No.736


 7月7日の夜、この日から公開されたA24製作のホラー映画「Pearl パール」をシネプレックス小倉で観ました。ロマンティックな七夕の夜にはまったくミスマッチなスプラッタームービーでしたね。暑さも吹っ飛びます!
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「ある老夫婦の家を訪れた若者たちの運命を描く『X エックス』の前日譚。同作に登場する殺人鬼パールの若き日を描き、スターを夢見る彼女が残忍な殺人鬼へと変貌していく過程が映し出される。監督・脚本は『X エックス』と同じくタイ・ウェスト。同作で主人公マキシーンを演じたミア・ゴスが出演し、脚本とエグゼクティブプロデューサーも兼任。共演にはデヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンズ=プーロらがそろう」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「1918年アメリカ・テキサス。華やかなスターに憧れるパール(ミア・ゴス)は、厳格な母親と体が不自由な父親と共に片田舎の農場で暮らしている。若くして結婚した夫は戦地におり、父親や家畜たちの世話に明け暮れる生活にうんざりしていた。あるとき父親の薬を買いに町へ出かけた彼女は、母親に内緒で映画を見た際に映写技師と出会い、ますます外の世界への憧れを募らせていく。そんなとき、地方を巡回するショーのオーディション開催を知ったパールは参加を望むが、母親の非情な言葉をきっかけに抑圧されてきた感情が爆発する」
 
「Pearl パール」は、一条真也の映画館「X エックス」で紹介したホラー映画の前日譚です。「X エックス」は、ある老夫婦が暮らす家に足を踏み入れた若者たちの運命を描いています。1979年のアメリカ・テキサス州を舞台に、3組のカップルが映画撮影のために訪れた農場で悪夢のような出来事に遭遇します。女優のマキシーン(ミア・ゴス)、マネージャーのウェインをはじめ6人の男女は、映画「農場の娘たち」を撮影するために借りた農場を訪れます。そこで彼らを迎え入れた老人ハワードは、宿泊場所となる納屋へ一同を案内します。一方マキシーンは、母屋の窓から自分たちを凝視する女性に気付くのでした。この女性こそ映画史に残る殺人老女で、彼女の若き日を描いた映画が「Pearl パール」なのです。しかも、パールを演じるのは、マキシーンを演じたミア・ゴス!
 
 いやあ、そんなに期待はしていなかったのですが、「Pearl パール」、面白かったです。異様にリズムが良くてグイグイと物語に引き込まれました。結論から言うと、主人公パールは頭のいかれた殺人鬼なのですが、映画の中では思ったほど多くの殺人を犯すわけではありません。この手のスプラッター・ムービーからすれば少ない方だと思います。しかし、パールの異常性がうまく描かれており、案山子とダンスするシーンはあまりに恐ろしくて震撼しました。案山子の顔がまた不気味で、タイ・ウェストはよくこんなシーンを思いついたものです。わたしは、世界のホラー映画史に残るトラウマ映像だと思いましたね。それとともに、この案山子とのダンスほど孤独を見事に描写したシーンもありません。考えてみれば、直近に観た一条真也の映画館「山女」「アシスタント」で紹介した映画も1人の女性の孤独や生き辛さを嫌というほど表現していました。時代や場所は変わっても、「山女」「アシスタント」「Pearl パール」には共通したテーマがあります。
 
 それにしても、この映画を製作配給したA24の快進撃が止まりません。一条真也の映画館「ムーンライト」で紹介した2016年の映画、 「ミナリ」で紹介した2021年の映画、今年だけでも「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」「ザ・ホエール」で紹介した一連のアカデミー賞受賞作品が話題になりました。特に、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(エブエブ)は、第95回アカデミー賞において、最多10部門11ノミネート、そして作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門を受賞という快挙を成し遂げました。まさに「A24の時代」を高らかに宣言した作品であったと思います。
 
 しかし、A24といえば、なんといってもホラー。一条真也の映画館「ヘレディタリー/継承」で紹介した2018年の映画をはじめ、「ミッドサマー」「ライトハウス」で紹介した2019年の映画、「グリーン・ナイト」「LAMB/ラム」で紹介した2021年の映画、そして、「MEN 同じ顔の男たち」で紹介した2022年の映画などがあります。さらには、「Pearl パール」の前作である「X エックス」も2022年の作品です。こうして見ると、わずか5年足らずで世界のホラー映画の勢力図を完全に塗り替えてしまいました。「ヘレディタリー/継承」も、「ミッドサマー」も、「ライトハウス」も大傑作だと思います。ホラー大好きなわたしとしては、A24が次に作る映画が楽しみです!