No.916


 アメリカ映画「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」をU-NEXTで観ました。2020年に日本公開された作品ですが、このたび再上映を実施。7月5日より1週間限定で、全国109館のスクリーンにかけられています。シネプレックス小倉などでも上映されていましたが、最新作ではないということもあって、配信で観ました。正直言ってあまり期待していなかったのですが、面白かったです!
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「マンハッタンが舞台のロマンチックコメディー。甘いひとときを過ごそうとする若いカップルに、次から次へと思わぬ事態が巻き起こる。監督と脚本を務めるのは『女と男の観覧車』などのウディ・アレン。『君の名前で僕を呼んで』などのティモシー・シャラメ、『マレフィセント』シリーズなどのエル・ファニング、『ゲッタウェイ スーパースネーク』などのセレーナ・ゴメスのほか、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「学校の課題として著名な映画監督ローランド・ポラード(リーヴ・シュレイバー)のインタビューをマンハッタンですることになった大学生のアシュレー(エル・ファニング)。彼女と恋人のギャツビー(ティモシー・シャラメ)は、それを機に週末をマンハッタンで楽しむことに。ニューヨーカーのギャツビーは、アリゾナ生まれのアシュレーに街を案内しようと張り切るが、ポラードに新作の試写に誘われた彼女が約束をキャンセルするなど、次々と予想もしていなかった出来事が起きる」
 
 まず、この映画の主演であるティモシー・シャラメが良かったです。2017年に撮影された作品ですので、今から7年も前。SF映画の金字塔である「DUNE/デューン 砂の惑星」シリーズでの堂々たる演技を見せる大スターとなった現在に比べると、ずいぶん線が細い感じですが、繊細なヤサ男という感じがいいですね。彼が演じるギャツビーとエル・ファニングが演じる恋人のアシュレーはニューヨークへの小旅行を行いますが、これはジャーナリスト志望のアシュレーが、ニューヨークで有名な映画監督へのインタビューの機会を得たことがきっかけでした。アシュレーが映画監督から試写に誘われたことで、2人の予定は大きく狂うことになります。暇を持て余していたギャツビーは、映画の撮影現場を見学に出かけ、成り行きで映画に出演することになります。恋人役を演じる相手は、昔のガールフレンドの妹のチャン(セレーナ・ゴメス)でした。
 
 最近のウディ・アレンの映画は、さながらニューヨーク観光のPRに一役買っている感があります。 一条真也の映画館「カフェ・ソサエティ」で紹介した2016年の作品の後半はニューヨークのセレブが集う高級クラブが舞台となっています。また、 一条真也の映画館「女と男の観覧車」で紹介した2017年の作品は、1950年代のブルックリンの遊園地コニー・アイランドが舞台となっています。そして、ニューヨーク映画の決定版といえるのが「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」です。この作品には、「ピエール」や「カーライル」、「プラザ・アテネ」など、マンハッタンのアッパー・イーストサイドの高級ホテルが軒並み登場し、ホテル業を営むわたしにとって参考になりました。また、メトロポリタン美術館やセントラル・パーク、グリニッジ・ヴィレッジも登場し、さながらニューヨークを観光しているような気分になりました。
 
 この映画でティモシーが演じるギャツビーは、じつに魅力的な青年です。彼の実家はマンハッタンの高級住宅がひしめくアッパー・イーストサイドにあり、彼はこの街を知り尽くしていました。一方、アシュレーは、アリゾナから出てきた銀行家の娘で、ニューヨークは幼い頃に訪れたきりでした。「マンハッタンは2回だけ。2歳と12歳の時よ。いい買い物をしたわ。バーキンとロレックスを路上で売ってたの。たったの200ドルよ」と真顔で言う彼女に、ティモシーは苦笑い。わたしは、大笑いしました。そこで、ギャツビーは得意のポーカーで稼いだお金で、アシュレーとの週末旅行を楽しもうとマンハッタンの高級ホテルであるピエールのセントラルパークを見下ろす部屋を予約したのでした。ティモシーには、スノッブな母親から教養を強要(ダジャレではありません)されたというトラウマがありました。読書やオペラ鑑賞やピアノ演奏を強制的にさせられたのですが、そのおかげでチャンの前で素敵な弾き語りを披露していました。
 
 アシュレーは、リーヴ・シュレイバーが演じる映画監督ローランド・ポラードへインタビュー取材します。そのとき、「じつは、スクープがある。今度の映画に不満なので、監督を降板しようかと思うんだ」と告白するポラードに対して、アシュレーは「率直な意見を言わせてもらうわ。一般受けしないわ。独創的すぎるの。売るための譲歩を一切しなかった。自由な魂の芸術家なのよ。ゴッホやロスコやヴェージニア・ウルフと同じ......」と言います。学生らしからぬ卓越したコメントに感心していると、次の瞬間、彼女は「全員、自殺してるけど」と言うのでした。またもや、わたしは大爆笑しました。そんな彼女も、ディエゴ・ルナ演じるセクシーな映画俳優の前ではメロメロでした。どんなにお堅い女の子でも、憧れの大スターに口説かれたらイチコロなんですかね?
 
 次々に偶然が重なり、ちょっとご都合主義の印象もありますが、この「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」という映画は非常に面白いです。しかし、アメリカでは公開されなかったことが記憶に新しいですね。というのも、2017年に起きた映画プロデューサーであるハーヴェィ・ワインスタインのセクシャルハラスメント騒動に端を発する#MeToo運動の影響を受けたからです。この流れの中で、ウディ・アレンの過去の幼女への性的虐待容疑(証拠不十分で不起訴)が再び問題とされたからでした。女優のグリフィン・ニューマンは、この作品に出演したことを後悔していると発信し、「今後はウディ・アレンとは仕事をしない」と宣言。ティモシー・シャラメやセリーナ・ゴメス、エル・ファニングたちも、出演料をセクシャルハラスメントの被害者を支援する運動に寄付したのでした。
 
 これらの動きを受けて、そもそもの製作者であったアマゾン・スタジオがアメリカでの上映を中止する決定をしました。その結果、2017年に撮影されたこの作品は、2019年7月になって、ようやくポーランドで最初の上映が始まり、以降、フランスやスペインなどのヨーロッパでは公開されました。日本でも2020年に公開されましたが、コロナ禍に加えて#MeToo運動への配慮から短期間の上映に終わっています。今回の日本での再上映が「公開4周年記念」といった不思議な宣伝文句付きなのはこういった事情があったのです。アレン側は契約不履行でアマゾン・スタジオを訴えましたが、アメリカでの上映は実現しませんでした。これほどニューヨーク愛に溢れた映画もなかなかありませんが、まことに残念なことです。しかし、アレンの幼女への性的虐待が事実だとしたら仕方ないことだとも思います。果たして、真相はいかに?