No.1101
7月17日の夜、一条真也の映画館「生きがい IKIGAI」で紹介した日本のドラマ映画とドキュメンタリー映画「能登の声 The Voice of NOTO」をシネスイッチ銀座で観た後、シネスイッチ銀座で観た後、TOHOシネマズシャンテに移動して、「ルノワール」を観ました。日本映画かと思ったら、制作国がインドネシア、シンガポール、フィリピン、フランス、日本となっています。岐阜市内で撮影したはずですが、どういうこと? カンヌ映画祭のコンペティション部門出品作品でもあり、国際色を打ち出しているのかな?
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「バブル景気だった1980年代後半の日本を舞台にした家族ドラマ。仕事に追われる母、闘病中の父と暮らす11歳の少女が、両親のすれ違いに戸惑いながら、周囲の大人たちが抱えるさまざまな事情を垣間見る。監督を務めるのは『PLAN 75』などの早川千絵。『ふれる』などの鈴木唯、『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』などの石田ひかり、『ナミビアの砂漠』などの中島歩のほか、河合優実、坂東龍汰、リリー・フランキーらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「1980年代後半のある夏。郊外の家に暮らす11歳の沖田フキ(鈴木唯)は、仕事に追われる母・沖田詩子(石田ひかり)と闘病中の父・沖田圭司(リリー・フランキー)のもとで、豊かな感受性と想像力を膨らませながら、伸び伸びと毎日を過ごしていた。周囲の大人たちが抱えているさまざまな事情を垣間見ては、それを楽しんでいたフキだったが、両親がすれ違うようになり、彼女の生活にも変化が生じていく」です。
この「ルノワール」という映画、ネットで賛否両論です。否定的な意見も多いのですが、わたしは、リリー・フランキー、坂東龍汰、河合優美といった注目すべき俳優たちが出演していたので鑑賞しました。特に、 一条真也の映画館「君の忘れ方」で紹介した、拙著が原案のグリーフケア映画に主演した坂東龍汰に期待していたのですが、「ルノワール」ではとんでもない役を演じており、ショックでしたね。坂東クン、もう少し役を選んで下さい!
主演の鈴木唯と父親役のリリー・フランキーは良かったです。河合優実は若い未亡人を演じていましたが、印象は薄かったです。でも、鈴木唯演じるフキが彼女に「人は死ぬと泣く どうして哀しいんですか?」と尋ね、河合演じる未亡人は「どうしてかなあ?」と答えるシーンは印象的でした。ちなみに、映画のキャッチコピーは「"哀しい"を知り、少女は大人になる」となっています。画家ルノワールは印象派の巨匠で、光と影を見事に描いた芸術家です。この映画のタイトルの「ルノワール」は、人生は光と影でできているということが言いたいのでしょうね。
わたしが「ルノワール」を観たいと思ったのは豪華俳優陣や「死」がテーマということもありますが、早川千絵監督の前作が一条真也の映画館「PLAN75」で紹介した2022年の問題作だったからです。第75回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、新人監督賞に当たるカメラ・ドールのスペシャル・メンション(特別表彰)を受賞。国内でもブルーリボン賞の監督賞を始めとする多数の賞を受賞した作品です。内容は、じつに衝撃的でした。
映画「PLAN75」の舞台は、超高齢化社会を迎えた日本です。75歳以上の高齢者が自ら死を選ぶ「プラン75」という制度が施行されます。それから3年、自分たちが早く死を迎えることで国に貢献すべきという風潮が高齢者たちの間に広がっていました。78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)は夫と死別後、ホテルの客室清掃員をしながら一人で暮らしてきましたが、高齢を理由に退職を余儀なくされたため、「プラン75」の申請を考えるのでした。
1976年東京生まれの早川監督は、ニューヨークの美大 スクール・オブ・ビジュアル・アーツを卒業後、テレビ東京の番組「モーニングサテライト」のニューヨーク支社でアシスタントとして働きました。アメリカで出産し、数年を経て日本に帰国。WOWOWの映画部で業務委託のデスクワークをこなしながら、30代半ばで、映画学校のENBUゼミナールに通い始めます。卒業制作「ナイアガラ」が、2014年のカンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に入選し、ぴあフィルムフェスティバルでもグランプリを獲得しています。素晴らしいキャリアですね。
早川監督は、オムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編を監督後、WOWOWを退社。2022年、長編映画監督デビュー作となった「PLAN75」が話題に。森ガキ侑大が主宰のクリエイター集団「クジラ」に所属。2025年4月から開志専門職大学で、脚本・プロデュース・編集領域における、アニメ・マンガ学部の教授に就任しました。同年、『ルノワール』が5月開催の第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出されたわけです。「老い」や「死」といったテーマに正面から取り組む早川監督の今後に大いに期待したいと思います。