No.1080


 東京に来ています。6月12日の朝、業界の会議に出席する前にTOHOシネマズ日比谷のプレミアムシートでアメリカのホラー映画「MaXXXine マキシーン」を観ました。ホラーというジャンルを超えて、単純に映画として面白かったです!

 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『X エックス』『Pearl パール』に続くホラーシリーズの第3弾。実在の連続殺人鬼ナイト・ストーカーの恐怖に包まれる1985年のアメリカ・ロサンゼルスを舞台に、1作目の惨劇から生還した女優・マキシーンがハリウッドの頂点を目指すさまを描く。同シリーズを生んだタイ・ウェストが引き続き監督・脚本を担当。前2作に続きミア・ゴスが主演を務め、『COP CAR/コップ・カー』などのケヴィン・ベーコン、『TENET テネット』などのエリザベス・デビッキ、『インヘリタンス』などのリリー・コリンズらが共演する」

 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「テキサスでの猟奇的殺人事件をマキシーン(ミア・ゴス)がただ一人生き延びてから6年後の1985年。ポルノ女優として成功した彼女は、ハリウッドスターになる夢をかなえるべく新作ホラー『ピューリタンⅡ』のオーディションに臨む。そのころ、ナイト・ストーカーと呼ばれる連続殺人鬼の凶行が連日報道されており、彼女の周りでも女優仲間が殺される事件が相次ぐ。騒動のさなか、マキシーンは主役の座を勝ち取りスターダムにのし上がる」
 
 時系列からいくと、三部作で最も古い時間を扱っているのは、一条真也の映画館「Pearl パール」で紹介した2023年のホラー映画です。1918年アメリカ・テキサス。華やかなスターに憧れるパール(ミア・ゴス)は、厳格な母親と体が不自由な父親と共に片田舎の農場で暮らしている。若くして結婚した夫は戦地におり、父親や家畜たちの世話に明け暮れる生活にうんざりしていた。あるとき父親の薬を買いに町へ出かけた彼女は、母親に内緒で映画を見た際に映写技師と出会い、ますます外の世界への憧れを募らせていく。そんなとき、地方を巡回するショーのオーディション開催を知ったパールは参加を望むが、母親の非情な言葉をきっかけに抑圧されてきた感情が爆発する。
 
「Pearl パール」は、 一条真也の映画館「X エックス」で紹介した2022年のホラー映画の前日譚です。「X エックス」は、ある老夫婦が暮らす家に足を踏み入れた若者たちの運命を描いています。1979年のアメリカ・テキサス州を舞台に、3組のカップルが映画撮影のために訪れた農場で悪夢のような出来事に遭遇します。女優のマキシーン(ミア・ゴス)、マネージャーのウェインをはじめ6人の男女は、映画「農場の娘たち」を撮影するために借りた農場を訪れます。そこで彼らを迎え入れた老人ハワードは、宿泊場所となる納屋へ一同を案内します。一方マキシーンは、母屋の窓から自分たちを凝視する女性に気付くのでした。この女性こそ映画史に残る殺人老女で、彼女の若き日を描いた映画が「Pearl パール」なのです。しかも、パールを演じるのは、マキシーンを演じたミア・ゴス!
 
 そして、シリーズ3作目の「MaXXXine マキシーン」が公開されました。今回は1985年のハリウッドが舞台です。思いがけず、当時のスタジオツアーも経験することができて映画ファンには眼福でしたが、何よりも嬉しかったのはホラー映画の史上最高傑作といわれるアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」(1960年)の舞台となったベイツ・モーテルが登場し、あろうことか殺し屋から追われたマキシーンがそこに逃げ込む場面でした。その殺し屋というのは、マキシーンを探っていた探偵で、ケヴィン・ベーコンが演じています。それにしても、ケヴィン・ベーコンとは懐かしいですね。フットルース!(笑)
 
「サイコ」は、ヒッチコック監督による画期的なホラー映画の傑作です。アンソニー・パーキンスが精神を病んだ青年ノーマン・ベイツを主演。青年の住む古くて暗い家と、それに隣接するモーテルで無事に夜を過ごす者はいません。不運な宿泊客マリオン・クレイン(ジャネット・リー)は、有名な"シャワーシーン"で犠牲者となります。彼女の行方を捜して、私立探偵そしてマリオンの妹(ヴェラ・マイルズ)がモーテルを訪れます。殺人犯人の正体が明かされるクライマックスへ向けて、恐怖とサスペンスが高まっていくのでした。伝説的ヒッチコック・スリラーにして全てのサイコ・サスペンスのルーツであり、その演出スタイルは恐怖感を煽るバーナード・ハーマンの音楽と共に数多くの模倣やパロディを生みました。
 
「MaXXXine マキシーン」は、「X エックス」や「Pearl パール」に比べて残虐シーンも少なく、ホラーというよりサスペンスといった印象ですが、ラストは超弩級の残虐シーンが登場します。あと、ネタバレになるのを避けるため、あまり詳しいことは書けないのですが、この映画にホラーの色彩を加えたのは悪魔崇拝のカルト教団が登場したことでした。ハリウッドと悪魔といえば、一条真也の映画館「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で紹介した2019年のタランティーノ監督の大作映画で描かれたように、「シャロン・テート事件」を起こした悪名高きチャールズ・マンソンのカルト集団が思い浮かびますが、「MaXXXine マキシーン」では「ハリウッドそのものがカルトである」という考え方が示されています。
 
「ワンス・アポン・ア・イン・ハリウッド」は、人気が落ちてきたドラマ俳優、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は、映画俳優への転身に苦心している。彼に雇われた付き人兼スタントマンで親友のクリフ・ブース(ブラッド・ピット)は、そんなリックをサポートしてきた。ある時、映画監督のロマン・ポランスキーとその妻で女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)がリックの家の隣に引っ越してきますシャロン・テートは、「悲劇の女優」として知られています。1960年代にテレビの人気シリーズに出演し、その後、映画に進出しました。映画「吸血鬼」で共演したのが縁で1968年1月20日に映画監督のロマン・ポランスキーと結婚しましたが、翌1969年8月9日、狂信的カルト指導者チャールズ・マンソンの信奉者達ら3人組によって、ロサンゼルスの自宅で殺害されました。ハリウッド最大の黒歴史です。
 
「MaXXXine マキシーン」には悪魔教の信徒たちによる黒ミサも登場しますが、わたしは「現代イギリスのデュマ」と呼ばれたデニス・ホイートリの代表作『黒魔団』を映画化した「悪魔の花嫁」(原題"The Devil Rides Out")を連想しました。この映画にも悪魔崇拝による黒ミサが登場し、物語の中で重要な役割を果たすのです。1968年の作品ですが、主演はドラキュラ俳優として有名なクリストファー・リーです。「悪魔の花嫁」DVD化もされており、わたしは10回くらい観ました。「MaXXXine マキシーン」の中の悪魔教の信徒たちの言動を見て、わたしはふと『悪魔の言い分』というオカルティズム入門書が作れないかな思いました。最近刊行された『宗教の言い分』(弘文堂)が非常に好評につき思いついたのですが、姉妹本として『幽霊の言い分』というスピリチュアリズム入門書もいいかも。『悪魔の言い分』『幽霊の言い分』は、ツインブックスとして世に問いたい!