No.909
6月1日の夜、出版関係の打ち合わせをした後、ヒューマントラストシネマ有楽町でアメリカ映画「東京カウボーイ」のレイトショーを観ました。しみじみと面白かったですね。わたしも、カウボーイになりたくなりました!
ヤフーの「解説」には、「『止められるか、俺たちを』シリーズなどの井浦新主演のドラマ。ある会社がアメリカに所有する牧場の経営を立て直すため、モンタナ州にやってきた日本人サラリーマンが、人々との交流を通じて人生を見つめ直す。監督はマーク・マリオット。ドラマシリーズ『ハリウッド・チャンス!』などのゴヤ・ロブレス、『マン・フロム・リノ』などの藤谷文子のほか、ロビン・ワイガート、國村隼らが出演する」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「東京の大手食品商社に勤めるサカイ・ヒデキ(井浦新)は、会社がアメリカ・モンタナ州に所有する経営不振の牧場の収益改善を命じられて現地に向かう。育成する牛を希少価値の高い和牛に切り替える牧場再建計画をプレゼンするヒデキだが、日本の常識で物事を進める彼は邪険に扱われてしまう。そんな中、元ロデオ選手の牧場スタッフ・ハビエル(ゴヤ・ロブレス)と出会ったヒデキは、地に足のついた生活を楽しむ彼と交流するうちに土地の魅力に気づき、効率化一辺倒だった自身の働き方などを見つめ直す」
「東京カウボーイ」は井浦新のアメリカ映画初主演作品です。今や押しも押されぬ日本映画界を代表する俳優となった彼ですが、昨年だけでも一条真也の映画館「福田村事件」、「アンダーカレント」、「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」で紹介した、まったくジャンルの違う3本の作品に主演し、いずれも個性的かつ魅力的な演技を見せてくれました。わたしも大好きな役者さんですが、今回は味のある和製カウボーイ姿を披露してくれました。カッコ良かったです!
「東京カウボーイ」のマーク・マリオット監督は、これまで短編やTVシリーズを手がけ、本作が初の長編映画だとか。映画ジャーナリストの斎藤博昭氏の「なぜ日本人を主人公に映画を撮ろうと思ったのか?」という質問に対して、彼は「もう30年以上も前のことですが、私は山田洋次監督に弟子入りした経験があるのです。私は数年間、日本で生活した後、アメリカへ戻って大学で勉強していたとき、その大学で山田洋次監督作品が上映されるイベントがあり、監督自身も来場しました。直接話す機会ははかったものの、映画製作への野心がめばえていた私は山田監督に手紙を書き、弟子入りしたい旨を伝えたのです」と答えています。山田監督に手紙を書いたマーク青年は、なんと、「次の映画をウイーンで撮るので、よかったら来てください」という返事を貰ったそうです。
そのウイーンで撮影した映画とは、寅さんが初めて海外へ行ったシリーズ第41作の「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」(1989年)でした。山田組の現場に入り込むチャンスに恵まれたマークは、寅さんが海外へ行く映画を手伝ったことで、いつの日か日本人のキャラクターが外国へ行く映画を作りたいという夢が育まれたといいます。そして、ようやくその夢が叶ったのが本作「東京カウボーイ」なのです。この映画には「男はつらいよ」のようにコメディ要素も多々あり、マーク監督がいかに山田監督の影響を受けているかがわかりました。井浦新が演じたビジネスマンのヒデキ、國村隼演じる牛の専門家ワダの2人を合わせると、車寅次郎のイメージが湧いてくるから不思議!
「東京カウボーイ」は、山田洋二監督のある作品へのオマージュのようにも思えます。和製カウボーイ映画の名作「遥かなる山の呼び声」(1980年)です。「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)の山田洋次監督と名優・高倉健が再び顔を合わせ、警察に追われる男と、牧場を切り回す母子の出会いと別れを描く、北海道を舞台にした感動作です。「幸福の黄色いハンカチ」と同じ北海道の根釧原野の小さな酪農の町が舞台となっていますが、ゆったり流れ移る四季やそこに暮らす人々の姿が丹念に描写され、人情味にあふれた物語ともども見どころになりました。北海道の酪農の町・中標津の美しい四季を背景に、誤って人を殺して逃亡中の男(高倉健)と、牧場を経営する未亡人(倍賞千恵子)、そして小学生になるその子供(吉岡秀隆)との交流を描いた人情ドラマです。慎重に進む2人の恋の行方を、農作業と日常生活をたっぷり盛り込みながら描いています。西部劇映画の歴史に残る名作「シェーン」(1953年)へのオマージュシーンも忘れられません。
「東京カウボーイ」は、井浦新や國村隼も良かったですが、ヒデキの恋人ケイコを演じた藤谷文子も存在感がありました。1979年生まれで現在44歳の彼女は、大阪府大阪市淀川区出身の女優、小説家、合気道家です。実父はハリウッド俳優のスティーヴン・セガール。1993年「三井のリハウス」のテレビCMの6代目リハウスガールとしてデビュー。1995年、映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」のヒロイン・草薙浅黄役で映画デビュー。ガメラと唯一心の交信ができる少女を演じ、おおさか映画祭新人賞を受賞。1996年公開の「ガメラ2 レギオン襲来」と1999年公開の「ガメラ3 邪神覚醒」でも同役を演じ、代表作となりました。2000年、自らの小説『逃避夢・焼け犬』を映画化した庵野秀明監督の「式日」に主演。
藤谷文子は2015年に映画「複製された男」の脚本家で、プロデューサーのハヴィエル・グヨンと結婚しており、現在は2児の母親です。「東京カウボーイ」では脚本も担当した才媛ですが、映画評論家の町山智浩氏の冠番組で、BS朝日で放送されている「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」にレギュラー主演しています。2人ともアメリカ在住なのでオンライン主演ですが、藤谷文子が町山智浩に負けないぐらい映画に詳しく、個々の作品への感想も非常に深いので、いつも感心しています。ハリウッド・スターが父親だけあって端正な顔立ちをしていますが、彼女が本格的に演技しているところは初めて観ました。演技も自然で、美しかったです。女優・藤谷文子のファンになりました!