No.921
7月11日、一条真也の映画館「ザ・ビートルズへの軌跡」で紹介したドキュメンタリー映画をヒューマントラストシネマ有楽町のシアター1で観た後に、同じK-12の席でイギリス映画「SCRAPPER/スクラッパー」を観ました。一条真也の映画館「WALK UP」で紹介した前日観た韓国映画も同じ席でした。この最後列右端のシートはわたしの専用席なのです。しかし、ここ最近この席で観る映画はビミョーな内容のものばかりです。残念ながら、本作もそうでした。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「サンダンス映画祭でワールド・シネマ・ドラマ部門の審査員大賞を受賞したドラマ。母を亡くして一人で生きる少女と、音信不通だった父親が共同生活を送る。メガホンを取るのは、MVなどの演出を手掛けてきたシャーロット・リーガン。ローラ・キャンベル、『逆転のトライアングル』などのハリス・ディキンソンらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「ロンドンの郊外。母が病死した後も、彼女との思い出が詰まったアパートに残って一人暮らしをする12歳の少女ジョージー(ローラ・キャンベル)のもとに、父親を名乗るジェイソン(ハリス・ディキンソン)が現れる。生まれて間もない自分と母を捨てたジェイソンを許せずに締め出そうとするが、彼から「児童相談所に通報する」と言われ、彼女は12年越しの共同生活を渋々受け入れる。ジェイソンの行動に何か裏があると疑い、彼の上着のポケットを探ったジョージーは、そこにライフルの銃弾を見つける」となっています。
この映画、「サンダンス映画祭2023」ワールドシネマドラマ部門にて審査員大賞を受賞、「英国アカデミー賞2024」では 一条真也の映画館「関心領域」、「哀れなるものたち」、「ナポレオン」で紹介した話題作と共に英国作品賞にノミネートを果たし、米アカデミー賞の前哨戦の1つであるナショナル・ボード・オブ・レビューではインディペンデント映画トップ10に選出されました。非常に高い評価を受けているわけですが、正直言って、わたしにはピンときませんでした。自転車泥棒のような悪行を重ねる主人公の少女に共感できませんでしたし、「アレクサンダー大王」「ユリウス」「チンギス」「ナポレオン」などと名付けられた蜘蛛たちの場面などは蛇足というか、「うざい」と感じました。
この映画の主人公である12歳の少女ジョージーは、母親を亡くしたばかりです。つまり、彼女はグリーフのただ中にあるわけで、本作はグリーフケア映画と言えます。冒頭から、いきなり、有名な「死の受容五段階」説が登場します。末期ガン患者との対話を通して、人が死を受容するまでの心の葛藤を追求したアメリカの精神科医師エリザベス・キューブラー=ロスによれば、「否認」→「怒り」→「取引」→「抑うつ」→「受容」という、5つの心理的段階を経て、人は死んで逝く。これは死ぬ本人にとっての「死の受容」の話ですが、最近では残された人々の「悲嘆の受容」の話にも拡大されています。
わたしには高評価の理由はわかりませんが、この映画は国際的に受けています。メガホンを取ったのは、本作が長編デビューとなる1994年生まれの新鋭シャーロット・リーガンです。主演のジョージー役に、リーガン監督が白羽の矢を立て抜てきしたローラ・キャンベル。リーガン監督は、オーディションでのローラを振り返り「当時、まだ10歳だったと思いますが、緊張していたのか、人見知りなのか、私たちが質問したことに全く答えてくれず、近所にあるショッピングセンターで売っているお気に入りのロウソクについて話し始めたんです。それ以外はほとんど何も喋らない...。変わった子だなと思っていたんですが、いざカメラで撮ってみると、私もプロデューサーも顔を見合わせて思わず歓喜しました」と語っています。
またリーガン監督は、インタビューで「これは後々わかるのですが、ローラは人を見る目が非常に厳しく、本当に信用できる人としか関わらないところがあるんです。ですから、彼女の家に何度も足を運び、紅茶とビスケットをいただきながら信頼関係を少しずつ築いていって、ようやくOKをもらえたという感じです」と、立場が逆転してしまったユニークなエピソードを披露。さらに、「撮影初日は大変でした。父親のジェイソン(ハリス・ディキンソン)が残したボイスメッセージを聞きながら、いろんな思い出がフラッシュバックする大切なシーンをいきなり撮ることになったんですが、ローラは前日のリハーサルにも参加せず、このまま演じてくれないんじゃないかとドキドキしていたんです。ところが撮影当日、姿を現した彼女は完璧に準備ができていて、私たちの想像を遥かに超える素晴らしい演技を披露してくれました」と、当時のローラの様子を明かしています。
幼いときに自分と母親を捨てた父親とのコミュニケーションを描いた映画といえば、一条真也の映画館「ブリ―ディング・ラブ はじまりの旅」で紹介したアメリカ映画があります。ユアン・マクレガーと彼の実娘であるクララ・マクレガーが親子として共演したドラマです。長年疎遠だった父と娘が関係修復のための旅を共にする中で、ぶつかり合いながらも互いが抱える問題と向き合います。ある出来事をきっかけに、長らく疎遠だった娘(クララ・マクレガー)をロードトリップに連れ出した父親(ユアン・マクレガー)。二人は関係修復を図るものの、どうしたら溝を埋められるのか分からないでいるのだった。娘は父との大切な記憶に思いをはせながらも、自分を捨てた父を許せず二人は反目し合う。旅の目的地であるアメリカ・ニューメキシコ州が近付くにつれ、二人は互いが抱える問題と向き合っていくのでした。わたしにも娘がいるので、こういった父と娘が絆を再構築する映画には弱いですね。はい。