No.633


 10月1日の夜、日本映画「"それ"がいる森」をシネプレックス小倉で観ました。Jホラーの巨匠である中田秀夫監督の最新作ですが、「太陽にほえろ!」で松田優作が演じたジーパン刑事みたいに「なんじゃこりゃあ!」と叫びたくなるトンデモ映画でした。ズッコケました!
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「不可解な現象が多発する森を舞台に、得体の知れない存在に遭遇する人々の恐怖を描くホラー。『リング』シリーズなどの中田秀夫が監督、同監督作『事故物件 恐い間取り』などのブラジリィー・アン・山田、同じく『スマホを落としただけなのに』シリーズなどの大石哲也が脚本を務めた。『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』などの相葉雅紀が主人公を演じ、『わたしは光をにぎっている』などの松本穂香、オーディションで抜てきされたジャニーズJr.の上原剣心、ドラマシリーズ『ソロ活女子のススメ』などの江口のりこらが共演する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、「田舎町で農業を営む田中淳一(相葉雅紀)を、元妻・赤井爽子(江口のりこ)と暮らす小学生の息子・一也(上原剣心)が東京から訪ねてきて、父子はしばらく共に暮らすことになる。そのころ、近くの森で謎めいた現象が多発し、淳一が暮らす町でも住民の不審死や失踪が続発していた。間もなく父子も得体の知れない存在"それ"を目撃し、淳一はさらに不可解な事件や怪奇現象に巻き込まれていく」となっています。
 
 これは、完全に子ども向けの映画ですね。登場人物の多くが小学生ということもあり、本質は「ジュブナイル・ホラー」であり、「ジュブナイル・SF」といったところでしょう。でも、予告編を観た限りでは大人向けのホラー(それも、まったく未知のジャンルの名作の予感あり)としか思えません。"それ"の正体がわかったときは、本当に体から力が抜けていきました。「まさか、そんなオチにはしないよね?」という最悪の予想が的中したという感じで、今も「悪い夢を見た」ような気がしています。「悪い夢を見た」というのは名作ホラーを観たときにも感じる感覚なのでしょうが、「"それ"がいる森」の場合は比喩でも何でもなく「つまらないものを観てしまった」ということです。
 

 最近観た映画の中にも、「"それ"がいる森」のようにホラーだかSFだかよくわからない怪作がありました。一条真也の映画館「NOPE/ノープ」で紹介したジョーダン・ピール監督の最新作です。田舎町の上空に現れた謎の飛行物体をカメラに収めようと挑む兄妹が、思わぬ事態に直面する物語です。父親の死の直前に雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目にしていたと兄は妹に話し、彼らはその飛行物体の動画を公開しようと思いつきます。撮影技術者に声を掛けてカメラに収めようとしますが、想像もしていなかった事態が彼らに降りかかるのでした。一条真也の映画館「ゲット・アウト」「アス」で紹介した作品でもジョーダン・ピールには大いに驚かされましたが、彼の最新作である「NOPE/ノープ」も奇想天外な映画でした。
 
 わたしは最初にジョーダン・ピールの存在を知ったとき、その奇想ぶりから「M・ナイト・シャマランの再来」のように思っていました。シャマランは「シックス・センス」(1999年)に感動した観客をその後は裏切り続けています。シャマラン作品には、「NOPE/ノープ」と似たテーマの「サイン」(2002年)がありますが、これはどうしようもないトンデモ映画でした。でも、同じような題材を扱っても「NOPE/ノープ」とは月とスッポン。ジョーダン・ピールは、シャマランをとっくに超えてしまいましたね。そして、なんと、「"それ"がいる森」は「サイン」の正当な後継作品とでも言いたくなるようなトンデモ映画なのです。両作品に登場する怪物の姿もそっくりですし、「"それ"がいる森」は明らかに「サイン」を意識して作られたような気がします。
 
 わたしは、怖いもの見たさ(上質のホラーというよりも、ものすごいトンデモ映画を観てしまうという怖さ)から、いくら駄作であってもM・ナイト・シャマラン作品は嫌いではありません。そして、「"それ"がいる森」があまりにもシャマラン映画を代表するトンデモ映画である「サイン」を彷彿とさせたことから、「ついに和製シャマランが誕生したか!」と何だか嬉しくなりました。それも、無名の新人監督というのではなく、Jホラーの巨匠として名高い中田秀夫監督がシャマラン化したというのですから、愉快ではありませんか!
 
 ケチばかりつけて心苦しくはありますが、主演の相葉雅紀は大根でしたね。同じ「嵐」出身でも、二宮和也などは俳優としても一流ですが、相葉は役者向きではないと思いました。相葉が扮する田中淳一の息子・一也を演じた上原剣心の演技も学芸会レベルでした。彼はジャニーズJrに入ったばかりで注目のアイドルだそうですが、ムダに美少年というか、この映画では浮きまくっていました。相葉と上原の父子ドラマが重要なサイドストーリーになっていましたが、グダグダし過ぎていて、観ていて「だから何だよ!」と叫びたくなるようなストレスを覚えましたね。
 
 それにしても、こんなトンデモ映画の監督があの中田秀夫とは信じられません。中田監督といえば、「女優霊」(1995年)や「リング」(1998年)といったJホラー映画のメガホンを取っています。両作品とも日本のホラー映画史に燦然と輝く超名作で、本当に怖い映画でした。ともに脚本を手掛けた高橋洋の最新監督作品が一条真也の映画館「ザ・ミソジニー」で紹介したホラー映画です。ある山荘を舞台に、母親殺しの事件を題材に描いた物語です。二人の女優が呪われた事件を演じているうちに、現実と物語の境界が次第に曖昧となっていきます。この映画も、「"それ"がいる森」みたいにホラーと思っていたらコメディとしか思えないような印象でした。でも、まだ全編にわたって不気味な雰囲気が漂っているぶん、「ザ・ミソジニー」の方がホラー映画としてはマシでしたね。