No.1213
日本映画「禍禍女」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。お笑い芸人・ゆりやんレトリィバァが映画監督に初挑戦した作品です。「好きになられたら終わり」という「禍禍女(まがまがおんな)」の都市伝説を題材に、ゆりやん自身のこれまでの恋愛を投影しながら描き出したとか。内容は悪趣味のきわみで、久々の超変態・胸糞映画!
「愛されなくても別に」の南沙良が主演を務め、ある男性に思いを寄せる美大生・上原早苗を演じる。共演には「ベートーヴェン捏造」の前田旺志郎、「PERFECT DAYS」への出演など多方面で活躍するパフォーミングアーティストのアオイヤマダ、「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの髙石あかり、お笑い芸人の九条ジョー、数々のドラマや映画に出演する鈴木福、Netflixドラマ「極悪女王」でゆりやんと共演した斎藤工、「幼な子われらに生まれ」などの田中麗奈ら豪華キャストが揃いました。
美術大学に通う上原早苗(南沙良)は、上半身裸で煙草を吸う同級生・増村宏(前田旺志郎)に恋をします。純粋だった恋心が「好き」から「大大大好き」へと膨れ上がり、次第にストーカー的な執着や妄想へと狂気をはらんでいきます。好きになったら死ぬまで逃れられないという謎の存在「禍禍女」の噂が流れる中、早苗は好奇心からその謎に迫り、混沌に飲み込まれていくのでした。
この映画、監督のゆりやんレトリィバァ氏自身の実際の恋愛体験を基に構成されているそうですが、ちょっと信じられません。劇中のどのエピソードも常軌を逸した狂気を孕んでいるからです。執拗に男(ひろし)に付きまとう「禍禍女」という存在の噂を耳にした主人公・早苗が、その謎を追ううちに狂気に飲み込まれていく様子が描かれますが、映画公開後に多くの観客からは「ホラーだが怖さよりも生理的な気持ち悪さが強い」といった感想が寄せられています。わたしも、まったく同感です。それでも、公開前から注目度が高く、第62回台北金馬映画祭でNETPAC賞を受賞するなど、海外の映画祭で4冠を達成しています。
企画の発端は、ゆりやんがテレビ番組で映画監督へ興味を示したことだとか。 一条真也の映画館「樹海村」で紹介した2021年の清水崇監督のホラー映画などに携わった髙橋大典プロデューサーは「経験を生かして新たな才能と組みたい」と考えていたことから、監督を依頼したそうです。ゆりやんといえば超人気芸人ですが、それゆえ良くも悪くも色眼鏡で見られる可能性がありました。一方で海外での知名度は高くありません。海外映画祭で賞を受賞したことは「純粋な評価をいただけた」と髙橋プロデューサーは自信を見せています。
髙橋プロデューサーは「ジャンルを鮮やかに横断している。ホラーに止まらず、ミュージカル、恋愛要素、ちょっと笑えるところ。いろんなものを思い切って詰め込んだ点への評価が高い」とも語っています。さらに今回の監督業に生かされたのが、ブログ「極悪女王」で紹介した大ヒットNetflixドラマにゆりあんが主演として参加したことです。同作品は白石和彌監督作品ですが、ゆりあんは現場で悩んだら「白石監督ならどうするかな」と考えたそうで、大胆な表現の背景には「白石イズム」があったようです。
「極悪女王」に続いてゆりあんと共演したのが斎藤工です。ブログ「タキシードを着て、映画とグリーフケアを語る」で紹介したように2024年12月14日に初めて会って以来、わたしは映画監督および俳優としての斎藤工のファンなのですが、本作では禍々女の悪霊に呪い殺される霊能者という情けない役でした。一条真也の映画館「港のひかり」で紹介した舘ひろし主演映画ではチンピラの中でも最低のクズの役、一条真也の映画館「SPIRIT WORLD スピリットワールド」で紹介したカトリーヌ・ドヌーヴ主演映画では水死者の浮遊霊の役と、ここのところロクな役についていません。心配であります。
斉藤工以外にも、いろんなキャストが出演しており、田中麗奈などはなかなか迫真の演技を披露していました。映画の冒頭には、鈴木福の顔が大映しになるのですが、わたしは思わず「ヒグマかよ!」と思ってしまいました。現在、「ヒグマ!」という彼が主演のパニック・スリラー映画が公開中なのですが、上映館も少なく、ネットでの評価も低いので観ていません。鈴木福といえば、子役時代に「マルモの掟」で芦田愛菜と共演した印象が強いですが、愛菜ちゃんが芸能界の王道を堂々と歩いているのに対して、福くんはどこまでもB級感がついて回るのが悲しいですね。
ゆりあんレトリィバァの初監督作は、とんでもない怪作で、カルト映画の風格さえあります。公開前から海外映画祭"4冠達成"という異例の快挙をなしとげ、世界から大きな注目を集めています。作品に感銘を受けた海外の映画関係者からも「一緒に仕事をしないか」とオファーがあったといいます。ゆりあん監督の感性は、驚くほど悪趣味でした。かわいい南沙良ちゃんが演じる上原早苗に卑猥な言葉を言わせる場面には悪意さえ感じましたね。その早苗が恋する増村宏(前田旺志郎)へのストーキングには江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」とか「人間椅子」とか「パノラマ島奇談」に通じる狂気と変態性が漂っていました。
江戸川乱歩といえば、鬼才・石井輝男監督の伝説のカルト映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(1969年)を連想しました。怪奇・幻想・耽美の極致を追い続けた江戸川乱歩の作品「パノラマ島奇談」「孤島の鬼」などを題材にした問題作です。石井監督がより一層の恐怖感を加味しながら、日本海に浮かぶ孤島を舞台にしたミステリーに脚色。能登半島に長期ロケーションを敢行し、裏日本の風光を丹念に取り入れ、妖気迫る雰囲気を盛り上げて描いています。アンダーグラウンド芸術の雄・土方巽と暗黒舞踏塾が繰り広げる、めくるめく乱歩猟奇の世界。この最高にイカれた世界観は、明らかに「禍禍女」にも共通していました!


