No.535


 TOHOシネマズ日比谷で日本映画「東京リベンジャーズ」を観ました。ヤンキーが暴れる映画なんて観たのは、中山美穂がヒロインを務めた「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)、「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」(1986年)以来です。でも、タイムリープが登場する時間SFで、意外と面白かった!

 ヤフー映画の「解説」には、「アニメ化もされた、和久井健のコミック『東京卍リベンジャーズ』を原作にしたSFアクション。どん底の生活を送る青年が元恋人を事故で失い、不良だった高校時代にタイムリープして事故の回避に挑む。監督を務めるのは『映像研には手を出すな!』シリーズなどの英勉。『とんかつDJアゲ太郎』などの北村匠海、『あの頃、君を追いかけた』などの山田裕貴、『羊とオオカミの恋と殺人』などの杉野遥亮のほか、今田美桜、鈴木伸之、眞栄田郷敦らが出演する」と書かれています。

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「フリーターの花垣武道(北村匠海)は、高校時代の恋人・橘日向(今田美桜)と彼女の弟・直人(杉野遥亮)が殺され、その死に巨悪組織・東京卍會が絡んでいることを知る。その翌日、駅のホームで何者かに押されて電車が迫る線路に落とされる武道。目を覚ますと不良だった10年前にタイムリープしていた。そんな武道の前に直人が現れ、彼と握手した武道は再び現代に戻る」

 なぜ、わたしは「東京リベンジャーズ」を観ようと思ったか? それは、まず、ブログ「映画『愛する人へ』の監督さんに会いました」で紹介したように、12日、わたしは拙著『愛する人を亡くした人へ』が原案のグリーフケア映画「愛する人へ」の第1回ミーティングに参加しましたが、そこでキャスティングが話題となりました。そして、同作の主演俳優候補がこの「東京リベンジャーズ」のメインキャストの1人であると知ったからです。その俳優のことはあまりよく知らなかったのですが、「東京リベンジャーズ」では異彩を放っていて、一発で気に入りました。

「東京リベンジャーズ」には、日本映画界の現在を代表し、未来を担う若手俳優たちが大量に出演しています。北村匠海、山田裕貴、杉野遥亮、今田美桜、鈴木伸之、眞栄田郷敦、清水尋也、磯村勇斗、間宮祥太朗、吉沢亮という、じつに豪華なメンバーです。吉沢亮などは、東京卍會」という半グレ組織のリーダーを演じています。しかしながら、ブログ「『青天を衝け』スタート!」で紹介したように、NHKの大河ドラマで主人公の渋沢栄一を演じている真っ最中です。「吉沢亮、本当にこの役でいいの?」と思ってしまいますが、彼が演じるマイキーは倫理を重んじるリーダーで、渋沢栄一に通じるところがありました。渋沢が「論語と算盤」なら、マーキーは「論語と喧嘩」といった印象です(笑)。マイキーを演じた吉沢亮と同じか、それ以上に輝いていたのが、ドラケンを演じた山田裕貴(2人とも超イケメン!)です。まあ、「いま、旬の俳優」を知るために、若手人気俳優が一堂に会した「東京リベンジャーズ」をイケメンのカタログのような感じでチェックするのもいいかもしれません。

 それから、ブログ「小倉高校の評議員になりました」で紹介したように、今月9日に母校を久々に訪れ、わが高校時代を思い出し、「高校生が主役の映画でも観るか」という気になったこともあります。この映画に出てくる高校の校舎や教室や下駄箱の感じとかも、なつかしかったです。わたしは高校1年生のときに教室で大喧嘩をしたことがあるのですが、相手は某中学の番長だった男で、名うての不良でした。でも、彼とガチの喧嘩をして以来、仲良くなったのでした。「東京リベンジャーズ」の喧嘩のシーンは派手でしたが、「ちょっとリアルじゃないよなあ」と思った箇所も多々ありました。映画だから、いいですけど。

 俳優たちは20代半ばから後半の者が多く、高校生役にはトシを取っていますが、それなりによく似合っていました。ただ、女子高生役の今田美桜だけは「うーん」と言いたくなる違和感がありました。ショートカットがあまり似合いません。彼女はロングヘアの大人っぽい役の方が似合うのではないでしょうか。「福岡一かわいい女の子」などと言われた彼女ですが、本人は「橋本環奈さんがいるのに、申し訳ないです」と言っていました。福岡県在住のわたしも、福岡一は橋本環奈で、二番が今田美桜だと思います。橋本環奈といえば、ドコモのCMで浜辺美波と美少女共演していましたが、北村匠海は一条真也の映画館「君の膵臓をたべたい」で紹介した映画で浜辺美波の恋人役、「東京リベンジャーズ」で今田美桜の恋人役を演じました。おいおい、それはちょっと、うらやましすぎるぞ!(笑)

 さて、「東京リベンジャーズ」はタイムリープ・ストーリー、すなわち時間を遡る物語です。タイムリープは「時間跳躍」を意味する和製英語で、アニメ映画「時をかける少女」で登場した造語です。「やり直したい過去」や「変えたい過去」は誰もが持っているものであり、観客が共感できる部分が多いジャンルです。タイムリープをテーマにした作品は数多く作られています。切ない恋愛映画からSFアクション大作まで、ジャンルも多岐に渡っています。そして、このジャンルにはグリーフケアの要素が強いことも特徴です。愛する人を亡くした人なら、誰でも過去に遡って「愛する人が死ぬ未来」を「愛する人が死なない未来」に変えたいと思うのは当然であり、人情だからです。

「東京リベンジャーズ」では、主人公の武道が恋人・日向の弟の直人と握手をするとタイムリープが起こるというストーリーになっていました。まったく論理的ではなく、正直「なんじゃらほい?」という感じでしたが、理屈の合うタイムループというのはなかなか難しいもの。「タイムリープ」というテーマ、SF小説やSF映画、さらにはSFマンガなどで数え切れないほど描かれていますが、じつは矛盾なく描くのは至難の業です。日本が誇るSFマンガ「ドラえもん」をはじめ、多くの作品に"つじつまの合わない"タイムリープが散見されます。たとえば、一条真也の映画館「オール・ユー・ニード・イズ・キル」で紹介した2014年のトム・クルーズ主演作を観て、「?」と思った突っ込み所は正直言って多々ありました。

 しかし、一条真也の映画館「テネット」で紹介したSF映画のタイムリープには「?」がありませんでした。「テネット」は、クリストファー・ノーラン監督が驚異のスケールで放つ、極限のタイムサスペンス超大作です。未知なる映像体験の連続に大いに興奮させられました。エントロピーを逆行させることのできる時間逆行マシンというのが登場するのですが、一応、理にかなっているというか、「ああ、その理論なら時間を逆行できるかもしれないな」と観ている者に思わせる不思議な説得力がありました。拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)において、わたしは映画を含む動画撮影技術が生まれた根源には人間の「不死への憧れ」があると述べました。
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死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)



 写真は、その瞬間を「封印」するという意味において、一般に「時間を殺す芸術」と呼ばれます。一方で、動画は「時間を生け捕りにする芸術」であると言えるでしょう。かけがえのない時間をそのまま「保存」するからです。「時間を保存する」ということは「時間を超越する」ことにつながり、さらには「死すべき運命から自由になる」ことに通じます。写真が「死」のメディアなら、映画は「不死」のメディアなのです。わたしは同書に「だからこそ、映画の誕生以来、無数のタイムトラベル映画が作られてきたのでしょう」と書いたのですが、「テネット」の場合は単なるタイムトラベルではありませんでした。まったく新しく「時間」というものをとらえ直した印象でした。

 一条真也の映画館「夏への扉―君のいる未来へ―」で紹介した日本映画も、タイムトラベルSFの古典を映画化したものです。この映画では、冷凍睡眠(コールド・スリープ)で未来に飛んだ主人公が技術者として人生をやり直し、そこから過去に飛んで、自分を陥れた連中にリベンジする場面は痛快そのもので、大いなるカタルシスを感じました。この物語は、冷凍睡眠やロボットやタイムマシンなどが登場するSFなのですが、それ以上に、絶望の底から回復する希望の物語であると思いました。そう、この映画は「東京リベンジャーズ」のようにグレート・リベンジの物語なのです。
 観れば、勇気が湧いてきます!
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TOHOシネマズ日比谷のボックスシート



 時間と復讐をテーマにした「夏への扉―君のいる未来へ―」と「東京リベンジャーズ」という日本映画の2作品が同時上映されていることは、4回目の緊急事態宣言の中にある東京砂漠に咲く2輪の花のように思えてなりません。わたしは、TOHOシネマズ日比谷のボックスシートで「東京リベンジャーズ」を鑑賞したのですが、快適かつ感染防止対策もバッチリでした。ちなみに、もしも、わたしが時間を遡ることができたら、3年前の中国・武漢に飛び、新型コロナウイルスの発生を防ぎたいです!