No.554


 オミクロン株の猛威は衰えません。「もう、どうにも止まらない!」といった感じです。「このままでは映画館で映画が観れなくなる」と感じたわたしは、小倉のシネコンに駆け込み、ずっと観たかった作品をついに鑑賞。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」です。いやあ、感染防止の免疫力を上げてくれるぐらい面白かったです!

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「トム・ホランドが主人公ピーター・パーカーにふんする『スバイダーマン』シリーズの第3弾となるヒーローアクション。スパイダーマンであることが世界中に知れわたってしまい、平穏な生活を送ることができなくなったピーターが、自らの宿命と向き合う。共演はゼンデイヤやベネディクト・カンバーバッチなどのほか、Dr.オクタビアス役のアルフレッド・モリナをはじめとする過去のシリーズに登場したヴィラン役の俳優たちが再び出演。監督を前2作に引き続きジョン・ワッツが務める」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「スパイダーマンの正体がピーター・パーカー(トム・ホランド)だという記憶を世界から消すため、ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)はある呪文を唱えるが、それがドック・オク(アルフレッド・モリナ)らヴィランたちを呼び寄せてしまう。ヴィランの攻撃によって、ピーターのみならず恋人のMJ(ゼンデイヤ)らピーターの大切な人たちにも危険が及ぶ」

「スパイダーマン」シリーズといえば、誰も知る名作アメコミの映画化作品です。わたしは「アベンジャーズ」とか「ジャスティス・リーグ」のようなオールスター総登場のヒーロー映画は好きですが、単独のヒーロー映画は基本的に観ません。例外は、一条真也の映画館「ワンダーウーマン」に始まるガル・ガドット主演シリーズや、「アクアマン」で紹介した作品、さらには「ジョーカー」で紹介した「バットマン」シリーズのスピンオフ作品は面白く、大いに堪能しました。でも、定番といえる「スーパーマン」シリーズ、「バットマン」シリーズ、「スパイダーマン」シリーズなどはまったく観たことがありませんでした。

 しかしながら、なぜ、この「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」だけは観ようと思ったのか? それは、まず、この映画が大ヒットしており、かつネットにおける評価が非常に高かったからです。今年の1月7日に劇場公開されましたが、一足先に公開したアメリカでは、全米のオープニング興行成績歴代3位いう超大ヒットで、週末3日間で288憶円という歴史的な記録を残しました。一条真也の映画館「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」で紹介した歴代最高のヒットを飛ばしたアニメ映画のときもそうでしたが、これだけヒットしているのなら一度は見ておかねばならないと思いました。社会現象にまでなった「鬼滅の刃」について、インサイト代表の桶谷功氏は「ブームを巻き起こしているものがあったら、たとえ自分の趣味ではなかろうが、軽薄なはやりもの好きと思われようが、必ず一度は見ておくべきです。社会現象にまでなるものには、どこか優れたものがあるし、『時代の気分』に応えている何かがある。それが何なのかを考えるための練習材料に最適なのです」と述べていますが、今回も「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」を観るべきかなと思いました。

 次に、日頃からリスペクトする映画評論家の町山智浩氏が2021年ベスト映画にこの「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」を選び、しかも「ぼろ泣き」したと知ったからです。町山氏は「『スパイダーマン』シリーズっていうのは映画版で超大作で作られるようになったのは2002年からなんです。そこから20年間、『スパイダーマン』を作ってきているわけですけど。全部で7本の映画が作られているわけですが。その全部の総決算みたいな映画だったんです」とラジオで述べ、さらに「スパイダーマンの20年間の歴史みたいなもの、ドラマを今回の『ノー・ウェイ・ホーム』は全部、受け止めるんですよ。見事に。で、その今までずっとつなががってきたスパイダーマンの悲しみであるとか、そういったものをがっちり受け止めて。しかもそれをね、ものすごく優しく切ないやり方で美しく着地させるんですよ」と語っています。
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映画が好き」より



 そして、「映画を愛する美女」こと映画ブロガーのアキさんもこの作品を絶賛していたからです。わたしは、映画への愛情に溢れた彼女のブログ「映画が好き」を愛読しているのですが、「『スパイダーマン』シリーズ7作品のロケ地14選in ニューヨーク!」という記事で、「スパイダーマン」の舞台がわたしの大好きなニューヨークであり、ニューヨーク公共図書館、タイムズスクエア、ブルックリン・ブリッジなどの名所が次々に登場することを知りました。さらには、アキさんの「『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』フル動画を無料で見れる動画配信は?」という記事には、これまでのシリーズ全7作、そして最新作の魅力がふんだんに書かれています。これを読んで、「スパイダーマン」を食わず嫌いだったわたしも完全にノックアウトされ、ネットフリックスで過去作品を復習する気になったのです。じつは、「鬼滅の刃」「ソウルフル・ワールド」「愛の不時着」などもアキさんに教えていただいたのですが、わたしが観ないような作品をあえて紹介してくれるアキさんにはいつも感謝しています。みなさんも、ぜひ「映画が好き」をお読み下さい。おススメです!

 スパイダーマン単体の実写映画はこれまでに8作品が作られており、「初代」、「アメイジング」、「ホーム」シリーズの3シリーズに分けられます。「スパイダーマンシリーズ」は監督によって、テイストの違いがあります。2002年から公開された、2002年から公開のサム・ライミ監督による初代シリーズは、全3作品です。主人公のピーター・パーカーはトビー・マグワイアが演じました。次に、2012年から公開のマーク・ウェブ監督による「アメイジング・スパイダーマン」シリーズは全2作品で、主人公はアンドリュー・ガーフィールドが演じました。そして、2017年から公開された3代目が「スパイダーマン・ホームカミング」シリーズで、主人公を演じるのはトム・ホランド。このシリーズは、その他のヒーローと世界線を共有するMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の1つとしてジョン・ワッツ監督によって3作品が作られ、その最新作が本作「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」です。ネットフリックスで過去作品をしっかり復習してから、映画館に向かいました。

 第1作目の「スパイダーマン」(2002年)では、幼くして両親を亡くし、伯父夫婦のもとで大切に育てられたピーターが高校3年生となります。彼は、6歳の頃からずっと思いつづけている隣家のメリー・ジェーン(MJ)に未だに打ち明けることができないちょっと冴えない高校生でした。ある日、ピーターは親友のハリーから彼の父親ノーマン・オズボーンを紹介されます。ノーマンは巨大軍需企業オズコープ社の経営者にして天才科学者でした。ノーマンはピーターの科学の才能を高く評価し、彼に目を掛けるようになります。そんなピーターは、大学の研究所を見学した際、遺伝子組み換えでスーパースパイダーとなったクモに刺されてしまいます。その瞬間、ピーターの身体に異変が起こり始めるのでした。一方、ライバル企業との競争や重役たちに追い詰められストレスを溜めていたノーマンは、薬の副作用で別人格が覚醒し「グリーン・ゴブリン」となり、自分の私利私欲のために暴走を始めます。

 第2作目の「スパイダーマン2」では、世界中を熱狂させた前作から約2年後の物語が描かれます。グリーン・ゴブリンとの死闘を経て、大学生となったピーターはMJへの思いを募らせていた。一方、スパイダーマンを憎む親友ハリーとの関係も複雑になっていました。そんなピーターの前に、科学者オットー・オクタビアスが現れます。ハリーは父ノーマン亡き後、オズコープ社の社運を賭けた核融合プロジェクトを仕切っており、その中心人物がオクタビアスでした。ある日、事故で制御チップを失ったアームの人工知能が覚醒し、オクタビアスの精神を乗っ取り、医師達を虐殺して逃亡してしまいます。思考をアームに支配されたオクタビアスは「ドック・オク」と化し、実験装置の再建をもくろみ資金調達のため銀行を襲撃します。一方、ヒーローとしての使命に迷いが生じていたピーターは、超人的な力が消え始めます。苦悩の末、ピーターは遂にスパイダーマンを引退することを決意するのでした。

 第3作目の「スパイダーマン3」(2007年)では、前作から約3年、今やニューヨークの象徴として、市民に愛される存在となったスパイダーマン。かつて暴漢に襲われて亡くなったベンおじさん殺害の真犯人、フリント・マルコが刑務所から脱獄。その情報を知らされ激しい怒りに燃えるピーターは、メイおばさんの制止の言葉も聞かず犯人の行方を追います。マルコはとっさに物理研究所の構内に逃げ込むが、そこで偶然行われていた分子分解の実験に巻き込まれ、体が砂で構成されている怪人「サンドマン」と化してしまいます。ピーターは、謎の液状生命体「シンビオート」に寄生され、気がつけば今まで以上のパワーを持った「ブラック・スパイダーマン」となっていました。ブラック・スパイダーマンに変身したピーターは、サンドマンと死闘を繰り広げるのでした。

 第4作目の「アメージング・スパイダーマン」(2012年)は、リブート超大作。高校生のピーター・パーカーは両親が失踪した8歳のときから伯父夫婦のもとで暮らしていました。ある日、ピーターは父リチャードの共同研究者だったコナーズ博士のもとを訪れ、単独で侵入した「バイオケーブル」の開発室で遺伝子組み換えされたクモに刺され、博士の下で実習している同級生のグウェン・ステイシーに追い出されてしまいます。その帰りの電車の中でピーターは驚異的な身体能力に目覚めます。後日、ピーターはオズコープに出入りするようになり、コナーズ博士と共に爬虫類の再生能力を転用した薬品の開発を成功させます。完成したと思われていた薬は不完全なもので、コナーズ博士をトカゲ人間「リザード」に変身させてしまいます。リザードの正体をコナーズ博士と知ったピーターは、彼を止めようとスパイダーマンに変身して奮闘するのでした。

 第5作目は、「アメイジング・スパイダーマン2」(2014年)。ピーターは父リチャードが残した情報から破棄された地下鉄の隠し研究室を突き止め、そこに残されていたビデオメッセージから失踪した理由を知ります。その直後、自己から電気人間となった「エレクトロ」が街中の電気を吸い取り、ニューヨーク一帯を停電させます。スパイダーマンとグウェンは協力して、エレクトロを倒します。しかし、旧友のハリー・オズボーンが「グリーン・ゴブリン」に変身し、グウェンを時計塔の頂上から突き落とします。彼女は即死でした。グウェンの死に強いショックを受けたピーターは、スパイダーマンとしての自警活動を止めます。しかし、新たな敵である「ライノ」が暴れ出し、グウェンの卒業スピーチで自信を取り戻したピーターは、スパイダーマンとしてライノの前に現れるのでした。

 第6作目の「スパイダーマン・ホームカミング」(2017年)は、2度目のリブート超大作です。ニューヨークでのアベンジャーズとチタウリの戦いの後、瓦礫撤去を任されていたエイドリアン・トゥームスは、「アイアンマン」ことトニー・スタークと政府が設立したダメージコントロール局(損害統制局)によって職を奪われてしまいます。行き詰まったトゥームスは、政府に未提出だったチタウリの残骸を再利用してハイテク兵器を作り、密売することで利益を得ます。一方、15歳の高校生ピーター・パーカーは、まるで部活動のようなテンションでスパイダーマンとして活動。まだ若い彼の才能に気付いたトニーは、ピーターを真のヒーローとして育てようとします。スタークに新しいスーツを新調してもらったピーターは、意気揚々と街へ乗り出しますが、やることなすこと失敗続きでした。トニーに見捨てられたピーターは学校生活に専念することを決め、リズをホームカミング・パーティーのパートナーに誘います。パーティ当日の夜、リズの家を訪れたピーターを迎え入れたのは何とトゥームスでした。

 第7作目は、「スパイダーマン・ファー・フロム・ホーム」(2019年)。サノスとの最終決戦から8ヶ月後のミッドタウン高校では「指パッチン」(「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」でサノスがインフィニティ・ストーンで宇宙の半数の命を消滅させたことを指す)から帰還した者たちが、その時の姿のままで登校を再開していました。ピーター・パーカーは、学校が企画した2週間のヨーロッパ研修旅行に参加し、想いを寄せるMJに告白することを決意。旅行の最中、水の怪物が現れ市民やピーターたちを襲撃。思うように戦えないピーターの前に、空を飛び魔法のようなパワーを操る男が現れ怪物を制圧。その夜、ニック・フューリーから召集されたピーターは、人々からミステリオと呼ばれるようになったその男クエンティン・ベックと対面。光のカーニバルが開催されるプラハで、ベックとともに火の怪物を倒したピーターは、ベックの中にトニーの面影を見出し、ミステリオこそがアイアンマンの後継者であると眼鏡をベックに譲り渡すのでした。

 そして、第8作目が今回の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(2021年)というわけです。この作品を観て、感銘を受けたのは主人公ピーター・パーカーをトム・ホランドが演じるだけでなく、過去2シリーズの主人公を演じたトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドも、それぞれピーター・パーカーとして出演していることでした。つまり、この映画には3人のぴたー・パーカー=スパイダーマンが登場するのです。そのカラクリは、彼らは別の宇宙からやって来た存在、つまりマルチバースの住人という設定なのです。しかも、ドクター・ストレンジによる「世界中の人々がピーター・パーカーを忘れる」という魔法が失敗したために、逆に「ピーター・パーカーをよく知っている人々」を全宇宙から呼び集めたという理屈で、これには大いに納得しました。3つのシリーズの物語を、3つの違うユニバースが同時に存在することで統合するというアイデアには感服しました。
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ハートフル・ソサエティ』(三五館)



「マルチバース」については、拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「神化するサイエンス」で詳しく紹介しましたが、ユニバース(世界、宇宙)の「ユニ」を「マルチ」に置き換えたものです。つまり、宇宙というのは、1つ(ユニ)でなくてもいい、たくさん(マルチ)存在していい、宇宙はいくらでも無限に生まれるのだという考え方です。ビッグバン宇宙国際研究センター長を務めた宇宙物理学者の佐藤勝彦氏は、自身が提唱者の1人である有名な「インフレーション理論」を発展させる中で、インフレーション中の宇宙には、子どもの宇宙がいくつも生まれて、さらに孫の宇宙、曾孫の宇宙も生まれるという理論を考えました。この佐藤氏によるマルチバース理論は、「人間原理の宇宙論」の解釈として強力な説得力をもっています。そして氏は、「宇宙について考えていくと、結局、人間の存在の意味や意義についても、何かが示されることになる」と述べています。

 マルチバース理論は、量子論の「多世界解釈」にも通じます。現代物理学を支える量子論によると、あらゆるものはすべて「波」としての性質を持っています。ただしこの波は、わたしたちが知っている波とは違う、特殊な波、見えない波です。それで、この波をどう理解するかという点で解釈の仕方がいくつかありますが、その1つが多世界解釈というものです。SFでは「パラレルワールド」とか「もう一人の自分」といったアイディアはおなじみですが、わたしたちが何らかの行動をとったり、この世界で何かが起こるたびに、世界は可能性のある確率を持った宇宙に分離していくわけです。量子論においては、いわゆる「コペンハーゲン解釈」が主流となっていますが、この多世界解釈こそが量子論という最も基本的な物理法則を真に理解するうえで、最も明快な解釈でしょう。そして、世界が複数に分かれていくという、一見すると非現実的に思えるこの多世界解釈という考え方が、実は物質世界が本当にどういうものであるかを認識するうえで、非常に本質的なものを抱えているとのかもしれません。

「マルチバース」をテーマとした映画が、今年5月4日公開予定の「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」です。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」で重要な準主役というべき重要な役割を演じたドクター・ストレンジが活躍する単独映画第2作で、監督はサム・ライミ。ドクター・ストレンジの本名はスティーヴン・ヴィンセント・ストレンジです。天才的な脳外科医として全米に名声を轟かせていたストレンジは、自動車事故で両腕に大怪我を負ってしまい精密な腕の動きができなくなってしまいます。脳外科医を辞めましたが、キャリアが原因でプライドが高くなりすぎて普通の勤務医になれず、失業し貧困に苦しめられていました。そんな時、どんな傷をも治せる魔術師がチベットに居ることを聞きつけ、藁にもすがる思いでチベットに赴きます。

 チベットの魔術師エンシェント・ワンは、紛れも無く本物の魔法・魔術を扱う魔術師でした。ストレンジの中に何かを感じ取ったエンシェント・ワンは、治療の代償として弟子入りを持ちかけます。最初はそれを断ったストレンジでしたが、やがて彼の弟子として魔術を学ぶことを決意。7年間の修行の末に魔術を会得したストレンジは、魔術を正しきことに使うため「ドクター・ストレンジ」と名乗ってヒーロー活動を開始するのでした。じつは、わたしは、このドクター・ストレンジというキャラクターが大好きです。知的なナイスミドルといった印象で、とにかくカッコいい。銀座のクラブなどで絶対モテるタイプだと思います。(笑)そのカッコ良さは、彼が魔術師であることに秘密があります。すなわちドクター・ストレンジには、神官、僧侶、神父、牧師といった聖職者たちと同じ「儀式マスター」としての威厳があるのです。わたしは、ドクター・ストレンジのようなカッコ良いオジサンになりたい!

 そのドクター・ストレンジが「世界中の人々がピーター・パーカーを忘れる」という魔法を試みますが、度重なる妨害によって魔法は失敗し、逆に「ピーター・パーカーをよく知っている人々」を全宇宙から呼び集めてしまいます。それは初代スパーダーマン、2代目スパイダーマンのみならず、グリーンゴブリン、ドック・オク、サンドマン、リザード、エレクトロといった過去のライバルであったヴィランたちも呼び寄せてしまうのでした。過去の怪人たちが一同に結集する刺激的な場面を観て、わたしは日本の特撮ドラマの名作である「仮面ライダー」を連想しました。

 告白すれば、わたしは小学生時代に観た「仮面ライダー」に多大な影響を受けています。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」で初代と2代目と3代目のスパイダーマンが共闘するところも、仮面ライダー1号・2号・Ⅴ3の共闘を懐かしく思い出しました。「仮面ライダー」といえば、最初の敵が蜘蛛男で、2番目の敵が蝙蝠男でした。英語でいえば、スパイダーマンとバットマンです。思えば、「スパイダーマン」の異種交配というテーマは「仮面ライダー」にも通じています。仮面ライダー1号の本郷猛は、バッタの能力を人間に植え付けたサイボーグだからです。いつか、仮面ライダー・スパイダーマン・バットマンのコラボ映画が日米合作で作られれば楽しいですね!

 マルチバースから集められたヴィランたちを、ドクター・ストレンジはそれぞれの世界に送り返そうとします。しかし、そうすると彼らが死んでしまうことに気づいたピーターは、メイおばさんの「彼らにやり直すチャンスを与えたい」というアドバイスを受けて、ヴィランたちに良心を取り戻す治療を施すことを決意します。ピーターの道徳心はメイおばさん譲りですが、これは「仮面ライダー」と同じく石ノ森章太郎原作の「人造人間キカイダー」に登場する良心回路を思い出しました。やはり、日米のヒーロー映画には共通点が多いです。というか、マーベルが石ノ森作品の影響を受けているのかもしれませんね。しかしながら、ピーターの道徳心が悪党相手に甘いことは誰が見てもわかります。案の定、ヴィランたちは命を救ってくれようとしているピーターを裏切って暴れ始めるのでした。

 さらに、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」はグリーフケア映画であることに気づきます。本作の冒頭で、世界中からスパイダーマンが誤解され憎悪されることも悲しいことですが、「スパイダーマン」の3シリーズには、多くの死別の悲しみが描かれています。初代スパイダーマンは両親とベンおじさんを亡くし、2代目は愛するグウェンを亡くし、3代目はメイおばさんを亡くします。それぞれ、ピーター・パーカーにとって、かけがえのない愛する人でした。そして、愛する人を亡くした悲しみからピーターが立ち直っていく姿が感動的に描かれます。まさに、グリーフケア映画です。グリーフケアといえば、この映画に登場するマルチバースという宇宙観も重要であると思います。つまり、今は亡き愛する人が別の宇宙で生きていると考えることができるからです。じつは、わたしは、マルチバースやパラレルワールドの考え方がグリーフケアの機能も果たし、自死の防止にもつながると思っています。

「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」には、死別よりもさらに深刻なグリーフが登場します。それは、愛する人から自分が忘れられることです。この世界を救うために、ピーター・パーカーは自分が忘れられる魔法をドクター・ストレンジによってかけられ、最愛のMJをはじめ、誰もピーターのことを忘れてしまうのでした。現在、多くの死者たちが生き残った人々から忘れ去られていますが、わたしは、死者のことを思うことが、死者との結びつきを強めると考えています。メーテルリンクの『青い鳥』には「思い出の国」というのが出てきます。自身が偉大な神秘主義者であったメーテルリンクも、死者を思い出すことによって、生者は死者と会えると主張しているのです。
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愛する人を亡くした人へ』(現代書林)



 拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)の「記憶」に書きましたが、アフリカのある部族では、死者を二通りに分ける風習があるそうです。人が死んでも、生前について知る人が生きているうちは、死んだことにはなりません。生き残った者が心の中に呼び起こすことができるからです。しかし、記憶する人が死に絶えてしまったとき、死者は本当の死者になってしまうというのです。誰からも忘れ去られたとき、死者はもう一度死ぬのです。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の最後、ピーター・パーカーは忘れ去られた死者のような存在となります。友人も知人も誰も彼のことを記憶していません。そして、恋人さえも。こんなに深い悲嘆がこの世にあるでしょうか?

 じつは、前世で愛し合った男女も死んでしまえば記憶を失うとされています。しかし、この宇宙には「アカシックレコード」という全記憶の貯蔵庫があり、そこにアクセスすれば、前世で記憶も、忘れられた記憶も蘇るといいます。宇宙は、生成発展の記録を、全てアカシックレコードに収めていますし、今後どのようなことが起こるのか、未来についても記録しているといいます。よって、このアカシックレコードを読むことができれば、過去や未来まで、全て見通すことができるわけです。チベットで修行を積んだドクター・ストレンジならば、アカシックレコードにアクセス可能かもしれません。そして、世界からピーター・パーカーの記憶を取り戻してくれるのではないでしょうか?