No.623


 8月19日から公開された日本映画「サバカン SABAKAN」のレイトショーをシネプレックス小倉で観ました。感動の波状攻撃で、何度も涙腺が崩壊しました。こんなに泣いたのは、長女の結婚披露宴以来だと思います。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「1980年代の長崎を舞台に、二人の少年の友情と、それぞれの家族との日々を描く青春ドラマ。クラスで人気者の少年と嫌われ者の少年が、ある冒険を共有することによって親しくなっていく。監督を務めるのはドラマ『半沢直樹』などの脚本を担当してきた金沢知樹。子役の番家一路と原田琥之佑をはじめ、『茜色に焼かれる』などの尾野真千子、『青春☆金属バット』などの竹原ピストル、貫地谷しほり、草なぎ剛、岩松了らが出演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「1986年、長崎。小学5年生の久田(番家一路)は、愛情深い両親(尾野真千子、竹原ピストル)と弟と共に時にはけんかもしながら暮らしていた。彼はあることを機に、家が貧しいためにクラスメートから避けられている竹本(原田琥之佑)とイルカを見るためにブーメラン島に行くことになる。この冒険をきっかけに二人の絆は深まっていくが、ある事件が起きる」

 映画ブロガーのAkiさんが今月16日にUPした「夏に見たいオススメ映画10選!Amazon PrimeやU-NEXTで夏を感じる洋画を見よう」という記事には大変興味深いラインナップが並んでいますが、その中にスティーブン・キング原作の青春映画の金字塔「スタンド・バイ・ミー」(1987年)が入っていました。わたしは、この映画が大好きなので、嬉しくなりました。少年たちが夏に大冒険をして友情を深める物語ですが、「サバカン SABAKAN」で久田と竹本がブーメラン島に行く冒険のエピソードは明らかに「スタンド・バイ・ミー」の影響を受けていると思いました。「スタンド・バイ・ミー」は、オレゴン州の田舎町の12歳の少年4人が行方不明になった少年の死体を見つけに行く物語です。一方の「サバカン SABAKAN」は、長崎県の田舎町の11歳の少年2人がイルカを見つけに行く物語。両者の間には、明らかに影響関係がありますね。日米の違いはあれど、どちらも少年たちの夏休みの大冒険であり、大人になっても忘れられない思い出です。

 「サバカン SABAKAN」を観て、自分の小学生時代のことを思い出しまいた。わたしは桜ヶ丘小学校という公立に通ったので、クラスには貧しい家の子もたくさんいました。不自由のない恵まれた生活をしていたわたしは、仲の良い友達の家に遊びに行ったら、あまりにも貧乏でショックを受けたこともあれば、貧しくて身なりの汚れた子を馬鹿にしたこともありました。今から思うと本当に恥ずかしいことで、タイムマシンで過去に戻ってその子に謝りたいぐらいです。また、主人公の久田少年(番家一路)は作文が得意で、作文コンクールとか読書感想文コンクールとかで素晴らしい成績を残し、先生やクラスメートたちから賞賛されますが、わたしも小学生時代は作文や読書感想文で学校一の成績を残していました。その上、絵画や工作などのコンクルールでも入賞者の常連でした。そんな思い出が懐かしく蘇ってきました。映画の中で、久田少年が竹本少年から「作文がうまいから、大人になったら本を書く人になるといいね」と言われるシーンがあるのですが、小学生だったわたしも、当時の親友から同じように言われたことを思い出しました。彼は、いま、何をしているのかな?

 作文が得意な久田少年は、成長すると作家になります。草彅剛が演じました。しかし、彼が書いた小説は売れず、妻には愛想をつかされ離婚します。ときどき一人娘に会うことを楽しみにしている彼は、いわゆるダメ親父です。わたしは、2016年の一条真也の映画館「海よりもまだ深く」で紹介した是枝裕和監督の映画で阿部寛が演じた、15年前に1度だけ文学賞を受賞したことのある探偵事務所勤務の良太を連想しました。また、やはり2016年の一条真也の映画館「永い言い訳」で紹介した西川美和監督の映画で本木雅弘が演じた、交通事故で妻が他界したものの悲しみを表せない小説家である幸夫も連想しました。良太といい、幸夫といい、「サバカン SABAKAN」の久田といい、小説家という職業は「ダメ親父」と相性が良いようですね。

 それにしても、「サバカン SABAKAN」で久田少年を演じた番家一路と竹本少年を演じた原田琥之佑は素晴らしかったですね。番家クンは現在11歳というから驚きます。原田クンは12歳で、2011年に肺炎のため死去した俳優・原田芳雄さん(享年71)の孫です。2人とも、これから役者としての成長がすごく楽しみな存在です。映画のストーリーの肝になっているサバ缶の軍艦巻きを2人の少年プラス草彅剛で実際に作る動画がありますが、サバカン寿司、すごく美味しそうです。機会があれば自分も食べてみたいと思いました。わたしは少し前に日本を代表する寿司店で舌鼓を打ちましたが、昨夜は業界の会合で京都の祇園のお茶屋さんを訪れました。そこでも料理のシメに旨い寿司が出ましたが、日本でも有数の冠婚葬祭互助会の経営者たちが回転寿司店にも行くことを知りました。彼らはもちろん銀座の高級寿司店にも行きます。値段の高い・安いではなく、美味しいものは美味しいのだなと思いました。

 あと、小学校のときに仲の良かった同級生が転校していって悲しかった経験も思い出しました。わたしは何人か、そういう思い出に残る友だちがいましたが、残されるこちらも辛いですが、たった1人で知らない土地に引っ越して、誰も知り合いのいない学校に転校生として入る彼らの孤独はもっと深かったと思います。本当に、小学生のときの転校に伴う別れは、グリーフそのものでした。いくら仲が良くても、転校後はそれっきり二度と会わないのが大半でしょうが、中には縁があって大学生になってからとか、社会人になってから再会する友人もいるでしょう。どんなに会わない時間が長くても、いったん再会すれば、一気に昔の関係に戻れるのが友だちです。ましてや、大冒険の思い出などを共有していれば、再会の喜びはひとしおでしょう。

 この映画、大人になった久田を演じた草彅剛の存在感が素晴らしかったです。一条真也の映画館「ミッドナイトスワン」で紹介した2020年の主演映画は、日本アカデミー賞の最優秀作品賞および最優秀主演男優賞を受賞しました。この映画を初めて観たとき、草彅の盟友である香取慎吾は「もう役者を辞めたくなったぐらいの名演技だった」と言っています。その香取慎吾も、 一条真也の映画館「凪待ち」で紹介した映画での演技は輝いていましたけどね。その「ミッドナイトスワン」以来の草彅の出演作となる「サバカン SABAKAN」ですが、今回も大いに感動させてくれました。久田少年の両親を演じた竹原ピストルと尾野真千子、竹本少年の母親を演じた貫地谷しほりも良かったです。ただ、一番心に残ったのはミカンを栽培している農家の老人を演じた岩松了でした。ミカン泥棒を繰り返す竹原少年をいつも追いかけ回し折檻していた老人が、最後にキャラ変したとき、わたしの涙腺を守っていたダムは決壊したのでした。金沢知樹監督は、「子どもたちが生まれて最初に観る実写映画を目指したい」と語りましたが、こんなハートフルな映画を最初に観た子どもたちのその後の成長が楽しみですね。