No.1070
東京に来ています。日比谷で出版の打ち合わせをした後、TOHOシネマズ日比谷でアメリカ映画「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の先行上映を観ました。一条真也の映画館「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」で紹介した作品の続編ですが、今回はIMAXでの鑑賞での鑑賞。アクションシーンはもちろん迫力満点でしたが、いくつか不満な点もありました。
映画.comの「解説」には、「スパイ組織『IMF』に所属する主人公イーサン・ハント役のトム・クルーズ、『M:i:III』で登場して以降、イーサンの盟友となっているベンジー・ダン役のサイモン・ペッグ、シリーズ全作に登場しているルーサー・スティッケル役のビング・レイムスらおなじみのメンバーはもちろん、前作『デッドレコニング』から登場したグレース役のヘイリー・アトウェル、パリス役のポム・クレメンティエフ、ガブリエル役のイーサイ・モラレスも続投。トム・クルーズ主演作で監督や脚本、製作を数多く担ってきたクリストファー・マッカリーが、今作でもメガホンをとった」と書かれています。
映画.comの「あらすじ」は、以下の通りです。
「前作『ミッション:インポッシブル デッドレコニング』とあわせて2部作として製作され、『デッドレコニング』から続く物語が展開。前作のラストで世界の命運を握る鍵を手にしたイーサン・ハントと、その鍵によって導かれていくイーサンの運命が描かれる。また、これまでほとんど語られてこなかったイーサンの過去などが明かされる。シリーズおなじみとなったトム・クルーズ本人によるスタントシーンも健在で、今作では飛び回る小型プロペラ機にしがみつく空中スタントなどが見どころとなる」
「ミッション: インポッシブル」シリーズは、ブルース・ゲラー が制作したテレビシリーズ「スパイ大作戦」をベースにした、アメリカのアクション・スパイ映画のシリーズです。イギリスの「007」シリーズのアメリカ版と言ってもいいでしょう。そして、007のジェームズ・ボンドに相当する主人公が、IMFのエージェントであるイーサン・ハントで、シリーズ作品すべてトム・クルーズ1人が演じています。監督、脚本、音楽には様々なスタッフが参加し、ラロ・シフリンによるオリジナルシリーズの音楽も使用されています。誰もが耳にしたことがあるでしょう。
前作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」はシリーズ第7弾で、スパイ組織IMF所属の腕利きエージェントであるイーサン・ハント(トム・クルーズ)が、人類を脅かす新兵器を追う物語でした。イーサン率いるIMFチームは、新兵器を探すミッションを下され、悪の手に落ちる前にそれを見つけ出そうとします。そんな中、IMFに所属する前のイーサンの過去を知る男が現れます。仲間たちと世界各地で命懸けの戦いを繰り広げるイーサンにとって、今回のミッションは絶対に成功させなければならないものでした。
「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」は最高に面白くてワクワクしましたが、今回の「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」は正直言ってそこまでワクワクしませんでした。というか、いくつか不満な点があります。まず、タイトルは前作にならって「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART TWO」とすべきでした。「PART ONE」の続編に「PART TWO」が入っていないとは納得がいきません。わたしは几帳面な性格なので、こういったいいかげんなことが大嫌いなのです。それで、まずは萎えました。それから、前後編の二部作というのも好きではありません。前作から時間が経ちすぎてストーリーを忘れてしまうからです。やはり、大作映画は1本完結がいいですね。
「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の冒頭には、過去7作のダイジェスト映像のようなものが流れました。ファンには好評だったようですが、1作目からの復習というより、前作の「あらすじ」をきっちりと紹介してほしかったです。登場人物の説明も含めて前作の説明が足りませんでした。それで、開始からしばらくは物語の中に入っていけませんでした。わたしは映画館でこのシリーズを観たのは前作からですが、前6作は配信で鑑賞しました。そこで思ったのですが、今回はテーマ曲が流れる前のオープニング映像が弱かったですね。これまでは、必ず観客を驚かせるサプライズ的要素がありましたが、今回にはありません。〝トム走り"に頼りすぎだと思いましたね。全体的に、脚本が軽く感じられました。
さて、主演のトム・クルーズといえば、命の危険と隣り合わせのスタントも自らこなすことで知られていますね。彼はわたしの1歳年長ですが、わたしの1歳年少であるキアヌ・リーブスからも「別世界にいる別次元のレジェンド」と称賛されるほどです。本来、アクション映画の主役はスタントマンを使うことが義務づけられています。それは主役が危険なシーンを怪我をすると撮影期間が延びるので莫大な保険金が発生するからです。しかし、トムは自らが会社設立し、自らがプロデューサーも務めているので、多額の保険金を掛けてまで、あえて自身でアクションシーンをこなしています。今回の「ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング」でも、信じられないような極限の潜水スタントに挑戦していました。
トムは、噴火している火山の上をパラセーリングしたり、ジェットエンジンを背負って竜巻の中に入ったり2つの飛行機のあいだをジャンプしたりすることもできるそうです。ただし、インタビューで「サメの背中に乗ったり、目隠しして飛行機を操縦したりするのは"ナシ"だ」と述べ、さらに「崖から飛び降りることはできますが、スノーボードはできません。あるいは、スケートボードに乗って、左右を確認せずに道路を横断するようなことも彼ら(保険会社)は望んでいません」と語っています。それにしても、CGで何でも描けて、AIが人間に取って代わろうかという現代に、「ミッション:インポッシブル」シリーズはトム・クルーズの生身の躍動を感じることができます。特に今回は、北極圏での極寒シーン、そしてプロペラ機の空中バトルのシーンなどに度肝を抜かれました。
過去にはポール・トーマス・アンダーソン監督の「マグノリア」やコメディミュージカル映画「ロック・オブ・エイジス」で助演として良い味を見せたトム・クルーズですが、この10年以上はずっとアクションやSF大作の主演に専念してきています。最近では、一条真也の映画館「トップガン マーヴェリック」で紹介した2022年日本公開の映画が全世界で大ヒットしましたが、同作でも変わらぬアクションスターぶりを見せました。トムが演じるマーヴェリックがパイロットという職業に対する愛情とプライドには大きな感銘を受けました。本作「ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング」の最大の見せ場は決死のプロペラ機飛行ですが、これはあくまでもトリッキーな空中戦です。一方、「トップガン マーヴェリック」で見せた空中戦は王道中の王道でした。非常に感動しました。
マーヴェリックがパイロットという職業に対して持っている強い愛情とプライドは、トム・クルーズが映画俳優という仕事に対して持っているものに通じます。名作「トップガン マーヴェリック」は2019年に製作されました。直後に新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、何度も公開が延期されています。ついにはネット配信に入れるという案も何度も出たそうですが、トムは「この映画は、どうしても劇場で観てほしい」と譲らなかったそうです。結果は、映画館での映画鑑賞という営みがこの上なく素晴らしいものだということを世界中で証明しました。トムは配信系オリジナル作品に1度も出演してない最後のスクリーン俳優です。「トム・クルーズがいる限り "映画体験" は絶滅しない」といった声も多く、「トップガン マーヴェリック」は確実に映画体験の価値を高めました。
正直、今回の「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」は前作に比べてストーリーが弱く、トムのアクションに頼りすぎな印象があります。しかし、そのトムのアクションは極上のそれであり、特に決死のプロペラ機飛行、高度3000mから大空へダイブのシーンは映画史に残る素晴らしいものです。もはや、トム・クルーズは「映画の神」と言えるでしょう。「ミッション:インポッシブル」シリーズの最近の作品は、先に危険なアクションシーンを撮影してから、後でストーリーが考えられるそうです。まるで「アクション大喜利」と言えますが、これまでは後付けの物語がなかなか良くできていたのですが、今回は無理やりのこじつけ感が強く、残念でした。
それから、本作ではアメリカの大統領が黒人女性に設定されています。このへんも「何だかなあ」と思いました。もう、わたしは映画で描かれる多様性とかポリコレには飽き飽きなのです。わたしがハリウッドに対して大きな不信感を抱いているのは、ポリコレとか何とか言いながら、一条真也の映画館「オッペンハイマー」で紹介したような世界で唯一の被爆国である日本を侮辱する作品を作ったことです。同作は、クリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた伝記映画です。興行的に全世界で大ヒットを記録。実在の人物を描いた伝記映画作品として、歴代1位の記録を樹立しました。
「オッペンハイマー」のハイライト・シーンは広島への原爆投下ですが、そこに贖罪や後悔の描写はありません。このような作品が第96回アカデミー賞で作品賞を含む7冠に輝いたことは、ハリウッドの黒い正体を見た思いでした。その上、第48回日本アカデミー賞の最優秀外国映画賞まで与えた事実には開いた口が塞がりませんでした。「オッペンハイマー」という映画については、次回作『死者とともに生きる』(産経新聞出版)で徹底的に批判を展開しました。じつは、「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」に登場するアメリカ大統領の核兵器に対する態度は、「オッペンハイマー」的世界とは正反対と言えるものでした。いわば、"核兵器の始まり"を描いた映画が「オッペンハイマー」なら、「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」が描こうとしたのは"核兵器の終わり"です。この点は素晴らしい!
結論から言うと、この「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」は「オッペンハイマー」への壮大な反論になっているように思いました。アメリカ人の多くは日本への原爆投下を正当であると考えており、ハリウッドの人々もその考えは同じでしょうが、新日家であるトム・クルーズだけは被爆国である日本へのコンパッションを抱いているように思えてなりません。本作でのイーサン・ハントは「地球最後の日」を救う大活躍で、スーパーマンやマーベル・ヒーローズにも引けを取らない働きでした。その世界を救った行動はノーベル平和賞ものではないでしょうか。イーサンはトムの分身であり、トムがどこまでも平和を求めていることがよくわかりました。
TOHOシネマズ日比谷のIMAXで鑑賞
最後に、この映画は正式には23日からの公開ですが、全国の劇場で17日から先行上映されています。わがシネプレックス小倉でも同様ですが、わたしはどうしてもTOHOシネマズ日比谷の4番シアターのIMAX,それもプレミアムシート、つまりは最高の環境で鑑賞したいと思い、東京出張まで待ったのです。冒頭にトム・クルーズの挨拶映像が流れましたが、「日本のみなさん、この映画はぜひIMAXでご覧下さい」と語りかけていました。やはり、ラスト・アクション・ヒーローであるトムの命がけのアクションが炸裂する本作はIMAXで観るべきだと思ったことは間違っていませんでした。ちなみに、トム自身も来日の際に、同じTOHOシネマズ日比谷4番シアターのIMAXでの試写会に参加しています。60代にして素晴らしい肉体を保ち、ハードな動きができるトム・クルーズを見て、「俺も負けておられんぞ!」と思った次第です。
トム・クルーズに負けられない!