No.937


 東京に来ています。打ち合わせを終えた8月7日の夜、ゲリラ雷雨の稲光の下、ヒューマントラストシネマ有楽町でオーストラリア映画「ロイヤルホテル」を観ました。今年観た110本目の映画です。ハラスメント映画という触れ込みでしたが、田舎に住む人々の絶望が描かれていました。
 
 ヤフーの「解説」には、「パブで働く女性たちが受けたハラスメントを記録したドキュメンタリーに着想を得たホラー。オーストラリアを旅行中にパブで働くことにした女性二人が、店長や客からの差別を受ける。監督を務めるのは『ジョンベネ殺害事件の謎』などのキティ・グリーン。『アシスタント』でもキティ・グリーン監督と組んだジュリア・ガーナー、『マトリックス レザレクションズ』などのジェシカ・ヘンウィックのほか、ヒューゴ・ウィーヴィング、トビー・ウォレスらが出演する」とあります。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「ハンナ(ジュリア・ガーナー)とリブ(ジェシカ・ヘンウィック)の親友二人は、オーストラリアを旅行中に金欠に陥ってしまい、ワーキングホリデーの制度を利用してパブ「ロイヤルホテル」に滞在しながら働き始める。バーテンダーを任されたハンナたちだが、店長(ヒューゴ・ウィーヴィング)や粗暴な客たちからのパワハラやセクハラを受ける。リブはそんな環境にも溶け込むが、ハンナは精神的に追い込まれ、彼女たちの友情も揺らぎ始める」
 
 まず、オーストラリアというのが広大な面積のわりには人口が少なく、人口密度が低いことで知られています。首都キャンベラや最大の都市であるシドニーならまだしも、地方に行けば野生のカンガルーが走っているような田舎の光景が広がります。そんな場所にある「ロイヤルホテル」というパブで、カナダから来た2人の女性が働く物語です。予告編を見ると、いかにもセクハラ映画という不穏さが漂っていますが、女性たちはけっして弱い立場ではありません。むしろ主人公のハンナは、強い女性が登場する映画の代表である「エイリアン2」(1986年)の女性宇宙飛行士のようなでした。
 
 ハンナを演じたジュリア・ガーナーは、一条真也の映画館「アシスタント」で紹介した2023年のアメリカ映画にも主演しています。監督は、「ロイヤルホテル」と同じく女性監督のキティ・グリーンです。映画業界を舞台に、ある新人アシスタントの1日を通して、さまざまな問題を描くヒューマンドラマで、2017年に急拡大した性犯罪告発運動(#MeToo運動)をテーマに、職場における問題を浮き彫りにしていきます。映画プロデューサーを夢見るジェーン(ジュリア・ガーナー)は、名門大学を卒業して有名なエンターテインメント企業に就職し、業界の大物として知られる会長のもと、ジュニアアシスタントとして働き始めますが、ある日、会長の許しがたい行為を知るのでした。
 
 映画「アシスタント」に出てくる「会長」というのは、限りなく、#MeToo運動の原因となった元映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインを連想させました。彼は、数十年にわたって権力を笠に、数々のセクハラと性的暴行を繰り返しました。ワインスタインのセクハラをモデルにして作られたのが 一条真也の映画館「スキャンダル」で紹介した2020年のアメリカ映画です。2016年にアメリカのテレビ局FOXニュースで行われたセクシュアルハラスメントの裏側を描いたドラマです。テレビ局で活躍する女性たちをシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、数々のセクハラ疑惑で訴えられるCEOを「人生は小説よりも奇なり」などのジョン・リスゴーが演じました。ザ・セクハラ映画でした!
 
 映画「スキャンダル」で主演したニコール・キッドマンは、オーストラリア出身の女優です。彼女はアメリカに移住し、22歳の時にトム・クルーズと結婚します。『フロントロウ』のインタビューで、ニコールは「私が若くして結婚をして手に入れたものは、パワーではなく保護だった。もちろん愛のために結婚をしたけれど、トムのように業界で力のある男性と結婚したことは、私をセクハラから守ってくれた。結婚してからも仕事を続けていたけど、つねに守られていたわ」と語っています。自身もMeTooの当事者であり、幼い頃から幾度となくセクハラの被害にあってきたことを明かしたニコールは、当時からすでに業界で力を持っていたトムと結婚することで、職場でのセクハラ被害から身を守っていたことを告白したのです。"トム・クルーズの妻"というステータスが、ある種の"保護"になっていたことを明かしたわけですが、オーストラリアを代表する大女優もセクハラの被害者であることを知ると、複雑な気分になりますね。