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 3月13日の夜、この日公開のアメリカ映画「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。見事なほど、クズしか登場しない映画でしたね。わたしは主演のティモシー・シャラメのファンですが、正直言って彼には似合わない役だと思いました。
 
 ヤフーの「解説」には、「実在の卓球選手マーティ・リーズマンの人生から着想を得たドラマ。1950年代のニューヨークを舞台に、ある卓球選手が日本で行われる世界選手権の遠征費用を調達しようと奔走する。メガホンを取るのは『アンカット・ダイヤモンド』などのジョシュ・サフディ。『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』などのティモシー・シャラメ、『アベンジャーズ』シリーズなどのグウィネス・パルトロー、『アンティル・ドーン』などのオデッサ・アザイオンのほか、ケヴィン・オレアリー、タイラー・オコンマらが出演する」と書かれています。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「1950年代のニューヨーク。靴屋で働きながら、卓球選手としても活動するマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)は、ロンドンで行われた世界選手権で日本人選手エンドウに敗れてしまう。日本で行われる次回の世界選手権に出場してエンドウを破ろうと闘志を燃やすマーティだが、不倫相手のレイチェルが妊娠し、さらに卓球協会から選手資格を剥奪され、世界選手権の遠征費用に充てるための資金が底をつく。マーティは、あらゆる手を使って遠征費用をかき集めようとする」となっています。
 
 ティモシー・シャラメが演じるマーティ・マウザーのモデルは、マーティン・リーズマン(1930年~2012年)という実在のアメリカの卓球選手であり、作家です。彼は1958年と1960年に全米男子シングルス選手権で優勝し、1997年には全米ハードバット選手権で優勝。 伝統的なハードバットスタイルの卓球を提唱した選手でした。リーズマンは数十年にわたりニューヨーク市の卓球界で活躍。機知に富んだ発言と細身の体格から「針」の異名を取りました。1974年の回顧録『マネー・プレイヤー』の中で、彼はトップクラスの卓球選手は「ギャンブラーか密輸業者」でなければならないと記しています。
プレイするマーティン・リーズマン



 リーズマンは1930年2月1日、ニューヨーク市マンハッタンで、ユダヤ人の夫婦の間に生まれました。父親はタクシー運転手として働いていました。彼は9歳の時に神経衰弱を経験した後、卓球を始め、それが心を落ち着かせてくれることに気づきます。13歳で市のジュニアチャンピオンになっています。彼は54丁目とブロードウェイにあるローレンスのブロードウェイ卓球クラブで賭け事や金儲けを始めました。挑戦者を誘い込み、最初の数ゲームはわざと負け、賭け金を倍にするよう提案してから、自分の本当の実力を見せつけて勝利したそうです。賭け金が大きければ、彼は座ったり目隠しをしたりしてプレイしました。時にはポケットの中の札束から100ドル札を取り出し、ネットの高さを測ることもあったとか。
卓球のボールを吹くリーズマン



リーズマンは、1948年の世界卓球選手権の 男子団体戦で銅メダルを獲得したのを皮切りに、1949年の世界卓球選手権で男子シングルス、男子団体戦、そしてペギー・マクリーンと組んだ混合ダブルスで計3個の銅メダルを獲得(世界選手権通算では5個)。1952年、リーズマンはインドのボンベイで開催された世界選手権で優勝候補でした。しかし、初戦で日本の佐藤博二選手に敗北。佐藤選手は、ゴム引きスポンジ層を備えた改良型パドルを最初に使った選手の1人でした。映画では「エンドウ」として描かれた佐藤選手はその後、男子シングルスのタイトルを獲得します。リーズマンは1946年から2002年にかけて卓球の主要タイトルを22回獲得し、その中には全米オープン2回と全英オープン1回が含まれています。
 
 そんな波乱万丈の人生を歩んだマーティン・リーズマンをモデルとするマーティ・マウザーを演じたティモシー・シャラメですが、卓越した卓球プレーには驚きました。なんでも7年間も卓球の特訓を重ねたそうですが、それにしても動きが凄すぎます。マウザーの宿敵である日本人エンドウを演じたのは、デフリンピック日本代表である川口功人選手でした。2人の対戦は目にもとまらぬ早いスピードで展開されます。マウザーのアクロバティックな技も含めて、スポーツというよりもエンターテインメントといった印象でした。
 
 ティモシー・シャラメといえば、一条真也の映画館「DUNE/デューン 砂の惑星」「デューン 砂の惑星PART2」で紹介したSF超大作、一条真也の映画館「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」で紹介したファンタジー映画、一条真也の映画館「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」で紹介したボブ・ディランの伝記映画などで主演を務めていますが、いずれも素晴らしい熱演です。そして、どの役も必死に人生を切り拓く男の物語でした。マーティーも必死に生きてはいますが、どうにも不真面目でクズの印象が強いです。これは貴公子のようなティモシー・シャラメには似合わないと思いました。
 
 それでも、この役でアカデミー主演男優賞の最有力候補になっているというのですから、アカデミー賞の選考基準もよくわかりませんね。ティモシー・シャラメという見目麗しく、才能豊かな俳優にオスカーを与えるなら、「DUNE」か「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」がふさわしかったと思います。まあ、一条真也の映画館「オッペンハイマー」で紹介した日本人の心を踏みにじり、セカンド・グリーフを与えるような原爆開発者の人生を描いた映画が作品賞に輝くようなアカデミー賞には何も期待しませんが。
 
「オッペンハイマー」といえば、「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」で、エンドウとの対戦を前にしたマーティ・マウザーが「日本に3発目の原爆を落としてやるぜ!」といったセリフがありました。あれは当時のアメリカ人の本音なのでしょうが、わたしは非常に不愉快でした。本作には多くの日本人がエキストラ出演しており、素晴らしい演技を披露していました。また、ジャパンプレミアでは多くの日本人観客が本作を絶賛していましたね。それだけに、あのセリフだけは返す返すも残念でした。
 
 以上の内容をUPしたのですが、これを読んだ映画ジャーナリストのアキ(堀田明子)さんから連絡があり、ジョシュ・サフディ監督の曽祖父は戦後の日本に住んでステーキ店を経営しており、監督自身は日本贔屓だということを教えてくれました。学生時代は日本語の勉強もしていたようです。経費削減で日本のシーンはニューヨークで撮影するはずだったところを、「どうしても日本で撮影し、日系ではなくちゃんとした日本人をエキストラで使いたい」と強く要望したとか。ジャパンプレミアでのサフディ監督は、「上野恩賜公園での撮影は、1952年の日本にタイムトラベルしたような感覚でした。実は私の曽祖父が戦後の日本にいたこともあり、当時の空気をチャネリングするような特別な体験になりました」と、日本への個人的な繋がりを明かしています。
ハリウッドリポーター・ジャパン」より



 日本への敬意がまったく感じられなかった「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督と違い、サフディ監督の日本への敬意が根底にあるなら、あのセリフの受け取り方も変わってきます。クズ・キャラとして描かれたマーティらしい発言とも言えますね。大事なことを教えてくれたアキさんには、感謝の気持ちでいっぱいです。そのアキさんは、「ハリウッドリポーター・ジャパン」に「ティモシー・シャラメ来日!『マーティ・シュプリーム』ジャパンプレミア最新情報|ファン熱狂レポート」という記事を書かれています。ぜひ、こちらもお読み下さい!