージが強かった彼女が締まりのない体型で登場したことについて、わたしは「これも、ポリコレじゃないだろうな?」と推測してしまったほどです。また、「ARGYLLE/アーガイル」の冒頭にはボンドガールやイーサンガールを連想させるセクシー美女が登場しますが、彼女はグラミー賞受賞歌手のデュア・リパです。彼女が放つフェロモンはハンパなく、「グラミー賞よりもグラマー賞の方がお似合いでは?」と思ったのですが、すぐに映画から退場してしまいます。個人的には、それが「もったいない!」と思いました。
「ARGYLLE/アーガイル」の登場人物は、全員に裏がありました。何を隠そう、主人公のエリー・コンウェイにも驚愕の秘密がありました。登場人物たちの思わぬ正体が次々に明かされていくのですが、わたしはそれを観ているうちに不安な心境になってきました。この映画を観ている自分もじつは精神病院か何かに監禁されていて、この映画を観ている一条真也というのはまったくの架空の存在である可能性を想像して、不安になったのです。このような自身の存在そのものを揺るがすような不安は最高の恐怖になりえます。ということで、このスパイアクション映画を観て、わたしは、あまりハラハラドキドキはしませんでしたが、気味の悪い不安はしっかりと感じたのであります。
映画では、エリーの一番の友であり、彼女と一緒に冒険に繰り出す猫のアルフィーが重要な役割を果たします。じつはこのアルフィー、ヴォーン監督自身の愛猫チップだそうです。監督は、「以前、娘たちがテイラー・スウィフトのドキュメンタリーを観ていた時に、彼女が猫用のバックパックを背負っていたことが印象に残っていました。当初はエリーはアルフィーを残して冒険に出る予定でしたが、物語をよりドラマティックにするためにはアルフィーが必要だった」と語ります。もともとヴォーン監督はあまり猫が好きではなかったそうですが、撮影期間中にチップと同じ楽屋で生活していくうちに絆を深めていき、チップもその期待に応えるようにすばらしい演技を見せてくれたと賛辞を送り、「最高の役割を果たしてくれたし、注目をさらうくらいチャーミングでおもしろいことに驚かされました」と語っています。一条真也の映画館「落下の解剖学」で紹介した映画に登場する犬のスヌープも名演技でしたが、このチップ演じるアルフィーもなかなかです。アカデミー賞に最優秀ドッグ賞や優秀キャット賞があれば、この2匹にあげたい!
ところで、「ARGYLLE/アーガイル」には魅力的な楽曲が多く使われていました。中でも特筆すべきは、昨年11月にリリースされたザ・ビートルズの最後の新曲「ナウ・アンド・ゼン」(Now And Then)が使用されていること。技術の進化によって、ジョン・レノンが1978年にデモをレコーディングし、テープに残した未発表楽曲から、雑音を取り除くことが可能となりました。存命のメンバーであるポール・マッカートニーとリンゴ・スターが参加したレコーディングで奇跡の新曲「ナウ・アンド・ゼン」が完成。ヴォーン監督は熱心なビートルズマニアですが、なんとポール本人と話し合いを行い、楽曲使用を直談判。ヴォーン監督は「スターを目の前にして興奮を抑えられなかった」とファンとして喜びを爆発させながら、「ビートルズ最後の曲でビートルズと仕事をすることになるなんて、人生における突拍子もない夢だと思っていたけれど、監督としての道のりの中で今それが非現実的ながら現実となった」と奇跡の実現を喜んだそうです。