No.1151
ハッピー・ハロウィン!
10月31日から公開された日本映画「爆弾」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。ワーナーブラザーズの配給です。かなり期待していた作品でしたが、期待に違わず面白かったです。今年は日本映画が信じられないほどの豊作ですが、今また新たに、怪物級の大傑作が誕生しました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「呉勝浩の小説を実写化したミステリー。霊感を持つと称して都内に仕掛けられた爆弾の爆発を予告する男と、爆弾のありかを聞き出そうとする刑事たちの攻防を描く。監督は『恋は雨上がりのように』などの永井聡。『ベートーヴェン捏造』などの山田裕貴、『風のマジム』などの伊藤沙莉、『聖☆おにいさん』シリーズなどの染谷将太のほか、夏川結衣、渡部篤郎、佐藤二朗らが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「酔った勢いで自販機と店員に暴行を働いた中年男(佐藤二朗)が、警察に連行される。男はスズキタゴサクを名乗り、霊感を持っていると称して都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。半信半疑で話を聞いていた刑事の類家(山田裕貴)だったが、実際に爆発が起こり、さらに男はこの後3回の爆発が起こると予見する」
作家・呉勝浩による原作小説『爆弾』(講談社文庫)は、第167回直木賞候補作のベストセラーです。アマゾンの内容紹介には、「東京中に爆弾。怪物級ミステリ-! 自称・スズキタゴサク。取調室に捕らわれた冴えない男が、突如『十時に爆発があります』と予言した。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。爆破は三度、続くと言う。ただの"霊感"だと嘯くタゴサクに、警視庁特殊犯係の類家は情報を引き出すべく知能戦を挑む。炎上する東京。拡散する悪意を前に、正義は守れるか」と書かれています。この本、じつは発売直後に買っていたのですが、忙しくて読めていません。でも、映画を観れば、原作が傑作であることがよくわかります。
詳しいストーリーはネタバレになるので書けませんが、本当にスリリングで面白い物語でした。冒頭から、泥酔した男が自販機と店員に暴行を働いて逮捕され、警察署内で取り調べを受けるシーンから始まります。とてもわかりやすい物語の開始なので、観客はその後の流れもスムーズに理解することができます。本に読みやすさを意味する「リーダブル」という言葉があるなら、この映画は観やすいという意味で「ウォッチャッブル」でした。そして、なんといっても、爆弾の爆発を予告する男・スズキタゴサクを演じた佐藤二朗の演技が最高でした。何も失うものがない人間を「無敵の人」などと呼びますが、見事なまでに無敵の人になり切っていました。
スズキタゴサクと知恵比べをする刑事の類家を演じた山田裕貴も良かったです。こういう三枚目の役でも抜群の存在感を放っていましたね。彼の妻は女優・西野七瀬ですが、彼女は一条真也の映画館「君の忘れ方」で紹介した拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林・PHP文庫)を原案とする日本映画でバス事故死する女性を演じました。その婚約者の役が坂東龍汰でしたが、彼も「爆弾」に巡査長の役で出演しています。物語のキーマンとなる非常に重要な役どころでしたが、期待値を超える熱演でしたね。じつは、「君の忘れ方」での彼の役は当初は山田が候補に上がっていました。実現すれば西野七瀬との夫婦共演となりましたが、結局は坂東に決まったのです。ですから、「爆弾」で山田と坂東の2人が共演している姿を見て、わたしはちょっとした感慨に浸りました。
山田裕貴と坂東龍汰の他も、染谷将太、渡部篤郎、寛一郎、そして伊藤沙莉......「爆弾」で警察関係者を演じた俳優陣はみんな良かったです。それぞれがすごく人間臭くて、エモーショナルでした。また、夏川結衣は一条真也の映画館「沈黙の艦隊 北極海大海戦」で紹介した映画での女性大物政治家役とは打って変り、人生に疲れた中年女を見事に演じていました。政治家の貫禄も、未亡人の哀愁も、パーフェクトに出せるのですから、女優というのは大したものですね。あと、一条真也の映画館「男神」で紹介した日本映画に重要な役で出演していた加藤雅也が信じられないほど情けない役で出ていて驚きました。彼とは同い年なのですが、これまでのイメージを覆す最低の汚れ役です。よくオファーを受けたものです!
それにしてもリアリティも満点で、この映画で描かれたような犯罪は現実に起こりうるのではないかと心配になりました。そんなこんなで、映画「爆弾」は個性豊かな名優たちが、先の見えない不安に満ちた物語を彩ってくれる大満足のエンターテインメントでありました。文句なしの大傑作です。一条真也の映画館「国宝」で紹介した日本映画の名作のメガホンを取った李相日監督の大ファンだという佐藤二朗が「爆弾」の公開記念舞台挨拶で「化け物みたいに面白い作品は1本だけじゃない」と言っていましたが、激しく同意いたします!


