No.414


 17日、スターフライヤーで東京に来ました。この日はグリーフケア関係の取材、「出版寅さん」こと内海準二さんと出版関係の打ち合わせ後、夜は内海さんと一緒にTOHOシネマズシャンテで日本映画「凪待ち」を観ました。ネットで非常に高評価なのでずっと気になっていたのですが、北九州では上映されていないのです。公開からかなりの時間が経過しているにもかかわらず、劇場はほぼ満席でした。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『凶悪』『彼女がその名を知らない鳥たち』などの白石和彌監督がメガホンを取ったヒューマンドラマ。パートナーの女性の故郷で再出発を図ろうとする主人公を、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』シリーズや『クソ野郎と美しき世界』などの香取慎吾が演じる。脚本を『クライマーズ・ハイ』『天地明察』などの加藤正人が担当する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「木野本郁男(香取慎吾)はギャンブルをやめ、恋人の亜弓(西田尚美)と亜弓の娘の美波(恒松祐里)と共に亜弓の故郷である宮城県の石巻に移住し、印刷会社で働き始める。ある日、亜弓とけんかした美波が家に帰らず、亜弓はパニックになる。亜弓を落ち着かせようとした郁男は亜弓に激しく非難され、彼女を突き放してしまう。その夜、亜弓が殺される」

 いやあ、久々に凄い映画を観ました!
 これはもう、今年の「一条賞」の有力候補です。
 なんというか、くどいくらいの畳み込み、波状攻撃というべきストーリーで、ようやく登場人物たちの未来に光明が見えてきて、「これでもう終わりかな?」「エンドロールが流れるかな?」と思っても、簡単にそれが裏切られて、また元の木阿弥になってしまう。観ていて、たいそう疲れました。でも、とても面白かったです。「映画とは、こんなにも面白いものか」と思いました。東日本大震災が背景にあるとか、希望と再生の物語とか何とか言うより、とにかく面白い。ダメ男というか人間のクズを演じきった香取慎吾の演技力に脱帽です。正直、彼を見直しました。

 白石和彌監督の映画を観たのは一条真也の映画館「凶悪」で紹介した映画(ピエール瀧が出演!)以来だったのですが、内海さんは彼の作品のファンで、けっこう観ているそうです。この人、とにかく人間の闇を描かせたら天下一品ですね。石巻の印刷工場で働く競輪中毒の男とか、その競輪のノミ行為を行う賭場を仕切っているヤクザとか、「世の中には、ここまでクズがいるのか!」と思ってしまう奴らが続々と登場します。しかし、本当は西田尚美演じる亜弓を殺害した犯人が一番クズなのですが、ネタバレになってしまうので、ここで止めておきましょう。それにしても本当に救いのない映画で、内海さんは「映画に出てくるウイスキーもビールも日本酒もみんなマズそうだった。ここまで、酒がマズそうな映画は珍しい」と変なところで感心していました。

 変なところといえば、わたしも変なところに反応してしまいました。ずばり、競輪の魅力に目覚めてしまったのです。この映画、とにかく競輪のノミ行為の場面がたくさん出てくるのですが、観ているとすごく面白そうで、自分もやりたくなってきます。競輪はわたしの地元である小倉発祥の競技ですが、わたしは一度も競輪をやったことはありません。競輪場にも行ったことはありません。内海さんいわく、「競馬と違って、競輪は人間関係が重要なファクターになる」そうです。つまり、選手同士が先輩・後輩であるとか、出身地が同じとか、そういったことが勝敗に微妙に影響してくるというのです。ならば、人間関係についての著書もあるわたし向きの競技ではないか。選手たちのパーソナル・データを熟知すれば、高い確率で勝てるのではないか。それで、「これからは競輪をやろうかな」と言ったところ、即座に「やめなさい!」と言われました。ぎゃふん!

「凪待ち」を観て、香取慎吾以外にも素晴らしい役者さんを発見しました。亜弓の娘である美波を演じた恒松祐里も輝いていましたが、なんといっても、亜弓の父親である勝美を演じた吉澤健が最高に良かったです。最初は勝美を演じているのは奥田瑛二かと思いました。というのも、一条真也の映画館「洗骨」で紹介した日本映画で彼はアル中の老人・新城信綱を演じたのですが、その姿に吉澤健演じる勝美がそっくりだったからです。もっとも、「洗骨」の信綱も「凪待ち」の勝美も、ともに最愛の妻を亡くして抜け殻のようになった点は非常に似ていました。吉澤健という俳優さんは知りませんでしたが、ネットで調べてみると、1946年5月10日生まれとあります。なんと、わたしと誕生日が同じではありませんか。一気に親しみが湧いてきましたが、年齢は73歳なのですね。

 香取慎吾の話に戻りますが、映画の中に数回出てきた食事のシーンがとても良かったです。コンビニのおにぎりを食べるだけで、あそこまで人生を感じさせる演技はなかなかできるものではありません。それに、彼が演じる郁男の表情がとにかく暗い。目が死んでる。まるで生きる屍のようです。これだけの演技ができるというのは、香取慎吾の人生そのものにも何か心に深い傷を残す出来事があったのではと思わずにいられません。そこで思い当たるのが、例のSMAPの解散騒動です。ジャニーズ事務所内の不幸な人間関係のもつれによって、平成を代表する大スターだったSMAPは有終の美を飾ることができませんでした。特に、メンバーの中で最年少だった香取慎吾が最も傷ついたといいます。

 SMAP解散といえば、香取慎吾は木村拓哉との確執が囁かれました。じつは、「凪待ち」を観て、わたしが連想したのは、一条真也の映画館「検察側の罪人」で紹介した日本映画でした。「凪待ち」と同じく犯人不明の殺人事件を扱った物語ですが、主役のエリート検事を演じたのが木村拓哉でした。わたしはもともとキムタクの出演する映画はけっこう観ているのですが、俳優としての彼の実力は高く評価しています。ふと、「木村拓哉と香取慎吾が殺人事件の映画で共演したらいいな」と思いました。検事と被告でも、刑事と犯人でもいいですが、強者が木村で、弱者が香取の演技合戦を見てみたいです。ジャニー喜多川氏の逝去により、その葬儀(家族葬)で「久々に元SMAPの5人が一堂に会するのでは」と予測されましたが、残念ながら実現しませんでした。その最大の要因は、やはり木村と香取との確執にあったといいます。もし、映画での2人の共演が実現すれば、故ジャニー喜多川氏に対する最高の供養になると思うのですが......。