No.1196


 NETFLIXのアメリカ映画「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」を観ました。一条真也の映画館「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」で紹介した2019年の劇場映画、一条真也の映画館「ナイブズ・アウト:グラスオニオン」で紹介した2022年のNETFLIX映画の続編です。今回は本格ミステリーで、シリーズ中では一番面白かったです。

 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「[Netflix作品]『007』シリーズなどのダニエル・クレイグが探偵を演じるシリーズの第3弾で、田舎町で起こった犯罪をめぐる謎解きを描いたミステリー。教会で起きた謎の多い犯罪の捜査を始めた主人公が、過去の忌まわしい出来事にたどり着く。監督は本シリーズや『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』などのライアン・ジョンソン。ジョシュ・オコナーやグレン・クローズ、ジョシュ・ブローリン、ミラ・クニス、ジェレミー・レナーらが共演する」
 
 シリーズ最新作である「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」は、名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が、ある田舎町の教会で起きた犯罪に若く実直な神父と手を組んで真相究明に挑む内容です。会でのミサの最中、登壇脇の小部屋に入ったウィックス司祭(ジョシュ・ブロ―リン)を刺されて死亡します。赤く塗られた悪魔の頭の飾りがついた鋭利な刃物。 そのとき被害者以外に壇上にいたのはジャド司祭(ジョシュ・オコナ―)ったため、彼が犯人と疑われます。警察署長のジェラルディン(ミラ・クニス)は不可能殺人の謎を解き明かすため、探偵のブランを呼びます。ウィックス司祭は教会内の祖父と同じ墓に収められました。しかし激しい嵐が町を襲った夜、墓の扉が内側から開かれ、司祭の死体が消失するのでした。

 シリーズ第1作の「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」は、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)などのライアン・ジョンソン監督がメガホンを取ったミステリー映画です。ニューヨーク郊外の大邸宅で起きた殺人事件をめぐり、くせ者の家族たちがだまし合う物語です。85歳の誕生日を迎えた世界的ミステリー作家のハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)が、その翌日に遺体で見つかります。名探偵のブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は、匿名の依頼を受けて刑事と一緒に屋敷に出向きます。ブランは殺人ではないかと考え、騒然とする家族を尻目に捜査を始めるのでした。

 シリーズ第2作の「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」(2022年)は、名探偵ブノワ・ブランが、絶海の孤島で巻き起こる殺人事件の解明に挑むミステリー映画です。監督・脚本は前作に続いてライアン・ジョンソン。IT業界の大富豪マイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)は地中海のプライベートアイランドに友人たちを招き、ミステリーゲームをしようと提案します。しかし、島で実際に殺人事件が起きたことで状況は一変し、参加者たちは事件の容疑者となってしまいます。不穏な空気に包まれる中、名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は友人同士の間に渦巻く思惑と、事件の真相を解き明かすべく捜査を開始するのでした。
 
 そして、シリーズ第3作が「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」。元ボクサーの神父と探偵がバディを組むという設定が斬新でした。また、前2作よりも本格ミステリー感が強くなって、面白かったです。本格ミステリーというのは、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』によって原型が確立され、イギリスのコナン・ドイルやチェスタトンらの短編時代、および1920年代のアガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、そしてジョン・ディクスン・カーらによる長編本格ミステリーの黄金時代を迎えました。英国で黄金時代が築かれた時期に、日本においては江戸川乱歩によって創作熱が興り、第二次世界大戦後の推理小説復興期には横溝正史の本格長編がその口火を切りました。

 本作「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」には、1冊の推理小説が登場します。1935年に発表されたジョン・ディクスン・カーの長編推理小説『三つの棺』で、本格ミステリーの最高傑作とされる作品の1つで1981年に1717人のミステリ作家、評論家が選出した【オールタイム不可能犯罪ミステリ・ランキング】で、ヘイク・タルボット『魔の淵』、ガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』などをおさえて第1位に輝きました。ロンドンの町に静かに雪が降り積もる夜、グリモー教授のもとを、コートと帽子で身を包み、仮面をつけた長身の謎の男が訪れます。やがて2人が入った書斎から、銃声が響きます。居合わせたフェル博士たちがドアを破ると、絨毯の上には胸を撃たれて瀕死の教授が倒れていました。しかも密室状態の部屋から謎の男の姿は完全に消え失せていたのでした。
 
『三つの棺』は数ある密室ミステリの中でも最高峰と評される不朽の名作ですが、本作「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」のトリックは、明らかに『三つの棺』の影響を強く受けています。映画の中にはいくつかのトリックが散りばめられていますが、いずれも「どこかで見たことあるなあ」と思える既視感のあるものばかりでした。しかし、それらを紡ぎながらの物語の展開は見事だったと思います。特に後半は、謎が怒涛のように明かされていき、観客はカタルシスを得ることができます。登場人物はクセの強い人物ばかりで、しかもそれをクセの強い個性派俳優が演じているので、全員が怪しく見えました。でも、一番怪しく見えたのは探偵のブノワ・ブランで、今回は、依頼によるものではなく、なぜか押しかけ探偵だったのです。
ブノワ・ブランは「小洒落爺」だった!



 前作のダニエル・クレイグもかなり老けた感じがしましたが、本作はもっと老化が進んでいて、長髪で髭も白く、完全に老人になってしまっています。彼はわたしより5歳も年下の1968年生まれで現在57歳なのですから、「ちょっと老け込むのが早すぎるよ!」と言いたくなりましたが、よく見ると、茶色のスリーピースのスーツにトレンチコートを着て、なかなかお洒落です。映画のラストでは、ボルサリーノの帽子に大ぶりのサングラスなどもかけていました。要するに、彼は「小洒落爺」であることに気づきました。そうなると、長髪もイケて見えますし、ジェームズ・ボンド時代よりもカッコ良く感じるから不思議ですね。

 本格ミステリーの最後は、たいてい探偵が容疑者たちを1つの部屋に集めて真犯人を明かすパターンが多いですが、今回は教会の中で真犯人が告解によって罪を告白するという結末でした。今回はブノアの推理ではなく、告解によってすべての謎が解けたのです。「告解(CONFESSION)」とは、主にキリスト教(特にカトリック教会)において、信者が自分の罪や過ちを司祭に告白し、神の赦しを請い、罪を清めるための儀式です。現代では「ゆるしの秘跡」とも呼ばれます。告解は単なる告白ではなく、神との関係を修復し、内面的解放と精神的平安を得るための重要な宗教的行為です。洗礼後に犯した罪を対象とし、定期的な実践が求められます。告解というキリスト教文化を理解する上で、この映画は大きな役割を果たすように思います。
 
 キリスト教を理解する上で、「復活(RESURRECTION)」も欠かすことができない考え方ですが、これも本作「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」の重要なテーマになっています。『新約聖書』には、十字架上で死んだイエス・キリストは、死後3日目に肉体を持って再び蘇ったと書かれています。これはキリスト教信仰の中核をなす出来事です。イエスは自らの死と3日後の復活を預言していましたが、弟子たちは理解していませんでした。復活の朝、香料を持ってきた女性たちが墓が空で、石が脇に転がされ、イエスの体がなくなっているのを発見しました。復活したイエスは、まずマグダラのマリアに、その後ペテロや他の弟子たちにも現れ、「わたしの手や足を見なさい。まさしくわたしだ」と語り、魚を食べたりしてその肉体性を証明したといいます。 一条真也の映画館「パッション」で紹介したイエスの十字架刑を描いた映画の続編が今年公開予定ですが、同作はまさにイエスの「復活」がテーマとなっています。