No.919


 7月10日の夜、一条真也の映画館「ゴジラ」で紹介した1954年の怪獣映画をTOHOシネマズ日比谷のシアター1で観た後、そのままシアター9でアニメ映画「ルックバック」を観ました。上映時間58分の作品ですが、猛烈に感動しました。プレミアボックスシートでの鑑賞で2700円かかりましたが、値段が10倍でも惜しくはありません。それぐらい大傑作でした。今年の一条賞の大賞候補作です!
 
 ヤフーの「解説」には、「『チェンソーマン』などの藤本タツキによるコミックを原作とする青春アニメ。小学4年生の少女が、漫画好きという共通点を持つ不登校の少女と共に漫画制作にまい進するも、やがて衝撃的な出来事が起こる。二人の少女の声を俳優の河合優実と吉田美月喜が担当。監督を『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の演出やアニメ「ライジングインパクト」シリーズのキャラクターデザインなどを担ってきた押山清高が務め、アニメーション制作をスタジオドリアンが手掛ける」と書かれています。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「小学4年生の藤野は学生新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメートから絶賛されていた。ある日、藤野は先生から不登校の京本が手掛けた4コマ漫画を学生新聞に載せたいと告げられる。そのことを機に藤野と京本は親しくなっていくが、やがて成長した二人に、全てを打ち砕く出来事が起こる」となっています。
 
 ブログ「災害級猛暑の東京へ」に書いたように、10日の午前中、わたしはスターフライヤー80便で東京に向かいました。北九州空港で搭乗を待っているとき、映画コラムニストのアキさんからLINEが届きました。そこには、「こちらは観ましたか? 60分で観れるのですが、心奪われてしまいました。隙間時間があったらぜひ」と書かれ、「ルックバック」の公式HPが貼られていました。知らない作品でしたが、時間を調べると、TOHOシネマズ日比谷で上映されていました。しかも、鑑賞予定の「ゴジラ」終映直後の回があったので、予約しました。
 
 何の予備知識も持たずに観ましたが、ずっと「え、何これ?」「おいおい、すごいな、これ!」と思いながら観て、何度も心が動かされました。何度も泣きました。ネタバレにならないように書くと、この物語ではある登場人物の大切な人が亡くなります。葬儀のシーンもあります。そして、この物語にはパラレルワールド的な要素があります。亡くなったはずの人物がじつは生きているという世界観に非常に感動しました。わたしはつねづね、パラレルワールドとかマルチバースとかタイムスリップといったSF的設定はグリーフケアに大きな力を持つと考えています。「今は亡きあの人は、違う時空で生きている」と思えるからです。「ルックバック」を観て、まさにそのようなメッセージを感じました。ザッツ・グリーフケア・アニメ!
 
 さて、「ルックバック」、英語で「LOOK BACK」の意味は「振り返る」です。映画「ルックバック」の冒頭シーンは漫画を描いている藤野の後ろ姿が延々と続きます。全部で58分しかない作品なのに、いつまでも後ろ姿しか映らないので、観客はだんだん不安になり、「振り返ってよ!」とスクリーンの中に人物に言いたくなります。「振り返る」というのは単なる後ろを見るという行動だけではなく、「人生を回顧する」という意味があります。
 
 人生を振り返ることを歌った素晴らしい名曲があります。ブログ「ただ風が吹いているだけ♪」で紹介した「風」という楽曲です。はしだのりひことシューベルツが1969年に発表した大ヒット曲ですが、「ちょっぴりさみしくて振り返っても、そこにはただ風が吹いているだけ♪」「人は誰も人生につまづいて 人は誰も夢破れ 振り返る♪」という物悲しい歌詞は、北山修によるものです。当時まだ23歳だった北山は「振り返らず ただ一人 一歩ずつ 振り返らず 泣かないで歩くんだ♪」とも書いていますが、わたしは人生というものは振り返るべきものだし、なつかしい人を思い出して泣いてもいいと思います。
 
 映画「ルックバック」は、『チェンソーマン』で知られる人気漫画家・藤本タツキが、2021年に「ジャンプ+」で発表した読み切り漫画「ルックバック」を劇場アニメ化したものです。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」や「君たちはどう生きるか」などさまざまな話題のアニメに携わってきた、アニメーション監督でアニメーターの押山清高が、監督・脚本・キャラクターデザインを手がけました。ひたむきに漫画づくりを続ける2人の少女の姿を描く青春ストーリーですが、小学校の頃、わたしもいつも授業中に漫画を描いていて、クラスの仲間が回し読みし、悪友たちから「おまえ、漫画うまいな! 漫画家になれるんじゃない?」と言われていたことも思い出しました。
 
「ルックバック」はアニメなので、当然ながら声優がいます。藤野の声はブログ「不適切にもほどがある!」で紹介した大人気ドラマ、一条真也の映画館「四月になれば彼女は」、「あんのこと」で紹介した映画などで話題になった河合優実が担当しました。京本の声は、映画「メイヘムガールズ」(2022年)、「あつい胸さわぎ」(2023年)、「カムイのうた」(2023年)などで主演を務めた吉田美月喜が担当しました。それぞれ声優に初挑戦したそうですが、2人とも素晴らしかったです。河合の声は声優向きだと思います。といっても、いわゆるアニメ声ではなく中性的な声なので、不思議な魅力がありますね。吉田が担当した京本の声も、彼女のキャラにぴったりと合っていました。2人とも旬の女優さんですが、本当に才能に溢れています。これからの活躍が楽しみですね!
 
 公式HPでは、押山清高監督が「アニメーターやアニメーション監督って作品への向き合い方は漫画家と似ていて、漫画を読んだ時にしみじみと物語に感情移入できたのはもちろん、『ルックバック』を描くに至った藤本先生にも共鳴するところがありました。だから素直に自分事としても向き合える映画にできるなと思えました。原作を快く貸してくれたバケモノ漫画家である藤本先生に感謝しつつ、アニメーション表現の世界に身をおいてきた絵描きの一人だからこそ描けることがあると思いながら、漫画とは一味違う映画作品を目指しています」とコメントしています。
 
 また、原作者である藤本タツキ氏の「自分の中にある消化できなかったものを、無理やり消化する為にできた作品です。描いて消化できたかというと、できたのかできなかったのかはわからないですがこの作品を映像化するにあたり、たくさんの人が関わってくれたことには感謝しかありません。押山監督はアニメオタクなら知らない人がいないバケモノアニメーターなので、一人のオタクとしてこの作品を映像で見るのが楽しみです」とのコメントも紹介されています。この漫画の天才とバケモノアニメーターによって生み出されたアニメ映画の革命的作品は、絶賛の連続で、上映館がどんどん拡大されています。みなさんも、もし機会があったら、ぜひこの素晴らしいグリーフケア・アニメを御覧下さい。絶対に後悔しません! わたしにこの名作を教えてくれたアキさんに感謝です!
映画館で原作漫画を貰いました!