No.1167


 アメリカ映画「ウルフマン」をU-NEXTで観ました。一条真也の映画館「フランケンシュタイン」で紹介したNETFLIX映画が素晴らしかったので、他にも名作ホラー映画のリブート作品が観たくなったのです。それでブログ「レンフィールド」で紹介した2023年の吸血鬼映画に続けて、本作を観た次第です。現時点でのネットの評価はおそろしく低いのですが、わたし的にはけっこう面白かったです。なお、本作は今年観た180本目の映画となります。
 
「ウルフマン」は、1941年のユニバーサル映画「狼男」のリブート作品です。一条真也の映画館「M3GAN/ミーガン」で紹介した2022年のホラー映画のブラムハウス、一条真也の映画館「透明人間」で紹介した2020年のSFサスペンス映画のリー・ワネル監督の両者が再タッグを組みました。クリストファー・アボット、ジュリア・ガーナーら実力派俳優陣が集結しています。2025年1月17日に全米で公開されましたが、日本では劇場公開されず、2025年10月22日にブルーレイ・DVDが発売されました。
 
 アマゾンの「ストーリー」は「サンフランシスコで妻と娘と共に暮らすブレイクは、ある日、失踪していた父の死亡通知を受け取り、遠く離れたオレゴン州郊外にある実家を相続する。キャリアウーマンである妻シャーロットとの結婚生活に綻びを感じていたが、休暇を取るよう説得し、幼い娘ジンジャーを連れて実家へと向かう。ところが夜中に実家の農場に向かう途中、謎の生物に襲われ、一家は辛うじて実家に逃げ込み、辺りをうろつく恐ろしい生物から身を潜める。だが夜が更けるにつれ、ブレイクに異変が起き、その姿は得体の知れない生き物に変わり始める」となっています。
 
「ウルフマン」のオリジナルである「狼男」(1941年)は、1930年代に「魔人ドラキュラ」や「フランケンシュタイン」を始めとしてホラー映画のヒット作を多く生み出してきたユニバーサル社が、サイレント時代の怪奇スター、ロン・チェイニーの息子ロン・チェイニー・ジュニアを新たなスターとして製作したホラー映画です。人狼伝説に基づいていますが、特に原作小説を持たないオリジナル作品で、狼男をテーマとしたホラー映画の代表作とされています。監督・製作ジョージ・ワグナー。脚本はSF作家のカート・シオドマク。製作が第二次世界大戦中であったため、日本では劇場未公開でした。戦後に「狼男の殺人」の題名でテレビ放映され、長くその名で知られてきた。2003年に「狼男」としてDVDがリリースされたのに伴い、現在では一般にこの題名で呼称されています。
 
「狼男」の主人公、ローレンス・タルボットは本来好人物ですが、狼憑きに噛まれたために満月の夜になると狼男に変身し、自分の意思に関係なく殺人を犯してしまう二重人格的なキャラクターです。その人間ローレンスの苦悩と、凶暴な獣人の恐怖を演じたロン・チェイニー・ジュニアは、この狼男を最大の当たり役として1940年代を代表する怪奇スターとなりました。ロン・チェイニーも「ノートルダムのせむし男」(1923年)や「オペラ座の怪人」(1925年)といったユニバーサルのホラー映画で主演を務めた怪奇スターでした。一方でタルボットを襲う狼憑きを演じたのは、「魔人ドラキュラ」のドラキュラ役で知られる1930年代の大スターであったベラ・ルゴシです。同作では端役に近い位置付けで、怪奇の主演スター交代を印象付けました。

ユニバーサル・モンスター映画のDVDーBOX
 
 
 
 ユニバーサルは1935年に狼男をテーマとした映画「倫敦の人狼」を作っていますが、それとの継続性はありません。設定も異なる独立した作品です。「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」についづいてユニバーサルが製作した「狼男」は戦時下の公開でしたがヒットし、狼男はドラキュラ伯爵、フランケンシュタインの怪物、ミイラ男(カーリス)と並ぶホラー分野の有名キャラクターとなりました。また、この映画のヒットが現代における「狼男」伝説の基本イメージを決定づけ、本来西洋の狼男伝説には必ずしもなかった「狼男に噛まれた者は狼男になる」「狼男は不死身であるが銀の弾丸で死ぬ」といった設定がもとからの伝説であったかのように世界的に誤解され、その後の狼男作品が創作されることとなりました。
 
「狼男」のヒットにより、ユニバーサルは1943年に続編となる「フランケンシュタインと狼男」を製作します。同作はフランケンシュタインシリーズの続編でもあります。つまり、2つのシリーズが融合して1つの世界を形成することになったわけで、これは今でいう「ユニバース」ですね。ロン・チェイニー・ジュニアは先行する「フランケンシュタインの幽霊」(1942年)ではモンスターを演じていましたが、この「フランケンシュタインと狼男」ではモンスターはベラ・ルゴシに譲り、狼男役に専念。この時期、ボリス・カーロフ、ベラ・ルゴシ、ロン・チェイニー・ジュニアという三大怪物俳優がスクリーンで人気を競い合っていたのです。チェイニーはその後も3本、合計5本のユニバーサル・ホラーで狼男を演じました。まさに、ミスター・ウルフマン!
 
 ユニバーサルは狼男映画をたくさん作りましたが、特によく知られているのが2010年のリブート作品「ウルフマン」です。満月の夜になると、凶暴な殺人鬼ウルフマンに変身してしまう男の苦悩を描いたホラー映画です。共にオスカー俳優であるアンソニー・ホプキンスと、ベニチオ・デル・トロが呪われた宿命を背負う父子に扮しました。19世紀末、兄の行方不明の知らせを受けて帰郷した人気俳優のローレンス(ベニチオ・デル・トロ)は、到着早々無残に切り裂かれた兄の遺体と対面します。犯人の捜索中にウルフマンに襲われた彼は自らもウルフマンに変身し、満月の夜になると殺人を犯すようになってしまいます。そんなローレンスを父ジョン(アンソニー・ホプキンス)はわざと凶行に走らせ、警察へ引き渡すのでした。
 
 そして15年ぶりに「狼男」をリブートしたのが本作「ウルフマン」です。登場人物がほとんど家族のみで、舞台も田舎の一軒家に限られています。とても地味な設定で、ネットでの評価は驚くほど低いです。でも、家族愛を前面に出した物語は切実ですし、映画全篇に漂う暗い雰囲気や背後の森の不気味さも含めて、わたしは「悪くないな」と思いました。ただ、人間がウルフマンに変身する度合いが中途半端というか、かつての作品のように全身を毛に覆われた獣人というよりも、忌まわしい感染症に罹患した病人といった印象でした。同じように感染したウルフマン同士のバトルというアイデアは新鮮でした。満月がまったく登場しないのは不満を感じましたけど......。
 
「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」「狼男」という三大名作によって、ホラー映画の製作工場と化したユニバーサル・スタジオは、その後も数多くのホラー映画を世に送り出し、世界中を奮え上がらせてきました。そのユニバーサル・スタジオの礎を築くモンスターの世界の新たなる幕開けとなるはずだったのが「ダーク・ユニバース」シリーズです。一条真也の映画館「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」で紹介した2017年公開のシリーズ第1弾は、トム・クルーズを主演としながらも、期待したほどのヒットになりませんでした。同作は、1932年製作の「ミイラ再生」を新たによみがえらせたアクションアドベンチャーで、エジプトの地下深くに埋められていた王女の覚醒と、それを機に始まる恐怖を活写しているのですが、あまり怖くなかったです。ホラー映画という感じではなかったですね。
 
 ダーク・ユニバースの第2弾は、2020年の「透明人間」。「ウルフマン」に先立ってジェイソン・ブラムが製作を担当したSFサスペンス映画で、自殺した恋人が透明人間になって自分に近づいていると感じる女性の恐怖を描きました。天才科学者で富豪のエイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の恋人セシリア(エリザベス・モス)は、彼に支配される毎日を送っていました。ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみのジェームズ(オルディス・ホッジ)の家に身を隠します。やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトム(マイケル・ドーマン)から、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられます。
 
 モンスター映画の老舗であるユニバーサルが「アヴェンジャーズ」や「ジャスティス・リーグ」ばりのフランチャイズ企画として立ち上げたのが「ダーク・ユニバース」でした。自社の財産である怪物キャラを再生させていくのが目的でした。「ダーク・ユニバース」では、1920〜1950年代にユニバーサルが精力的に作っていた「ユニバーサル・モンスターズ」シリーズより、「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」「ミイラ再生」「透明人間」「フランケンシュタインの花嫁」「狼男」「大アマゾンの半魚人」「オペラの怪人」「ノートルダムのせむし男」などの中からリブート作品を製作していく企画でした。SNS上では、ラッセル・クロウ、ハビエル・バルデム、トム・クルーズ、ジョニー・デップ、ソフィア・ブテラが一同に介した写真が公開されていますが、とんでもない豪華メンバーたちが新時代のモンスター映画で競演してくれると期待しました。
 
 その後、自社のモンスター映画を連続でリメイクする企画「ダーク・ユニバース」について、ユニバーサル・ピクチャーズ社のドナ・ラングリー会長が「失敗だった」と認めています。やはり、第1弾「ザ・マミー 呪われた砂漠の王」が興行的・批評的不振に終わったことで、構想そのものが一時凍結されてしまったのです。当初、一条真也の映画館「美女と野獣」で紹介した2017年のファンタジー映画を手掛けたビル・コンドン監督が、1935年の名作「フランケンシュタインの花嫁」で新たにメガホンを取り、ハビエル・バルデムがフランケンシュタインを演じるという話がありました。また、ライアン・ゴズリングを主演に迎えて「狼男」(1941年)のリメイク企画が始動したとかの噂もありましたが、結局は実現しませんでした。ギレルモ・デル・トロ監督が「フランケンシュタイン」(1931年)のリメイク企画に着手したという噂もありましたが、これは「ダーク・ユニバース」ではなく、NETFLIX映画として実現したわけです。
 
 結局、「ダーク・ユニバース」構想は頓挫しました。ユニバーサル会長のドナ・ラングリーは「失敗だった」と告白し、「ザ・マミー」監督のアレックス・カーツマンは「あの作品は人生最大の失敗だった」と述べています。ユニバーサルは、予定されていた作品をそれぞれ独立した作品として製作する方針に切り替え、その後、ニコラス・ケイジがドラキュラ伯爵を演じた2023年の映画「レンフィールド」が公開されたわけです。でも、日本では劇場公開されずにブルーレイ・DVDが発売されたのみだというのが寂しいですね。そして、本作「ウルフマン」も同じく日本では劇場公開されずにブルーレイ・DVDが発売されたのみでした。
 
 わたしは、本作「ウルフマン」が日本で劇場公開されないと知ったとき、ちょっと驚きました。なぜなら、リー・ワネル監督の最新作だったからです。リー・ワネルといえば、世界のホラー映画シーンでは超有名人です。猟奇的な殺人鬼ジグソウの仕掛ける密室サバイバルゲームを描き、2010年に「世界でもっとも成功したホラーシリーズ」としてギネスブックに記載された「ソウ」シリーズでは、第1作「ソウ」(2004年)から第8作「ジグソウ ソウ・レガシー」(2017年)まで全作を通して脚本・出演・製作総指揮などを担いました。また、ホラー映画の傑作「インシディアス」シリーズでも脚本を手がけ、「インシディアス 序章」(2015年)で監督デビューしています。
 
 そんな有名監督の最新作が劇場公開されないとは!思うに、Jホラーが世界を席捲している現在、日本におけるホラー映画のレベルは格段に高くなっており、それゆえ劇場公開の敷居が高くなっているのかもしれません。そこで、日本で受けそうな新たなホラー映画のアイデアが浮かんできました。ずばり、狼男の熊版です。「熊男」でも「ベアーマン」でもいいのですが、熊に噛まれて感染した人間が獣人化するという内容です。現在、日本で熊による人的被害が続出し、「ヒグマ!!」という新作映画が公開延期されている中で不謹慎な感じもしますが、それだけに観客を震え上がらせる怖い映画が作れるように思います。もともと、日本で狼(二ホンオオカミ)は絶滅していますが、熊はその個体数を増やしているとされます。このアイデアは、今度、知り合いの映画プロデューサーに話してみたいと思います。

「怪物くん」(モノクロアニメ)より
 
 
 
 最後に、わたしは、子どもの頃からフランケンシュタインの怪物、ドラキュラ、そして狼男の三大モンスターが好きでした。なぜなら、藤子不二雄Ⓐの『怪物くん』のメインキャラクターだったからです。わたしがわずか4歳だった1968年4月21日から1969年3月23日までTBS系列他にて不二家一社提供の「不二家の時間」枠で「怪物くん」のモノクロアニメ版が放映されました。前番組の「パーマン」に引き続き、東京ムービーとスタジオ・ゼロが交互に製作しています。15分2話構成で全49回(全98話)でしたが、幼児だったわたしは夢中になりました。そこに登場した怪物くんの3人の愛すべき子分であるフランケン、ドラキュラ、狼男のことも大好きになったのです。

わが書斎の怪奇小説文庫本コーナー
 
 
 
「怪物くん」のアニメには他にもさまざまな怪物が登場しましたが、本編中の登場怪物の解説およびエンディングのナレーションは、当時NTV(日本テレビ) 系の「日曜洋画劇場」で人気を博していた映画評論家の淀川長治が担当。時には実写スチルで登場していました。"昭和38年男"のなつかしい思い出ですね。その後、1980年には「怪物くん」のカラーアニメ版がテレビ朝日系列で、2010年には実写版ドラマが日本テレビで放映されました。フランケン、ドラキュラ、狼男の3人はお茶の間の人気者となったのです。ちなみに、わが書斎の怪奇小説の文庫本が置かれた書棚には三大モンスターのフィギュアが飾られています。