No.1084


 新感覚サイコスリラーとして注目を集めているアメリカ映画「コンパニオン」をU-NEXTで観ました。映画評論家の町山智浩氏の紹介動画で知った作品ですが、非常に面白かったです。監督・脚本を手掛けたドリュー・ハンコックは本作がデビュー作だそうですが、凄い才能ですね。
 
 公式HPには、「"巧妙かつ毒のある風刺が効いたスリラー作品"- Peter Debruge,VARIETY」として、「『きみに読む物語』を世に送り出したニュー・ライン・シネマと『バーバリアン』の破天荒なクリエイターたちが贈る、"新感覚"の衝撃サイコスリラー。思う存分楽しんで・・・豪華な別荘で起きた億万長者の死をきっかけに、アイリスとその友人たちは想像を超える衝撃的な事件に巻き込まれる」と書かれています。
 
 公式HPの「STORY」は、「人里離れた山小屋で静かな週末を過ごすはずだった4人の男女。だが、その中のひとりが"人間"ではなかったと明かされた瞬間、空気は一変する。彼女は人間のために作られた従順なアンドロイドだったのだ。しかし、ある過去の記憶と感情に支配され、彼女の"プログラム"は暴走を始める」となっています。
 
 冒頭シーンで、主人公のアイリス(ソフィー・サッチャー)は「私が人生で、最も幸せだと感じた瞬間は2つある」と語り始める。「1つ目はジョシュと出会った日」と続けると、スーパーで買い物中のアイリスとジョシュ(ジャック・クエイド)の出会いのシーンが登場します。ここまではロマコメ映画の始まりのようですが、アイリスが「もう1つは、彼を殺した日」と明かすと、穏やかなトーンは一変します。そして、返り血を浴びたアイリスの姿が映し出されるのでした。
 
 アイリスは、コンパニオンロボット(セックスロボット)として生まれました。映画の中では「エロボット」などとも呼ばれています。まあ、ダッチワイフの進化形のようなものです。しかし、彼女は自分のことを「人間である」と信じているのでした。そんなアイリスとジョシュは、週末を過ごすためにジョシュの友人宅へとやってきます。少し緊張気味のアイリスはそこで、ジョシュの女友達のキャット(ミーガン・スリ)、キャットのボーイフレンドで既婚者のセルゲイ(ルパート・フレンド)、陽気で社交的なイーライ(ハーヴィー・ギレン)、そしてイーライの恋人パトリック(ルーカス・ゲイジ)と過ごすことになります。
 
 ある日アイリスは、セルゲイから不適切な接触を受けたこときっかけに暴走してしまいます。そこで、アイリスはジョシュから、自分がコンパニオンロボットであり、ジョシュはアイリスのバイヤーであるという衝撃的な事実を告げられます。ショックを受けるアイリスはさらに、この旅行の"裏の計画"を知ってしまうのでした。清楚で上品なロボットから血まみれロボットへ変身するソフィー・サッチャーは体当たりの演技で、アイリスの内面の変化を見事に表現していますし、1970年代・80年代のテイストが作品全体に漂っています。
 
「コンパニオン」を観て、わたしは「美女缶」という2003年に公開された筧昌也監督の短編日本映画を連想しました。2005年には、フジテレビ系列のテレビドラマ「世にも奇妙な物語 春の特別編」の一編としてセルフリメイクされ、5月31日に放送された「世にも奇妙な物語35周年SP~一夜限りの復活編~」で再放送されました。「美女缶」という缶詰から少女を作り出した健太郎は、彼女を心から想うようになっていきます。だが、美女缶には「品質保存期間」というものが存在し、その期間が過ぎると少女は自動的に自分の前から姿が消えてしまう事実があったのでした。少女と残り少ない日々を過ごす中で、少女はある日、自身が作られた製品であったことを知ってしまい、衝動的に部屋を飛び出してしまいます。
 
 また、2014年のイギリスのSFスリラー映画「エクス・マキナ」も思い出されます。アレックス・ガーランドが映画初監督を務め、第88回アカデミー賞視覚効果賞を受賞。検索エンジン世界最大手のブルーブック社に勤めるプログラマーのケイレブ(ドーナル・グリーソン)は、ほとんど人前に姿を見せない社長のネイサン(オスカー・アイザック)が所有する山荘に招かれます。人里離れた山間の別荘を訪ねると、女性型ロボットのエヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)が姿を現します。そこでケイレブは、エヴァに搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能の実験に手を貸すことになるのでした。人間と人工知能が繰り広げる駆け引きを、限られた登場人物と舞台設定や目を引くビジュアルで活写した作品です。「リリーのすべて」(2016年)でオスカーに輝いたアリシア・ヴィキャンデルが演じた女性型ロボットの美しさが印象的でした。
 
 多くのレビュアーが指摘していますが、「コンパニオン」は一条真也の映画館「ロボット・ドリームズ」で紹介したスペイン・フランスのアニメ映画のダークサイド版という一面があります。両作品とも、ロボットを通販で購入する物語です。「ロボット・ドリームズ」は、サラ・ヴァロンのグラフィックノベルを原作に、ドッグとロボットの友情を描く長編アニメーションです。1980年代のニューヨーク。マンハッタンで暮らすドッグは孤独を感じ、友人となるロボットを自ら作り上げます。自作のロボットとドッグが友情を深めていく中で季節は移ろい、やがて夏がやって来ます。ドッグとロボットは海水浴に出かけますが、ロボットがさびついて動けなくなってしまうのでした。
 
 ロボットが人間を攻撃する映画といえば、2004年のアメリカ映画「アイ,ロボット」が真っ先に思い浮かびます。原案はSF界の巨匠アイザック・アシモフの『われはロボット』ですが、ロボットとの共存が当たり前となった近未来が舞台です。ロボット工学の第一人者ラニング博士が(ジェームズ・クロムウェル)が殺害されるという不可解な事件が起こり、シカゴ市警のデル(ウィル・スミス)は謎の究明に乗り出すのでした。この映画では、有名な「ロボット工学三原則」が示されます。第一原則「ロボットは人間に危害を加えてはならない」、第二原則「第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない」、第三原則「第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない」という原則からなり、第一原則が最も優先されます。「コンパニオン」のアイリスはプログラムが変更され、攻撃性や知能がMAXにされました。
 
 AIが自我を持って人間を攻撃するという映画では、一条真也の映画館「M3GAN/ミーガン」で紹介した2022年のホラー映画も連想しました。子どもの良き友達となるように開発されたAI人形「M3GAN(ミーガン)」の愛情が暴走するスリラーです。ミーガンに心を奪われる少女は、交通事故で両親を亡くし、深い悲嘆を抱えていました。ぬいぐるみにしろ、AI人形にしろ、喪失感を埋めるために溺愛する子どもが裏切られる姿を見るのは辛いですね。しかし、「コンパニオン」で監督デビューを飾ったハンコックは、「M3GAN/ミーガン」などと同一視される可能性に触れ、「これはロボット映画だけど、他のどのロボット映画とも違う」「AIが間違った方向に向かうのではなく、正しい方向に向かう映画なんです」とその違いを強調しています。彼の次回作が今から楽しみでなりません。