No.1166
 

 アメリカ映画「レンフィールド」をNETFLIXで鑑賞。一条真也の映画館「フランケンシュタイン」で紹介したNETFLIX映画が素晴らしかったので、他にもネトフリのホラー映画が観たくなったのです。それでフランケンシュタインの怪物と並ぶモンスター界のレジェンドである吸血鬼ドラキュラが登場する「レンフィールド」を観たのですが、純粋なホラーではなく、コメディ要素が強かったですね。
 
「レンフィールド」は、1897年の小説『吸血鬼ドラキュラ』の登場人物をフィーチャーしたロバート・カークマンのオリジナルのアイデアに基づいています。ライアン・リドリーが脚本を担当し、クリス・マッケイが監督した2023年の作品です。また、ユニバーサル・ピクチャーズのドラキュラシリーズのリブート作品で、主演はニコラス・ホルト、ニコラス・ケイジ。パワハラ・モラハラ、悪行の限りを尽くす上司ドラキュラに対して、気弱な部下のレンフィールドが人間としての尊厳を取り戻すため上司への抵抗を始める物語です。アクション、コメディ、ホラー、ハリウッドのエンターテイメント要素を全て凝縮した、新感覚ホラー・アクション・エンターテイメントですね。日本では劇場公開されず、2023年11月8日にブルーレイ・DVDが発売。
 
 ストーリーは、以下の通りです。ドラキュラ伯爵の手下としてこき使われているレンフィールド(ニコラス・ホルト)は、自分に自信が持てず上司には辞めたいと言い出せません。かと言って、言ったとしても辞めさせてくれない上司。そんな彼ですが、警察官のレベッカ・クインシー(オークワフィナ)と恋に落ちたとき、現代のニューオーリンズで新たな命を吹き込みます。そして、「ボスにここまで言われる筋合いはない! ぼくは、もっと幸せになる権利があるんだ!」と確信したレンフィールドは、普通の人間としての生活を取り戻すために、ドラキュラに反旗を翻すのでした。
 
 アマゾンの「レンフィールド」内容解説には、「パワハラ・モラハラ、悪行の限りを尽くす上司ドラキュラ VS.気弱な部下レンフィールド」「くせもの俳優ニコラス・ケイジがドラキュラ役で贈る、新感覚ホラー・アクション・エンターテイメント!」と書かれています。また、現代社会を風刺したハリウッド映画らしからぬテーマが込められているとして、「上司からのパワハラに悩む部下」「自己意識の目覚め」「共依存関係の探求」などの隠れテーマが挙げられています。ドラキュラに嫌がらせを受けるレンフィールドの負のループから抜け出したい姿は、現代社会に生きる多くの人々が共感するはず。時代設定を現在にして、現代社会の問題を吸血鬼の社会に当てはめた、新しいドラキュラ映画です。
 
 このように現代社会を風刺した新感覚のドラキュラ映画が「レンフィールド」なのですが、三度の飯よりホラー映画が好きなわたしにはピンときませんでした。恐怖のシンボルであるドラキュラをコメディタッチで描くことは、これまでハリウッドでも何度も行われてきました。日本でも、手塚治虫の『ドン・ドラキュラ』や藤子不二雄Ⓐの『怪物くん』といった漫画およびアニメで、ドラキュラはコミカルな存在として描かれています。しかし、「レンフィールド」の場合はそれだけでなく、パワハラ・モラハラといった現代的問題まで詰め込んだところに「あざとさ」を感じました。さらには、レンフィールドが恋に落ちるヒロインのレベッカ・クインシーを中国系女優でふくよかな体型のオークワフィナを起用しているところも「ポリコレ」臭が鼻につきましたね。
 
 でも、ニコラス・ケイジのドラキュラ役は悪くなかったです。「これぞ、ドラキュラ伯爵!」といった印象で、サマになっていました。ニコラス・ケイジは1964年1月生まれなので、わたしと同学年です。ブラッド・ピットやジョニー・デップといったハリウッド・スターたちとも同学年ですね。フランシス・コッポラ監督の甥である彼は、1981年に「初体験/リッジモント・ハイ」でニコラス・コッポラとしてデビュー。その後、現在の芸名に変更。1995年の「リービング・ラスベガス」では、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞などで主演男優賞を受賞しました。一条真也の映画館「シンパシー・フォー・ザ・デビル」で紹介した2025年のスリラー映画、一条真也の映画館「ロングレッグス」で紹介した2025年のホラー映画など、ここ最近は怪演の目立つニコラス・ケイジですが、その両作品に先立って「レンフィールド」でドラキュラを演じていたのですね。
 
 ニコラス・ケイジのドラキュラは、元祖ドラキュラ俳優であるベラ・ルゴシの往年の雄姿を彷彿とさせました。クリストファー・リーとかピーター・カッシングも演じましたが、ドラキュラといえばなんといってもベラ・ルゴシです。その彼の扮した吸血鬼にニコラス・ケイジの吸血鬼は似ていたのです。ルゴシが主演した映画「DRACULA」は、ブラム・ストーカー原作『吸血鬼ドラキュラ』の初の正規映画化作品でした。アメリカのユニバーサル映画が製作し、1931年2月14日公開。監督はトッド・ブラウニング。日本では1931年10月8日に「魔人ドラキュラ」の邦題で公開されました。同作は世界的にヒットし、戦前のホラー映画ブームを巻き起こしました。ユニバーサルは怪奇メーカーとして名をはせ、ドラキュラ伯爵役で主演したベラ・ルゴシも世界に知られる怪奇スターとなったのです。
 
 1931年には「魔人ドラキュラ」と並んで、もう1本、ユニバーサルはホラー映画の金字塔的作品を生み出しました。メアリー・シェリーの小説を映画化したジェイムズ・ホエール監督の「フランケンシュタイン」です。ボリス・カーロフが怪物を演じ、ベラ・ルゴシと並んで、世界的な怪奇スターとなりました。その怪物は、いかつい不気味な大男で、全身の皮膚に人造人間であることを意味する縫い目がありました。さらには、特徴的な四角形の頭部といったビジュアルが印象的でした。これが後世に典型的イメージとして広く定着し、また本来は「フランケンシュタインによる怪物」であるはずが、いつのまにか怪物自身を指して「フランケンシュタイン」と呼称されるようになったのです。
 
「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」という二大名作によって、ホラー映画の製作工場と化したユニバーサル・スタジオは、その後も数多くのホラー映画を世に送り出し、世界中を奮え上がらせてきました。そのユニバーサル・スタジオの礎を築くモンスターの世界の新たなる幕開けとなるはずだったのが「ダーク・ユニバース」シリーズです。一条真也の映画館「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」で紹介した2017年公開のシリーズ第1弾は、トム・クルーズを主演としながらも、期待したほどのヒットになりませんでした。同作は、1932年製作の「ミイラ再生」を新たによみがえらせたアクションアドベンチャーで、エジプトの地下深くに埋められていた王女の覚醒と、それを機に始まる恐怖を活写しているのですが、あまり怖くなかったです。ホラー映画という感じではなかったですね。
 
 ダーク・ユニバースの第2弾は、一条真也の映画館「透明人間」で紹介した2020年の映画でした。ジェイソン・ブラムが製作を担当したサスペンスで、自殺した恋人が透明人間になって自分に近づいていると感じる女性の恐怖を描きました。天才科学者で富豪のエイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の恋人セシリア(エリザベス・モス)は、彼に支配される毎日を送っていました。ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみのジェームズ(オルディス・ホッジ)の家に身を隠します。やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトム(マイケル・ドーマン)から、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられるのでした。
 
 モンスター映画の老舗であるユニバーサルが「アヴェンジャーズ」や「ジャスティス・リーグ」ばりのフランチャイズ企画として立ち上げたのが「ダーク・ユニバース」でした。自社の財産である怪物キャラを再生させていくのが目的でした。「ダーク・ユニバース」では、1920〜1950年代にユニバーサルが精力的に作っていた「ユニバーサル・モンスターズ」シリーズより、「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」「ミイラ再生」「透明人間」「フランケンシュタインの花嫁」「狼男」「大アマゾンの半魚人」「オペラの怪人」「ノートルダムのせむし男」などの中からリブート作品を製作していく企画でした。SNS上では、ラッセル・クロウ、ハビエル・バルデム、トム・クルーズ、ジョニー・デップ、ソフィア・ブテラが一同に介した写真が公開されていますが、とんでもない豪華メンバーたちが新時代のモンスター映画で競演してくれると期待しました。
 
 その後、自社のモンスター映画を連続でリメイクする企画「ダーク・ユニバース」について、ユニバーサル・ピクチャーズ社のドナ・ラングリー会長が「失敗だった」と認めています。やはり、第1弾「ザ・マミー 呪われた砂漠の王」が興行的・批評的不振に終わったことで、構想そのものが一時凍結されてしまったのです。当初、一条真也の映画館「美女と野獣」で紹介した2017年のファンタジー映画を手掛けたビル・コンドン監督が、1935年の名作「フランケンシュタインの花嫁」で新たにメガホンを取り、ハビエル・バルデムがフランケンシュタインを演じるという話がありました。また、ライアン・ゴズリングを主演に迎えて「狼男」(1941年)のリメイク企画が始動したとかの噂もありましたが、結局は実現しませんでした。ギレルモ・デル・トロ監督が「フランケンシュタイン」(1931年)のリメイク企画に着手したという噂もありましたが、これは「ダーク・ユニバース」ではなく、NETFLIX映画として実現したわけです。
 
 結局、「ダーク・ユニバース」構想は頓挫しました。ユニバーサル会長のドナ・ラングリーは「失敗だった」と告白し、「ザ・マミー」監督のアレックス・カーツマンは「あの作品は人生最大の失敗だった」と述べています。ユニバーサルは、予定されていた作品をそれぞれ独立した作品として製作する方針に切り替え、その後、ニコラス・ケイジがドラキュラ伯爵を演じた本作「レンフィールド」(2023年)が公開されたわけです。でも、日本では劇場公開されずにブルーレイ・DVDが発売されたのみだというのが寂しいですね。せっかく、ニコラス・ケイジとニコラス・ホルトという二大「ニコラス」の豪華共演だっただけに残念でした。個人的に、「レンフィールド」の最大の失敗は原作を改変しすぎたところにあったように思います。
 
 その点、一条真也の映画館「ドラキュラ/デメテル号の航海」で紹介した2023年のアメリカ映画は原作に忠実であり、なかなかの傑作でした。同作はダーク・ユニバースの流れを汲むと思われるホラー映画で、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』のエピソードを実写化しています。医師のクレメンス(コーリー・ホーキンズ)は、ルーマニアのカルパチア地方からイギリスのロンドンまで謎の木箱50箱を運ぶためにチャーターされたデメテル号に乗り込みます。荘厳な雰囲気を放つデメテル号での航海に胸を弾ませるクレメンスですが、積み荷の家畜が惨殺される事件が起き、クレメンスはその死体に何者かによるかみ跡を発見します。船内に不穏な空気が流れる中、赤い目と大きな牙、翼と尖った耳、青白い体という不気味な風貌をしたドラキュラが現れ、乗組員を襲い始めるのでした。
 
 吸血鬼が登場するホラー映画といえば、最近では、一条真也の映画館「ノスフェラトゥ」で紹介したクラシックな吸血鬼映画が公開されました。1922年製作のF・W・ムルナウ監督による「吸血鬼ノスフェラトゥ」を、同作に多大な影響を受けたという現代のホラー映画の巨匠ロバート・エガース監督がリメイク。えたいの知れない存在がもたらす恐怖を描いています。「ノスフェラトゥ」は、ずばりブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』のエピソードを登場人物の名前をすべて変えて描いた映画です。ここではドラキュラ伯爵はオルロック伯爵、不動産業者のジョナサン・ハーカーはトーマス・ハッターと改変されています。そして、このトーマス・ハッターを演じたのがニコラス・ホルトでした。レンフィールドも不動産業者でしたので、ホルトは「レンフィールド」でも「ノスフェラトゥ」も同じ役を演じたわけです。
 
 ニコラス・ホルトといえば、190センチの高身長のイギリス人俳優で、現在35歳。ハリウッドでも重要な俳優の1人となっています。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)のニュークス役をはじめ、一条真也の映画館「トールキン 旅の始まり」「ザ・メニュー」「陪審員2番」「スーパーマン」で紹介した作品などでいずれも印象深い演技を見せてくれました。「ノスフェラトゥ」のトーマス・ハッター役もすごく良かったです。そして、「レンフィールド」のレンフィールド役もけっして彼の演技は悪くはないのですが、惜しむらくは同作の設定および脚本の失敗に巻き込まれましたね。彼は12月15日に幕張メッセで開催される「東京コミコン」に参加するために来日するそうですが、これからの活躍が楽しみです!