No.1046


 日本映画「少年と犬」をシネプレックス小倉で観ました。タイトルを知ったとき、あまり興味が湧かなかったのですが、西野七瀬主演、斎藤工主演と知り、「観なければ!」と思いました。予告編からグリーフケア映画の気配が強く漂っていましたが、残念ながら脚本がイマイチでしたね。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「第163回直木賞を受賞した馳星周の小説「少年と犬」を実写化したドラマ。ある少年に会うために東北から九州へ向かう犬が、行く先々で出会った人々と交流する。監督は『ラーゲリより愛を込めて』などの瀬々敬久。『あの人が消えた』などの高橋文哉、『孤狼の血 LEVEL2』などの西野七瀬らが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「東日本大震災から半年後の仙台。職を失った和正(高橋文哉)は、震災で飼い主を亡くした犬・多聞を飼うことにするが、多聞はことあるごとに南の方角を見つめていることに気付く。多聞と絆を育む和正だが、窃盗団に関与したことで事件に巻き込まれ、その混乱の間に多聞は姿を消す。その後多聞は滋賀で美羽(西野七瀬)という女性と過ごしていたが、そこへ多聞の後を追ってきた和正が現われる。二人と1匹の生活が始まるものの、多聞は和正と美羽のもとを離れ、南の方角を目指して歩き始める」
 
 原作は、馳星周の直木賞受賞作『少年と犬』(文春文庫)です。アマゾンには「傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だった――」として、「2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日、和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の『守り神』になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか......犬を愛するすべての人に捧げる涙の物語!」と書かれています。

 映画「少年と犬」について、当初わたしは、東日本大震災で飼い主と別れた愛犬の物語ではないかと予想しました。大震災なので、その別れは死別の可能性が高く、それゆえにグリーフケアの物語となるのではないかと予想したのですが、実際は少し違いました。グリーフケアの物語といえば確かにそうなのですが、一条真也の映画館「片思い世界」で紹介した日本映画のようなファンタジー要素もありました。しかし、「片思い世界」の方は坂元裕二の脚本が圧倒的に素晴らしかったのに対し、「少年と犬」の脚本は完成度が高いとは思えませんでした。観客を力づくで泣かせるような場面が目立ち、素直に感動することができにくかったです。
西野七瀬さんと



 わたしが映画「少年と犬」を観た理由は2つあります。1つは、主演女優が西野七瀬さんだったからです。一条真也の映画館「君の忘れ方」で紹介した今年1月17日公開の作品で彼女はヒロインを演じました。坂東龍汰さん演じる主人公の昴の恋人の美紀を演じたのですが、美紀はバス事故で亡くなり、昴の前に幻影として登場します。「君の忘れ方」は拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林・PHP文庫)を原案としていますが、美紀の葬儀を司った佐藤というフューネラル・ディレクターをわたしが演じました。この映画には幽霊も登場します。岡田義徳が演じる池内武彦という中年男性の亡き妻の幽霊です。池内は悲嘆のあまり、妻の死を認めようとせず、その葬儀をあげていませんでした。「成仏」を目的とする儀式である葬儀をあげた故人は基本的に幽霊にはならないので、葬儀をきちんとあげた美紀の場合は幻影です。そして、「少年と犬」では、西野さん演じる美羽はある人物の幻影を見るのでした。
斎藤工さんと



 わたしが映画「少年と犬」を観た2つ目の理由は、斎藤工さんが出演していたからです。少年の父親役でしたが、とても誠実な役で好感が持てました。ブログ「タキシードを着て、映画とグリーフケアを語る」で紹介したように、昨年12月14日に東京の西麻布にあるバスク料理店の名店「ENEKO Tokyo」で開かれたクリスマスのフォーマル・パーティーで、斎藤さんと隣席になり、大いに語り合いました。一条真也の映画館「大きな家」で紹介した斎藤さんが監督された素晴らしいドキュメンタリー映画を鑑賞していたので、その感想も熱くお伝えしましたが、「君の忘れ方」の話もしました。同作の主演である坂東龍沙汰さんは斎藤さんのシュタイナー学校の後輩であると知り、驚きました。そのとき斎藤さんは「西野七瀬さんも出ているんですね。彼女とは最近、同じ映画に出ましたよ」と言われていましたが、それが「少年と犬」だったのです!

 被災地の窃盗団でバイトする和正を演じる主演の高橋文哉もなかなか良かったですが、「少年と犬」の本当の主役は"多聞"という名のシェパード犬です。わたしは犬が大好きなのですが、還暦を過ぎた今ではもう飼えないことがわかっているので、可愛い犬を見るのがちょっと辛いです。でも、「少年と犬」では、死が近い島根の老人(柄本明)が多聞の面倒を見て、多聞は老人の最期を看取るという場面がありました。死ぬ前に老人は「人間の心がわかって寄り添ってくれる動物なんて、犬の他にはいない」と言うのですが、それを聴いて、わたしは「老人こそ犬を飼うべきではないか」と思いました。「少年と犬」よりも「老人と犬」が大事だと思います。多聞の優しい目がスクリーンに映ると、わたしは過去に飼っていた3匹の愛犬を思い出しました。1匹目は、小学校低学年のときに自宅に迷い込んできた雑種犬でした。犬がずっと飼いたかったわたしは嬉しくてたまりませんでしたが、1週間ぐらい経ってから本物の飼い主が引き取りにきて、涙の別れをしました。
ありし日のハリーと遊ぶ



 2匹目は小学校高学年から高校生まで買っていたコリー犬で「ハッピー」という名でした。3匹目は2人の娘たちのために飼ったイングリッシュ・コッカースパニエル犬で「ハリー」という名でした。ハッピーとハリーとは死別しましたが、わたしは彼らのことを思い出すと今でも涙が出てきます。本当に、とても大切な家族でした。特に、2010年に死別したハリーは、まだ小屋を残していることもあり、忘れられません。娘たちは、ハリーとともに成長し、たくさんの思い出を作りました。わたしたち家族は、ハリーを心から惜しみ、感謝の念とともに送り出してあげました。ハリーを失ってからの喪失感は、思った以上にこたえました。わたしにとって、どれだけ大切な存在であったかを思い知らされました。「少年の犬」の終盤で、和正と美羽がカフェで話しているとき、和正が「犬は神様からの贈り物だ」と言うと、美羽は「うん、本当そうやね」と答える場面があります。
ハリー墓を守る天使たち



 人類にとって最初の友は犬だったそうです。「GOD」を逆にすると「DOG」になりますが、犬とは神から遣わされた人間の友なのかもしれません。特に縄文時代などの狩猟社会において犬は人間にとって最高のパートナーで、人間と犬が一緒に埋葬された例もあるようです。わたしは、庭にハリーのお墓を作ってあげました。ハリーが大好きだった庭の大好きな場所に穴を掘って、骨を埋めてあげたのです。ハリーの墓は二体の天使像が守ってくれていますが、「少年と犬」の中で、和正が多聞のことを"Guardianardian Angel(守護天使)"と呼ぶのですが、ハリーはわたしにとっての守護天使でした。ハリーは、経営者としても作家としてのわたしの一番しんどかった時期を支えてくれました。どんなに辛いことや嫌なことがあっても、ハリーとフリスビーをすると全部忘れることができました。昨年の秋に父を亡くすまでは、これまでの人生で最も悲しかった別れはハリーとの別れでした。
 
 スクリーンの中の多聞を見ながら、わたしはずっとハリーのことを思い出していました。また犬が飼いたいです。もうすぐ62歳になるわたしですが、いつか子どもや孫と一緒に暮らすような機会があれば、大好きな犬を飼うことがあるだろうか。映画「少年と犬」を観ながら、最も心に浮かんだのはそのことでした。最後に、「少年と犬」の中にはAKB48の大ヒット曲「ヘビーローテーション」が流れたのですが、わたしはこの曲が大好きなので嬉しかったです。しかも、西野七瀬さんが歌う場面が登場するのです。YouTubeで乃木坂46の「ヘビーローテーション」の動画を初めて観たとき、「この歌、AKBより乃木坂の方が似合うな」と思ったものですが、西野七瀬&白石麻衣のWセンターは最高にキュートでした。映画の主題歌であるSEKAI NO OWARIの「琥珀」よりも「ヘビーローテーション」が心に強く残りましたね。