No.1245
4月3日、一条真也の映画館「落下音」で紹介したドイツ映画をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観た後、そのままアメリカ映画「ザ・ブライド!」を鑑賞。ホラーにしてラブ・ロマンス。想像していた内容とは違いましたが、面白かった!
ヤフーの「解説」には、「怪物フランケンシュタインと花嫁ブライドを、『ザ・ファイター』などのクリスチャン・ベールと『MEN 同じ顔の男たち』などのジェシー・バックリーが演じるスリラー。孤独なフランケンシュタインと死体からよみがえったブライドが共に追われる身となり、逃避行を繰り広げる。監督は俳優で『ロスト・ドーター』などのメガホンを取ったマギー・ギレンホール。ピーター・サースガードやアネット・ベニング、ジェイク・ギレンホール、ペネロペ・クルスなどが共演する」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「1930年代のアメリカ・シカゴ。孤独なフランケンシュタイン(クリスチャン・ベール)から伴侶が欲しいと言われたユーフォロニウス博士(アネット・ベニング)は、墓から女性(ジェシー・バックリー)の遺体を掘り起こしてブライドとしてよみがえらせる。ある事件のせいで二人は追われる身となるが、不条理な世界に対するブライドの怒りが抑圧された人々に影響を及ぼす」
「ザ・ブライド!」はフランケンシュタインのモンスターの花嫁の物語です。フランケンシュタインのモンスターといえば、最近、一条真也の映画館「フランケンシュタイン」で紹介した2025年のNETFLIX映画が話題になりました。幼い頃に父親から英才教育を受けてきたヴィクター・フランケンシュタインは優秀でしたが、父から受ける虐待により自己中心的な性格へとなってしまいました。成長したヴィクターは日夜遺体を使って肉体を蘇生させる方法に没頭し、電力を使って死体の体を反射的に動かすまで研究は成功します。彼の研究に巨額の資金を投じるスポンサーが現れたことで、ヴィクターは死体をかき集めて負傷しても回復する治癒能力と屈強な肉体を持った超人を作るべく研究を推し進めて行くのでした。同作は、わたしの大好きな監督であるギレルモ・デル・トロの作品だけあって、素晴らしい力作でした。
フランケンシュタインのモンスターは、知らない者はいないモンスター界のレジェンドです。1931年のジェームズ・ホエール監督作品「フランケンシュタイン」は、ホラー映画の金字塔的作品ですが、そこに描かれた怪物は、いかつい不気味な大男で、全身の皮膚に人造人間であることを意味する縫い目がありました。さらには、特徴的な四角形の頭部といったビジュアルが印象的でした。これが後世に典型的イメージとして広く定着し、また本来は「フランケンシュタインによる怪物」であるはずが、いつのまにか怪物自身を指して「フランケンシュタイン」と呼称されるようになりました。しかし、作者はこの作品が舞台化された際の台本を見たときに、怪物の名前が____(アンダーバー)だったことを喜んだといいます。メアリー・シェリーは、怪物の名前がないことにこだわっていたのです。
その映画「フランケンシュタイン」の原作を書いた作者こそ、メアリー・シェリー(1797年~1851年)です。同作はSF小説の元祖とされています。メアリー・シェリーは幼少の頃、イギリスの政治評論家で無政府主義(アナキズム)の先駆者であった実父のウィリアム・ゴドウィンから溺愛されて、家から出してもらえなかったとか。また、メアリー・シェリーの母であるメアリ・ウルストンクラフト(1759年~1797年)はイギリスの社会思想家で、『女性の権利の擁護』を書いたフェミニズムの先駆者でした。彼女はタブーに縛られない人生を送り、未婚のまま多くの男性と交際したといいます。当然、セックスにも開放的でした。メアリー・シェリーを産んだときも相手であるウィリアム・ゴドウィンとは結婚していません。そして、産後の肥立ちが悪く、彼女はメアリーの出産後間もなく亡くなったのでした。
そのメアリー・シェリーの驚くべき生涯を描いた映画が、一条真也の映画館「メアリーの総て」で紹介した2017年のイギリス・ルクセンブルク・アメリカ合作映画です。「メアリーの総て」には『フランケンシュタイン』誕生の背景が描かれていますが、19世紀のイギリスの劇場で行われていた幻想ショー「ファンタスマゴリア」や生体電気(ガルバニズム)でカエルの死骸を動かす実験などのメアリーが『フランケンシュタイン』の物語を思いつくヒントになった場面が興味深かったです。映画「ザ・ブライド」の冒頭にはそのメアリー・シェリーがいきなり登場します。怨霊なのか、冥界にいる荒ぶる魂なのかはわかりませんが、とにかく彼女は世界に対して猛烈な憎悪を抱き、怒っています。そして、メアリーはある女性を使って世界に復讐しようとするのです。
名匠ジェームズ・ホエールは、大ヒットしたホラー映画「フランケンシュタイン」の続編を作りました。「フランケンシュタインの花嫁」(1935年)です。アメリカのユニバーサル映画が製作したSFホラー映画の古典です。前作で死んだと思われていたフランケンシュタインのモンスターは生きていました。怪物は盲目の老人と知り合い、初めて人間として扱われる喜びを知ります。一方、邪悪な博士プレトリアスは、フランケンシュタインを脅し、怪物のパートナーを造ろうとしていたのでした。エルザ・ランチェスターが怪物の花嫁とメアリー・シェリーの二役を演じましたが、誕生してすぐに不幸な最期を遂げます。「ザ・ブライド!」はこの「フランケンシュタインの花嫁」のリメイク作品なのですが、今回はオリジナルのようにすぐ死んでしまうようなヤワな花嫁ではありませんでした!
女性の人造人間といえば、一条真也の映画館「哀れなるものたち」で紹介した2023年のSF映画が思い浮かびます。ヨルゴス・ランティモス監督がスコットランドの作家アラスター・グレイによる小説を映画化したものです。天才外科医の手により不幸な死からよみがえった若い女性が、世界を知るための冒険の旅を通じて成長していく物語です。若い女性ベラ(エマ・ストーン)は自ら命を絶ちますが、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)によって胎児の脳を移植され、奇跡的に生き返ります。「世界を自分の目で見たい」という思いに突き動かされた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出ます。大人の体でありながら、新生児の目線で物事を見つめるベラは、貪欲に多くのことを学んでいく中で平等や自由を知り、時代の偏見から解放され成長していくのでした。
そして、今回の「ザ・ブライド!」では、フランケンシュタイン(本来は博士の名前ですが、本作では怪物の名前として使われています)の花嫁をジェシー・バックリーが演じています。 一条真也の映画館「ジュディ 虹の向彼方に」で紹介した2020年のジュディ・ガーランドの伝記映画、一条真也の映画館「MEN 同じ顔の男たち」で紹介した2022年のホラー映画で紹介したホラー映画などに主演して注目され、今月10日から日本公開される「ハムネット」で第98回アカデミー賞で主演女優賞を受賞。彼女は1989年アイルランド生まれですが、2008年、BBCのオーディション番組に出演したのをきっかけに芸能界入り。2021年、「ザ・ブライド!」と同じマギー・ジレンホール監督「ロスト・ドーター」で、若き日の主人公を演じ、第75回英国アカデミー賞での助演女優賞ノミネートをはじめ、第94回アカデミー賞でも助演女優賞にノミネートされました。そして今回、主演女優賞で初めてオスカーを獲得したのです。
オリジナル作品である「フランケンシュタインの花嫁」では、醜い怪物の顔を見てショック死したブライドでしたが、本作では生命力に溢れた逞しいブライドをジェシー・バックリーが熱演します。クリスチャン・ベール演じるフランケンシュタインとは息もぴったり合って、幸せなカップルが誕生します。人類は新しき「アダムとイヴ」を得たのでした。しかし、2人はディスコでタチの悪い輩たちに絡まれてしまいます。もちろん戦えばフランケンシュタインの戦闘能力が圧倒的に上回っているのですが、騒動になることを避けて無視しようとします。それでも輩たちはしつこく絡んできて、ついには彼女をレイプしようとします。そのとき、フランケンシュタインの怒りが爆発し、彼らを瞬殺したのでした。でも、それが原因で2人は逃避行するのでした。
シカゴから列車に乗ってニューヨークにやってきた2人は、訪れた映画館で見つかってしまいます。そのままパーティー会場へ逃げ込むのですが、そこにはフランケンシュタインが憧れていた映画スターがいました。必死に「あなたのファンです」「あなたの映画が生きる支えでした」と訴えるフランケンシュタインですが、スターの態度は冷たいものでした。その後、ダンスタイムとなり、人造人間の2人も踊り狂います。このシーンは、日の目を見ることができない哀れなるものたちの祝祭といった印象で、大きな高揚感に溢れていました。ホラー映画の中にミュージカル・シーンが挿入されるのは珍しいですが、成功していたと思います。しかし、その後に訪れる警官との銃撃シーンは、「俺たちに明日はない」(1967年)のラストシーンを彷彿とさせました。
「俺たちに明日はない」は、不況時代のアメリカ30年代に実在した男女2人組の強盗、ボニーとクライドの凄絶な生きざまを描いた、アメリカン・ニューシネマの先駆け的作品です。アカデミー賞2部門を受賞(助演女優賞エステル・パーソンズと撮影賞)しています。ケチな自動車泥棒だったクライドは、気の強いウェイトレスの娘ボニーと運命的に出会い、コンビを組んで強盗をやりはじめます。2人は順調に犯行を重ねていきますが、最後は車に乗ったまま銃撃され、蜂の巣状態になってしまいます。ラストシーンは世界中の観客の心に大きな衝撃を与えました。「ザ・ブライド」のフランケンシュタイン夫妻の姿がボニーとクライドに重なりました。しかし、ラストシーンで彼らが蘇生したことがわかります。果たして、この物語に続きはあるのでしょうか?


