No.749
8月11日、この日から公開された日本映画「ミンナのウタ」を観ました。Jホラーの巨匠とされている清水崇監督の最新作ですが、一条真也の映画館「忌怪島」で紹介した前作をはじめ、清水監督のホラー映画は最近ちっとも怖くありません。「今回も、どこまでダメなのか」という一種の怖いもの見たさ(笑)でシネプレックス小倉に向かいました。
ヤフー検索の「解説」には、こう書かれています。
「『呪怨』シリーズや『犬鳴村』などを手掛けてきた清水崇監督によるホラー。1本のカセットテープから流れるメロディーを耳にした人々が、次々と怪異に巻き込まれる。ダンス&ボーカルグループ『GENERATIONS from EXILE TRIBE』が主演を務め、白濱亜嵐、片寄涼太らメンバー全員が本人役で出演し、『女の機嫌の直し方』シリーズなどの早見あかり、『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』などのマキタスポーツのほか、穂紫朋子、天野はな、山川真里果らが共演する」
ヤフー検索の「あらすじ」は、「ラジオ番組のパーソナリティーを務める『GENERATIONS from EXILE TRIBE』の小森隼は、収録前にラジオ局の倉庫で『ミンナノウタ』と書かれた1本のカセットテープを見つける。その後、収録中に謎の声を耳にした彼は、ライブを数日後に控えているにもかかわらず突然失踪してしまう。マネージャー・凛(早見あかり)の依頼を受け、元刑事の探偵・権田(マキタスポーツ)が調査に乗りだすが、メンバーの周りで不可解な出来事が続発する」です。
結論から言うと、この「ミンナのウタ」、Jホラーの傑作でした。清水監督が原点回帰して、怖い映画を作ることに集中した感があります。GENERATIONSという男性アイドル・グループが全員出演するということで、映画の邪魔になるのではないかと危惧していたのですが、まったくの杞憂でした。劇団EXILEという演技部門があるくらい、さすがにEXILEグループのメンバーたちは演技が上手でした。特に、関口メンディの怖がり方は秀逸でしたね。彼がホテルの廊下で少年の霊に遭遇するシーンは、スティーヴン・キング原作でスタンリー・キューブリック監督のホラー映画の不朽の名作「シャイニング」を彷彿とさせました。
完全に時代遅れとなったカセットテープという小道具がまず怖いですが、テープに録音された「ミンナのウタ」を聴いて震えあがるGENERATIONSメンバーの怯えっぷりが良かったです。彼らのマネジャー役の早見あかりも美しく演技にも光るものがありました。ただ、彼女がずっと首を掻いていた伏線は回収されなかったのが残念でした。霊をただ怖がるのではなく、霊の悲しみに「寄り添いたい」というコンパッションの精神を見せたところは、これまたホラー映画の不朽の名作で、マイケル・ナイトシャマラン監督の「シックス・センス」を連想させました。
「ミンナのウタ」では、人気グループであるGENERATIONSの日常に忍び寄る影が不気味に描かれます。彼らは言わずと知れたEXILEグループに属していますが、現在、「EXILEグループはオワコン」といった声が囁かれているようですね。その理由をネットで調べると、本家EXILEの代名詞であったボーカルのATSUSHIが脱退したため、EXILEが活動していないと思っている人が多いようです。活動休止(グループの脱退)中に、新体制でEXILE NESMITH(エグザイル ネスミス)がボーカルを担当していますが、別物と誤認識している人が多いようです。
その他、EXILEグループのテレビへの登場回数が減ったことも「オワコン」説の原因になっているようです。確かに、買収疑惑もあったにせよ、EXILEグループはレコード大賞での賞レースでは常連アーティストだったので近年のレコード大賞で姿を見なくなったのは事実です。また、時代の流行と音楽性がズレているという指摘もされています。音楽には流行があり、狙った楽曲が必ずヒットソングに直結するわけではありません。現代の流行を作るのは10代から20代の若者と昔から言われています。TIKToKなどSNSを中心に流行が決まっていきますので、若者のハートを掴めなかった曲は全て消えたと言われる傾向もあるわけです。
「ミンナのウタ」の清水監督の前作が、「忌怪島」(2023年)です。一条真也の映画館「犬鳴村」、「樹海村」、「牛首村」で紹介した清水崇監督による「恐怖の村」シリーズに続くホラー映画です。「忌怪島」は「恐怖の村」ではなくて「恐怖の島」ですが、その根本は同じです。しかし、内容は残念でした。まったく怖くないし、つまらなかったです! 清水祟監督の「恐怖の村」シリーズにも言えることなのですが、今回の「忌怪島」でも、田舎、特に離島に対する偏見に基づいて映画が作られているのが気になります。人間とか霊とかいうよりも、村とか島とかの場所を強引に恐怖の源泉にしてしまうから、不愉快なトンデモ偏見映画になってしまうのです。
しかし、清水監督の最新作である「ミンナのウタ」は「忌怪島」とは打って変って、Jホラーの傑作に仕上がっていました。その勝因は、なんといっても清水監督の代表作であり、Jホラーの歴史に燦然と輝く「呪怨」(2003年)の世界に原点回帰したことでしょう。「呪怨」とは、強い恨みを抱いて死んだモノの呪いです。その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれます。映画「呪怨」は、もともと1999年に発売された清水崇監督・脚本によるホラーのビデオ作品です。それを原作とする劇場版「呪怨」が2003年1月に単館系で公開され、ホラー映画ファンたちから絶大な支持を得ました。同年8月には続編の「呪怨2」も公開されています。「呪怨」シリーズには、佐伯伽椰子という女性の霊やその子供である佐伯俊雄の霊が登場しますが、その姿は見るものに強烈なインパクトを残します。「ミンナのウタ」には、その伽椰子や俊雄を連想させる恐怖の悪霊がバンバン登場します。
「呪怨」と並んで、Jホラーの歴史に燦然と輝く名作が鈴木光司原作・中田秀夫監督の「リング」(1998年)。ビデオを見たものは1週間後に死ぬ――呪いのテープにこめられた怨念か、テレビ画面から女がはい出す。白いワンピースに顔を覆うほどの長い黒髪。そして、彼女の素顔を見たものは、衝撃のあまりおぞましい形相のまま死んでゆきます。彼女は千里眼の能力をもつ山村志津子を母とし、伊豆大島の差木地で生まれました。18歳のときに入団した劇団でイジメを受けた貞子は、団員を呪い殺し、父の入院していた病院の井戸に父の担当医によって突き落とされます。この絶望の底で、母から受け継いだ魔力を使って怨念をビデオテープに念写したのです。「ミンナのウタ」で、家の中の鏡に過去の出来事が映るシーンなどは「リング」と同じですし、昭和のメディアであるカセットテープも「リング」のビデオテープを明らかに意識しています。
このように、「ミンナのウタ」とは、「リング」と「呪怨」というJホラーの2大名作へのオマージュ的作品であると言えますが、この2大名作に登場する最恐キャラ同士が対決した異色作が、一条真也の映画館「貞子vs伽椰子」で紹介した2016年の白石晃士監督の作品です。この企画を最初に知ったとき、「どうせ、パロディだろう」と思っていましたが、ガチのホラー映画の傑作でした。女子大生の有里(山本美月)は、あるビデオを再生します。それは、観た者に貞子から電話がかかってきて、2日後に死ぬという「呪いの動画」だった。一方、女子高生の鈴花(玉城ティナ)は引っ越し先の向かいにある「呪いの家」に入ってしまいます。霊媒師の経蔵(安藤政信)は2つの呪いを解くために、呪いの動画の貞子と呪いの家に居る伽椰子を激突させようとするのでした。
「ミンナのウタ」の話題に戻りますが、「清水祟が本気を出したら、やっぱり凄いな!」と思ってしまうほど、今回の最新作はストーリーも面白いし、出てくるくるキャラも怖いし、それを怖がるGENERATIONSメンバーも熱演でしたし、大満足でした。「リング」や「呪怨」といった過去の名作のオマージュ的シーンだけでなく、オリジナルの恐怖シーンにも注目すべきものがありました。特に、深夜の自動販売機に女子学生が腹ばいになって頭を突っ込んでいるシーンは斬新でした。それを目撃した佐野玲於が絶叫して逃げ去っていきますが、誰だって、こんな場面に遭遇したら逃げますよね。(笑)
さて、聴いた者が呪われるという「ミンナのウタ」という曲は、有名な「暗い日曜日」を連想させます。「暗い日曜日」は、聴いただけで死にたくなる「自殺の聖歌」と呼ばれています。ハンガリーで157人、全世界で数百人が自殺または不可解な死を遂げたと言われています。この曲は、1933年にハンガリーの首都ブダペストのドバーニ通りにあるクラーチというパブで生まれました。作曲者は、この店でピアノの弾き語りをしていた30代半ばの男、シェレシュ・レジェーです。わたしは、この曲を題材にした1999年のドイツ・ハンガリー映画「暗い日曜日」を観て、この不吉な曲の存在を知りました。
この曲を聴いた者が立て続けに自殺し、「暗い日曜日」は、ヨーロッパでは「自殺の聖歌」、世界的には「自殺ソング」と呼ばれるようになりました。日本では、ダミアが歌った曲がフランスから輸入され、日本語バージョンとしてレコード化されました。日本へも上陸し、燕尾服を着て直立不動で歌う姿が印象的な東海林太郎、コメディアンの「エノケン」こと榎本健一、ブルースの女王の淡谷のり子らが歌っています。宝塚歌劇団出身の越路吹雪は、シングルで発表。また、この不吉な曲を好んで歌い、アルバムに収めたのが美輪明宏です。他に戸川昌子、岸洋子、金子由香利、夏木マリ、加藤登紀子など錚々たるメンバーが、この曲を歌っています。
なぜ、「暗い日曜日」を聴いた人々は死にたくなるのか。近年、「ソルフェジオ周波数」という音階が注目されています。病を自然治癒させる力があると考えられている音階です。周波数とは空気が1秒間に振動する回数を表し、周波数の単位Hzの数値が大きいと高い音、小さいと低い音になります。そして、ソルフェジオ周波数の9つの周波数は、人間の心身に特別な効果をもたらすとされています。たとえば、「解放の周波数」と呼ばれる396Hzは罪の意識・トラウマ・恐怖・不安から解放する効果が期待でき、「奇跡の周波数」と呼ばれる528Hzは過度なストレスにさらされて傷ついたDNA細胞を修復する力があるといいます。不思議な話ですが、実話です。
ヒーリングの世界では有名な「ソルフェジオ周波数」は、公衆衛生、行動科学、新興疾病、自然治癒といった分野の権威として国際的に知られているレオナルド・G・ホロウィッツ博士が著書の中で提唱した、396Hz、417Hz、528Hz、639Hz、741Hz、852Hzの6種類から構成される音階のことです。現在では、周波数の差が111という計算から導かれた、174Hz、285Hz、936Hzを加えた 9種類を、「ソルフェジオ周波数」と呼ぶことが主流となっています。ちなみに、ビートルズの『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ(Tomorrow Never Knows)」は、ジョン・レノンが528Hzで作曲した歌だそうで、自然治癒力が期待できそうですね。
これらとは逆に、ネガティブに作用する周波数もあるといいます。「暗い日曜日」と自殺の関係については、周波数が鍵を握っているとも考えられますね。確かに、ホロウィッツ博士も『ジョン・レノンを殺した凶気の調律A=440Hz 人間をコントロールする「国際標準音」に隠された謀略』という本を書いています。現在の国際標準音A=440Hzは1939年に、ある隠された思惑のもとに決められたもので、そこには人類を煉獄に誘うミュージックカルト・コントロールの策謀があるそうです。ホロウィッツ博士は、同書で「A=440HzからA=444Hz(C=528Hz)へ」「今こそ奏でよ、愛と癒しの528Hzの楽曲を!」と訴えています。「ミンナのウタ」は、どのような周波数や音階だったのでしょうか?