No.1137


 自民党の新総裁に高市早苗氏が選ばれた10月4日の夜、日本映画「火喰い鳥を、喰う」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。観る前に「ミステリか、ホラーか」とジャンル的に未知数でしたが、これはホラーですね。でも、「世界線」といったSF的な要素もあり、ホラーの枠を超えた傑作に仕上がっていました。わたしは、面白く観ました。ちなみに、本作は今年観た150本目の映画です。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞した原浩の小説を実写化。戦死したと聞かされた祖父の兄が残した異様な日記を読んだ男性とその妻が、それを機に不可解な現象に見舞われる。メガホンを取るのは『空飛ぶタイヤ』などの本木克英。『九龍ジェネリックロマンス』などの水上恒司、『映像研には手を出すな!』シリーズなどの山下美月、アイドルグループ『Snow Man』のメンバーで『映画 少年たち』などの宮舘涼太らが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「祖父の兄でかつて戦死した貞市が書いたという日記を手に入れた久喜雄司(水上恒司)は、『火喰鳥、喰いたい』と書かれた内容に不穏なものを感じる。それをきっかけに彼と妻の夕里子(山下美月)の周囲で、不可解な出来事が頻発する。夕里子は、大学時代の先輩で怪異現象に精通している北斗総一郎(宮舘涼太)に、事態の解明を依頼する。だが、総一郎は夕里子への異様な執着を見せるなど、怪しい言動が目立ち始める」
 
 原作小説は2020年に発表されていますが、アマゾンには「全ては『死者の日記』から始まった。これは"怪異"か、或いは"事件"か」「信州で暮らす久喜雄司に起きた二つの出来事。ひとつは久喜家代々の墓石が、何者かによって破壊されたこと。もうひとつは、死者の日記が届いたことだった。久喜家に届けられた日記は、太平洋戦争末期に戦死した雄司の大伯父・久喜貞市の遺品で、そこには異様なほどの生への執着が記されていた。そして日記が届いた日を境に、久喜家の周辺では不可解な出来事が起こり始める。貞市と共に従軍し戦後復員した藤村の家の消失、日記を発見した新聞記者の狂乱、雄司の祖父・保の失踪。さらに日記には、誰も書いた覚えのない文章が出現していた。『ヒクイドリヲクウ ビミナリ』雄司は妻の夕里子とともに超常現象に造詣のある北斗総一郎に頼ることにするが......。 ミステリ&ホラーが見事に融合した新鋭、衝撃のデビュー作」との内容紹介があります。

 この映画の冒頭では、いきなり墓石にいたずらをされた家族が警察を呼ぶシーンから始まります。 ブログ「墓石開眼供養&納骨式」で紹介したように、最近わたしもお墓を建てたばかりなので、「墓にいたずらをする奴は許せん!」と怒りを感じました。でも、それは一連の怪異の始まりに過ぎず、それ以来、久喜家には不可解な出来事が多発するのでした。冒頭シーンから、田舎の旧家の若嫁・夕里子を演じる山下美月が登場していますが、とても美しかったです。かつて、乃木坂46の先輩である齋藤飛鳥から「目バキ番長」と呼ばれた山下美月ですが、本作では穏やかな表情が印象的でした。彼女はなかなかの演技派ですね。演技といえば、夕里子に横恋慕する北斗総一朗を演じた宮舘涼太の歌舞伎のような大仰な芝居が印象に残りました。

「火喰鳥を、喰う」はユニークな設定のホラー映画でした。日本のホラー映画といえば、現在、一条真也の映画館「男神」で紹介したわが出演作が絶賛公開中です。じつは両作品には共通点がありました。ともに異界と交信するテクノロジーとしての儀式が主要な役割を果たしていますが、さらに両作ともに俳優のカトウシンスケ氏が出演していますね。「男神」では、牧場主の木曽田浩司を演じましたが、馬を見事に乗りこなしていました。後から、馬に乗ったのはその日が初めてと知り、その勘の良さに驚きましたね。「火喰い鳥を、喰う」では謎めいたカメラマンの玄田誠を怪演していました。「男神」の興行上のライバル作品は一条真也の映画館「宝島」、「俺ではない炎上」で紹介した映画かなと思っていましたが、本当のライバルは「火喰い鳥を、喰う」かもしれませんね。そして、その両作品に橋を架けるキーマンこそ、カトウシンスケ氏です!
 
 さて、「火喰い鳥を、喰う」という物語、「どうせ、横溝正史ワールドを今風にアップデートしたのだろう」とタカをくくっていたのですが、どうして、どうして......ミステリもホラーも一気に超える「世界線」というテーマが登場して驚きました。日本のアニメやゲーム、SF作品ではお馴染みですが、「世界線」という言葉は「異なる可能性を持つ並行世界」や「選択によって分岐する未来の道筋」を意味するものとして定着しています。 例えば、特定の選択をした場合にたどる世界が異なるという考え方が、「世界線を変える」「違う世界線に行く」といった表現に反映されています。
 
 ネタバレにならないように気をつけて書きますが、この「火喰い鳥を、喰う」の場合、「世界線を変える」あるいは「違う世界線に行く」分岐点は、久喜貞市がニューギニアの戦地で火喰い鳥を食べたかどうかに関わっています。火喰い鳥は、大柄な体躯に比べて翼が小さく飛べませんが、長距離なら時速50キロ程度で走ることができ、非常に殺傷能力の高い爪を持っています。性格は臆病で気性が荒く、世界一危険な鳥ともいわれます。そんな禽獣を食べようなどと考えるのは、貞市がいた戦地には他に何も食べるものがなかったからです。それでも、彼は生きるために、祖国に帰るために、火喰い鳥を食べようとしたのです。この物語では、火喰い鳥を喰うことは人食のメタファーになっていますが、いずれにせよ、80年前の戦地は極限状況にありました。そのことを思うと、胸が痛みます。
2025年8月15日付「産経新聞」全国版



 日本人だけで310万人もの方々が亡くなられた、あの悪夢のような戦争が終わってから、今年で80年目を迎えました。いくら新型コロナウイルスの感染拡大の被害が大きかったと騒いでみても、戦争のほうがずっと悲惨です。現在も、世界では戦争が続いています。わたしたちが現在平和に生きていられるのは先の戦争で尊い命を散らされた英霊のおかげだということを忘れてはなりません。久喜貞市は果たして英霊となったのか、ならなかったのか? そこがこの「火喰い鳥を、喰う」のポイントなのですが、いずれにせよ、英霊という死者を忘れて日本人の幸福などありえません。その意味で、この映画は終戦80年の節目にふさわしい作品でしたね。本作鑑賞の日に誕生した自民党の高市早苗新総裁が第104代内閣総理大臣となって靖国神社に参拝される日を楽しみにしています!