No.872


 ホラー映画「オーメン ザ・ファースト」をシネプレックス小倉で観ました。「エクソシスト」と並ぶオカルト・ホラーの最高傑作「オーメン」シリーズの前日譚とあって、すごく楽しみにしていました。1971年の時代設定だったのですが、本当に1970年代のオカルト映画っぽくて、わたしの好みにドンピシャでしたね。傑作です!
 
 ヤフーの「解説」には、「悪魔の子・ダミアンの周囲で起こる怪事件を描き、シリーズ化もされた『オーメン』の前日譚。6月6日午前6時に生まれ、頭に不気味なあざを持つ悪魔の子の誕生秘話が明かされる。監督をアルカシャ・スティーヴンソン、製作総指揮・脚本を『英国王のスピーチ』などのティム・スミスが担当。ドラマ「サーヴァント ターナー家の子守」などのネル・タイガー・フリーが主演を務め、共演には『生きる LIVING』などのビル・ナイ、『蜘蛛女のキス』などのソニア・ブラガ、『ウィッチ』などのラルフ・アイネソンらがそろう」とあります。
 
 公式サイトの「あらすじ」は、「全世界を恐怖に包み込んだレジェンド・オブ・ホラー『オーメン』、その"はじまり"の物語。6月6日午前6時――"悪魔の子"ダミアンの誕生が迫る中、それを阻もうとする者が次々と惨たらしい死を遂げていく。修道女になるためにローマの教会で奉仕するマーガレットは、その不可解な連続死に巻き込まれる。やがて彼女は、恐怖で人々を支配するため、悪の化身を誕生させる教会の邪悪な陰謀を知ってしまう。すべてを明らかにしようとするマーガレットの前に、さらなる<戦慄の真実>が待ち受けていた...」となっています。
 
 題名の"omen"は一般的な英語で「前兆」のことです。「オーメン ザ・ファースト」は「オーメン」シリーズの前日譚ですが、シリーズ第1作がリチャード・ドナー監督の「オーメン」(1976年)です。悪魔の子ダミアンに翻弄される人々の恐怖を描き、世界的ヒットを記録した名作オカルトホラーです。アメリカ人外交官ロバート(グレゴリー・ペック)は、6月6日午前6時にローマの産院で生まれてすぐに死んだ我が子の代わりとして、同時刻に誕生した男の子を引き取りダミアンと名づけます。ところが、ダミアンが5歳の誕生日を迎えた頃から周囲で不可解な事件が次々と起こりはじめるのでした。ジェリー・ゴールドスミスによる音楽がアカデミー作曲賞に輝きました。
 
 シリーズ第2作が「オーメン2/ダミアン」(1978年)です。悪魔の子ダミアンが捲き起こす超自然的な惨劇を描きました。製作は前作同様ハーベイ・バーンハード、共同製作はチャールズ・オーム、監督は「新猿の惑星」のドン・テイラー、ハーベイ・バーンハードの原案をスタンリー・マンとマイケル・ホッジスが脚色。撮影はビル・バトラー、音楽はジェリー・ゴールドスミス、編集はロバート・ブラウンが各々担当。出演はウィリアム・ホールデン、リー・グラント、ジョナサン・スコット=テイラー、ロバート・フォックスワース、ニコラス・プライア、ルー・エイヤース、シルビア・シドニー、ランス・ヘンリクセン、エリザベス・シェパード、ルーカス・ドナット、アラン・アーバスなど。
 
 シリーズ第3作が「オーメン/最後の闘争」(1981年)です。ロンドンで生まれた悪魔の子ダミアンが周囲にもたらす恐ろしい現象を描いた「オーメン」「オーメン2/ダミアン」に続く作品で、32歳になったダミアンの悪魔的使命と、それに挑戦する神父たちとの闘いを描いています。製作総指揮は1作目の監督リチャード・ドナー、製作はハーベイ・バーンハード、監督はTV・CM界出身でこれが劇場用長篇の1作目になるグレアム・ベイカー。出演はサム・ニール、ロッサノ・ブラッツィ、ドン・ゴードン、リサ・ハロー、バーナビー・ホルム、メイスン・アダムス、ロバート・アーデン、トミー・ダガン、ルイーン・ウィロビー、ルイス・マホーニー、マーク・ボイルなど。
 
 続く「オーメン4」(1991年)は、悪魔の子ダミアン・ソーンを主人公にしたオカルト映画の10年ぶりの続編TVムービーでした。日本では劇場公開されています。今度は、女の悪魔の子が汎キリスト者を殺しまくります。社会的地位がありながら子宝に恵まれない弁護士夫妻は、養女ディーリアを譲り受けます。しかし、彼女の周りで奇怪な事件が続発。妻が探偵を雇い、その出生の秘密を探らせるのでした。監督はホルヘ・モンテンとドミニク・オートナン・ジェラールが共同で、製作・原案はハーヴェイ・バーンハードが3部作に引き続き、エグゼクティブ・プロデューサーはメイス・ニューフェルド。共同原案・脚本は「ポルターガイスト3 少女の霊に捧ぐ...」のブライアン・タガートが担当しました。
 
 ヨハネの黙示録で獣の数字とされる「666」の数字に合わせて、2006年6月6日に全世界で同時に公開されたのが「THE OMEN」です。米国人外交官ロバート・ソーン(リーヴ・シュレイバー)は、身重の妻が入院中の病院から突如呼び出しを受け急行します。そこで知らされたのは母体の命は取りとめたものの子供は死産という悲報でした。子供を欲しがっていた妻の精神的負担を考慮したロバートは、病院側の勧めもあり、妻に内緒で養子を取ることにします。その子供はダミアンと名付けられ、二人の手で大事に育てられますが、やがてその周囲に不気味な出来事が頻発するようになるのでした。
 
 そして、このたび公開された最新作「オーメン ザ・ファースト」ですが、前日譚としてじつに良く出来ていたと思いました。ダミアンの母の出生から遡って、ダミアンの誕生の真実も明かされ、「そうだったのか!」というカタルシスを約四半世紀年ぶりに得ることができました。1976年に日本公開された第1作はリアルタイムで映画館で鑑賞しましたが、とても怖かったことを記憶しています。「オーメン ザ・ファースト」では、そのときの恐怖や不気味さを思い出せる演出が卓越していましたね。それと、1970年代に起こったローマ教会の権威に反抗する市民運動が描かれていて、こちらの方がオカルトよりも怖かったりしました。登場人物の1人が「教会には2つある。わたしたちが信仰している表の教会と、拷問やレイプを認める裏の教会だ」というセリフが印象的でした。
 
「オーメン ザ・ファースト」の出演陣では、なんといってもマーガレットを修道女にスカウトする枢機卿を演じたビル・ナイの存在感が光っていました。彼は、一条真也の映画館「生きる LIVING」で紹介した2023年公開のイギリス映画で主演しています。第2次世界大戦後のイギリス・ロンドン。役所の市民課に勤め、がんで余命半年を宣告されたウィリアムズを好演しました。あと、「オーメン ザ・ファースト」の最後に、第1作でアメリカ人外交官ロバートを演じたグレゴリー・ペックの顔写真がスクリーンに映りました。わたしグレゴリー・ペックの大ファンなので嬉しくなりました。ロバートとは、ダミアンの父親の名前です。グレゴリー・ペックは、一条真也の映画館「ローマの休日」で紹介した映画史上に燦然と輝く名作でオードリー・ヘプバーンと共演した俳優です。じつは、何を隠そう、このわたしは彼に似てると言われたことがあります(笑)
 
 彼は知的な紳士で、人格者として知られていました。その人望を買われて政界進出の噂が周囲から出たそうです。オーソン・ウェルズにも大統領になるよう薦められていたとか。しかし、本人は「すでに自分は大統領役や歴史上の偉人をもう何人も演じている。もうこれだけで充分ではないか?」と答え完全否定。あくまで俳優として職を全うすることを公言したといいます。彼は、アカデミー協会の会長やハリウッド俳優組合の会長など各種映画団体の会長や理事、アメリカ癌協会でも理事を務めました。2度の結婚で5人の子供がいましたが、「オーメン」撮影の2か月前に息子を拳銃自殺で亡くしています。彼は息子を拳銃自殺で亡くした深いグリーフの中で、映画の中では息子を拳銃で殺す役を演じたのです。これほど残酷なこともありませんが、このエピソードを初めて知ったとき、プロの俳優として仕事をやり切ったグレゴリー・ペックに深い尊敬の念を抱かずにはおれませんでした。