No.1179


 12日の昼頃、四日市から名古屋を経て、北九州に戻ってきました。その夜、この日から公開されたアメリカ・ベルギー合作のホラー映画「シェルビー・オークス」をユナイテッドシネマなかま16で観ました。さまざまな過去のホラー作品を連想させる内容で既視感はありましたが、多くのテーマをごった煮のように混ぜ合わせながらも、うまく1本の作品にまとめていました。怖さは、まあまあ。
 

 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「失踪した妹の行方を捜す姉が、1本のビデオテープを頼りに廃虚の町で事件の謎を探る姿を描くホラー。オハイオ州の廃虚と化した町を舞台に、妹を捜す女性が失踪事件の真相に迫る。クリス・スタックマンが監督などを手掛け、『ドクター・スリープ』などのマイク・フラナガンがエグゼクティブプロデューサーを務めている。『デストラップ/狼狩り』などのカミール・サリヴァン、『ハリケーン・クラブ』などのブレンダン・セクストン三世のほか、キース・デヴィッド、デレク・ミアーズらが出演している」
 

 ヤフーの「あらすじ」は、「廃虚となったオハイオ州の町シェルビー・オークス。そこで突然姿を消した、人気ホラー生配信チャンネル『パラノーマル・パラノイド』のMCを務めるライリー・ブレナンの行方は分からずじまいだった。やがて12年が過ぎ、妹を捜す姉ミアのもとに失踪の瞬間を捉えたビデオテープが届けられ、彼女はその映像を手掛かりに事件の真相を究明しようとする」となっています。
 
 ホラー系のYouTuberが心霊スポットなどで消息を絶つという物語は多いですね。「シェルビー・オークス」は、まさにそんな映画です。冒頭は、廃墟の町シェルビー・オークスでの失踪事件の続報を伝えるニュース映像から始まります。行方不明となっていたのは人気ホラー実況チャンネル「パラノーマル・パラノイド」のメンバー4人。そのうち、ピーター、ローラ、デヴィッドの3人の遺体が廃墟の近くにある家で見つかりました。ニュース映像で現場の様子が映し出されると、ドアには血で描かれた奇妙な記号と「タリオン」という文字が書かれていました。
 
 3人の遺体が発見された現場に残されたテープには、なんと現場の窓の外に犯人らしき姿が映っているとされるのですが、目を凝らしてみてもその正体は全くつかめません。このあたりから人智を超えたオカルトの世界へ足を踏み入れた感が強くなってきます。報道をめぐってネット上では、「タリオン?」「犯人の名前?」「カルトだ」などと様々な憶測が飛び交い、さらには建物や看板などのいたる場所に「Who took Riley Brennan?(ライリーをさらったのは誰?)」といったグラフィティが描かれ、世間の注目を集める事態へと発展していくのでした。
 
 クリス・スタックマンが監督は「シェルビー・オークス」を作るにあたり、「ファウンドフッテージ」(found footage)へのこだわりをインタビューでアピールしていました。直訳すると「発見された映像の断片」という意味ですが、何らかの理由で行方不明だった(あるいは存在が知られていなかった)映像が見つかり、再生してみると、撮影者たちに恐ろしいことが起きていたことが分かるという設定のものが多いです。フィクション作品に形式的な現実感を持たせるための技法として、21世紀に入ると多用されるようになりました。特にホラー作品と相性がいいですね。
 
ファウンドフッテージ映画の代表作といえば、なんといっても魔女伝説を扱った低予算映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)です。この映画は興行収入の面で大きな成功を収めました。1994年10月、モンゴメリー大学映画学科に在籍する3人の学生、女性監督のヘザー、撮影担当のジョシュア、録音担当のマイクは、魔女伝説を題材としたドキュメンタリー映画を撮影するために、メリーランド州バーキッツビルのブラック・ヒルズの森に向かいます。しかし、その土地に今なお残る伝説の魔女「ブレア・ウィッチ」の森の中で撮影を続ける3人は、不可解な現象に巻き込まれ想像を絶する恐怖を体験し、そのまま消息を絶ちました。事件から1年後、彼らが撮影したものと思われるフィルムとビデオが、森の中で発見されました。映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は、事件を周知して真相が解明されることを遺族が望んだことから、彼らの残したフィルムを再構成して映画化したという設定です。

 一条真也の映画館「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」で紹介した今年1月27日に公開された日本映画も、ファウンドフッテージ映画です。弟が行方不明のままになっている男が、弟のいなくなる瞬間を捉えたビデオテープを手にしたことをきっかけに恐ろしい出来事に巻き込まれるホラーです。一緒に出かけた弟の日向が失踪するという過去を持ち、現在は行方不明となった人間を捜すボランティア活動を続けている兒玉敬太(杉田雷麟)。彼のもとに、母親から古いビデオテープが送られてきます。そのビデオテープには日向がいなくなる瞬間が映されており、霊感を持つ敬太のルームメイト・天野司(平井亜門)は、そのテープに不吉なものを感じ取ります。敬太は忌まわしい過去をたどろうと、司と自分を長年にわたって追いかけている記者の久住美琴(森田想)で日向がいなくなった山に向かうのでした。
 
今年8月8日には一条真也の映画館「近畿地方のある場所について」で紹介した白石晃士監督の日本映画が公開されました。作家・背筋の小説を実写化したミステリーですが、この作品もファウンドフッテージ映画です。行方のわからなくなったオカルト雑誌の編集長を捜索する編集者と記者が、近畿地方のある場所が事件に関わっていることを知ります。幼女の失踪や中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象を調査していたオカルト雑誌の編集長が行方不明になります。彼を捜す編集部員・小沢(赤楚衛二)と記者の千紘(菅野美穂)は、編集長が調査していた事件や現象がすべて近畿地方のある場所につながっていることを知ります。その場所へ向かった2人は、そこで思いも寄らぬ事態に見舞われるのでした。
 
 ファウンドフッテージだけでなく、「シェルビー・オークス」には他にもさまざまなホラー映画の影響が見て取れます。例えば、2006年のアメリカ・カナダ・フランス・日本合作映画「サイレントヒル」。全世界で累計530万本以上の売り上げを記録した同名ゲームを実写版として映画化したホラームービーですが、「シェルビー・オークス」のストーリー設定、廃墟での探索や天井から聞こえる足音、地下室の秘密、突然つかなくなる懐中電灯などのシーンは「サイレントヒル」へのオマージュのように感じました。同作では、「サイレントヒル・・・・・・」と謎の言葉を発して悪夢にうなされながら失踪してしまった最愛の娘シャロン(ジョデル・フェルランド)を探すため、母親のローズ(ラダ・ミッチェル)がウェストバージニア州の街"サイレントヒル"を訪れる物語です。彼女は、忌まわしい過去があって呪われたこの街で、想像を絶する恐怖に襲われるのでした。
 
 あまりストーリーについて詳しく書くとネタバレになってしまいますが、「シェルビー・オークス」は次第に悪魔崇拝の物語の色合いを強めていきます。そこで人間の女性に悪魔の子を妊娠させ、出産させるという設定が出てくるのですが、これは明らかにホラー映画史に残る名作であるアメリカ映画「ローズマリーの赤ちゃん」(1967年)の強い影響を感じます。ポーランド出身の鬼才ロマン・ポランスキーがアイラ・レヴィンの同名小説を映画化したオカルトホラーの先駆的作品です。売れない俳優ガイ(ジョン・ガサベテス)と妻ローズマリー(ミア・ファロー)は、マンハッタンの古いアパートに引っ越してきます。そのアパートは以前から不吉な噂がささやかれていましたが、若い2人は気に留めることもありませんでした。ある日、隣人の老夫婦の養女が不可解な飛び降り自殺を遂げます。その後、隣人夫婦はローズマリーに、養女が生前に身に着けていたペンダントを贈ります。やがて奇妙な悪夢とともに妊娠したローズマリーは、次第に情緒不安定に陥っていくのでした。
 
「シェルビー・オークス」で誕生した悪魔の子は男児でしたがラストシーンで、殺される運命をすんでのところで切り抜け、そのまま成長し続けることが示唆されています。これは「ローズマリーの赤ちゃん」とともにホラー映画史を飾る名作であるアメリカ映画「オーメン」(1976年)を連想させます。同作は、"悪魔の子"ダミアンに翻弄される人々の恐怖を描き、世界的ヒットを記録したオカルトホラーです。アメリカ人外交官ロバート(グレゴリー・ペック)は、6月6日午前6時にローマの産院で生まれてすぐに死んだ我が子の代わりとして、同時刻に誕生した男の子を引き取りダミアンと名づけます。ところが、ダミアン(ハーベイ・スティーブンス)が5歳の誕生日を迎えた頃から周囲で不可解な事件が次々と起こりはじめるのでした。このように多くのホラー名作へのオマージュ的映画の印象がある「シェルビー・オークス」ですが、随所に見られる御都合主義が気になって、わたしはまったく怖くなかったです。あいすみません。