No.693
3月20日の夜、シネプレックス小倉でスペイン・アルゼンチン合作映画「コンペティション」を観ました。東京でもミニシアターでしか観れない作品が地元のシネコンで気軽に鑑賞できるのは嬉しいですね。ただし、観客はわたし1人だけの貸し切り状態でしたが......。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「超一流のスタッフ、キャストが集められた映画製作の裏側を描くコメディー。新作映画のリハーサル現場で、天才監督と人気俳優の二人が激しくぶつかり合う。監督は『ル・コルビュジエの家』などのガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーン。キャストには『パラレル・マザーズ』などのペネロペ・クルス、『ペイン・アンド・グローリー』などのアントニオ・バンデラス、ドゥプラット&コーン監督作『笑う故郷』などのオスカル・マルティネスらが集結。第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出された」
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「大富豪の起業家は自らのイメージアップのため、超一流の映画人を起用した傑作映画の製作を決意する。変わり者だが映画賞常連の天才監督ローラ(ペネロペ・クルス)、世界的大スターのフェリックス(アントニオ・バンデラス)、そしてベテラン舞台俳優のイバン(オスカル・マルティネス)が集結し、ベストセラー小説の映画化に着手する。しかし、それぞれ癖の強い3人は事あるごとにぶつかり合い、リハーサルは紛糾してしまう」
この映画、映画製作の舞台裏を描いています。一条真也の映画館「バビロン」、「エンドロールのつづき」、「エンパイア・オブ・ライト」、「フェイブルマンズ」で紹介したように、ここ最近は「映画のための映画」を観る機会が多いのですが、「コンペティション」もそのジャンルに入るべき作品でしょう。でも、ペネロペ・クロス演じる女性監督ローラも、アントニオ・バンデラス演じる世界的大スターのフェリックスも、オスカル・マルティネス演じるベテラン舞台俳優のイバンも、とにかく3人とも個性が強すぎて、観ていて胃もたれする感じでした。
フェリックスとイバンは、ともにスペインを代表する名優であり、この2人の共演は初とのことで大きな話題になります。しかし、2人とも自我が強すぎて、自分の演技が絶対であり、絶対に相手の演技を認めようとしません。ローラ監督が次から次に繰り出してくる試練を乗り越えるうちに2人の間に友情が芽生えたようにも思えたのですが......。とにかく、この映画は映画監督も映画俳優もワガママな人種であるという真実をよく描いていました。日本でも高倉健をはじめ人格者として回想される俳優もいますが、基本的に名優に人格者は少ないように思います。というか、常識とか倫理観などを超えたところに「鬼気迫る演技」の地平が開けるように思えてなりません。
80歳になった製薬会社を経営する富豪が名誉を欲することから物語が始まります。自分の名前の橋を建設するよりも、歴史に残る映画を製作することを決心した富豪は、「最高の映画を!」とローラに声をかけます。すると、ローラは「最高の映画って、よくわからない」と言います。続けて、「良い映画っていうのもわからない。自分が理解できる映画が良い映画で、理解できない映画が悪い映画だと思う人は多いけど、理解できないものの中にこそ本当に大事なものがあるような気がするの」と語るのですすが、名言だと思いました。確かに、そうかもしれません。
ローラの言葉を聴いて、わたしは、一条真也の映画館「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で紹介した映画を連想しました。エヴリン(ミシェル・ヨー)は優柔不断な夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)と反抗期の娘、頑固な父と暮らしながら、破産寸前のコインランドリーを経営しています。税金申告の締め切りが迫る中、エヴリンはウェイモンドに並行世界に連れて行かれます。そこでカンフーマスターさながらの能力に目覚めたエヴリンは、全人類の命運を懸けて巨大な悪と闘うべく立ち上がるという物語です。この映画を、わたしはまったく良い映画だと思わず、それどころか最低の映画とさえ思いました。しかし、アカデミー賞の作品賞をはじめ、各賞を独占した事実を考えると、わたしが理解できないだけで名作だったのかもしれません。これからは理解できない映画を否定するだけでなく、理解する努力をしなければと思いました。
「コンぺティション」の劇中映画のメガホンを取るのは、女性監督のローラです。わたしは、一条真也の映画館「オマージュ」で紹介した韓国映画を連想しました。ヒット作がなく新作を撮る目処も立たない映画監督のジワン(イ・ジョンウン)は、1960年代に活動した女性映画監督ホン・ジェウォンの映画『女判事』の修復の仕事を依頼されます。ジワンは家族との日常生活を送りながら自身の映画を撮りたいと願っていましたが、失われたフィルムの一部を求めて関係者を訪ね歩く中で、かつて映画業界で活動していた女性たちの苦難を知るのでした。「オマージュ」を観ると、女性が映画を撮ること、女性が監督になることの壁を嫌というほど感じてしまいます。それは1960年代の韓国でなくとも、現在の世界各国でも同じだと思います。でも、「コンぺティション」のローラは男たちよりも逞しく、貪欲に映画を撮っていました。
それから、「コンペティション」というタイトルから、わたしは「コンパッション」を連想ました。ブログ「時代は、コンパッション!」で、ACジャパンの「たたくより、たたえ合おう。」という公共広告に感動したと書きました。コンビニのレジ待ちの列を舞台にラッパーの呂布カルマや高齢者、店員らが互いを思いやるラップを披露する全国キャンペーンCMです。ここに登場する「寛容ラップ」は「不寛容な時代~現代社会の公共マナーとは」がテーマ。「たたくより、たたえ合おう。」というコピーのもと、ラップバトルで相手を尊重し認め合う大切さ、そこから生まれる交流を伝えるストーリーです。このCMの「たたくより、たたえ合おう。」というコピーは、まさに「コンパッション」そのものです。この秀逸なコピーに触発されて、わたしも「コンペティションよりコンパッション!」というコピーを思いつきました。
赤いボルサリーノでラップしたいYo!
「コンペティション」とは競争という意味ですが、「競い合いより、思いやり」というメッセージですね。それにしても、呂布カルマのラップは最高ですね! 意外に思われるかもしれませんが、じつは、わたしはラップ大好き人間です。本当は、ラッパーになりたいと思っていました。わたしは短歌をたしなみますが、言葉に韻を踏ませてメッセージを強化する点は、短歌(特に、メッセージ性の強い道歌)もラップも同じですね。かつて、わたしは「また会えるから」というグリーフケア・ソングを作詞したことがありますが、「コンパッション!」というラップ・ミュージックも作詞したいと思いました。Yo!Yo! コンペティションよりコンパッション♪ 競い合いより思いやり♪ Yeah!」といった感じです。(笑)先日、新宿の伊勢丹メンズ館で還暦用の赤いボルサリーノを買ったので、それを被ってパフォーマンスしたいYo!