No.725


 6月13日の夜、サンレー北陸のシネアドのチェックにユナイテッドシネマ金沢を訪れました。ついでに日本映画「水は海に向かって流れる」を鑑賞。コミックが原作の実写映画は正直言って駄作が多いですが、この映画は良質の部類に入ると思いました。主演の広瀬すずが良かったです!
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「田島列島のコミックを原作に、『そして、バトンは渡された』などの前田哲監督と『ちはやふる』シリーズなどの広瀬すず主演で映画化したドラマ。笑顔を見せることのない26歳の女性会社員が、男子高校生や脱サラしたマンガ家など男女4人とシェアハウスで共同生活をする。脚本を『潔く柔く きよくやわく』などの大島里美が担当する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「高校への通学のために叔父の家に居候することになった直達が駅に着くと、見知らぬ大人の女性、榊千紗(広瀬すず)が迎えにきていた。案内された家には、脱サラしてマンガ家になった叔父、女装した占い師、海外を放浪する大学教授、そして笑わない26歳の会社員・榊がおり、彼らとの共同生活が始まる。直達は次第に榊に好意を寄せるようになるが、榊は『恋愛はしない』と宣言する」
 
 この映画、ある日本映画の名作の続編ではないかと思うくらい、テーマが被っていました。一条真也の映画館「海街diary」で紹介した2015年の是枝裕和監督の作品です。広瀬すずのデビュー作ですね。この映画で、わたしは初めて彼女を見たのですが、整った顔立ちの中に凛とした「強さ」のようなものを感じさせました。「海街diary」で広瀬すずが演じた少女すずの母親は、妻子ある男性と不倫をした末に一人娘である彼女を残して亡くなります。すずは母親の不倫相手だった男性の娘たちと一緒に暮らし始めて家族になるという物語でした。「水は海へ向かって流れる」の榊千紗も、母親が妻子ある男性とW不倫するという人生を歩んでいます。ともにコミックが原作ですが、「海街Diary」と「水は海に向かって流れる」の両作品は、母親に不倫された娘という設定が共通しています。
 
 広瀬すずという女優は才能豊かです。一条真也の映画館「一度死んでみた」で紹介した2020年の映画みたいにコメディエンヌもできる彼女ですが、最近は暗い影のある女性の役が光っています。一条真也の映画館「怒り」で紹介した2016年の映画、一条真也の映画館「三度目の殺人」で紹介した2017年の映画、そして一条真也の映画館「流浪の月」で紹介した2022年の映画などでは、暗い過去を持つ女性を見事に演じました。「三度目の殺人」では、彼女の母親役は斎藤由貴でした。
 
「三度目の殺人」公開時の斎藤由貴は自身の不倫騒動の真っ只中にありました。でも、斉藤由貴と広瀬すずの母娘役というのは絶妙のキャスティングだと思いました。だって、最高の美人母娘ではないですか。現在、不倫騒動の真っ只中にいる女優といえば、広末涼子です。「水は海に向かって流れる」は不倫という行為がいかに当事者の子どもたちの心を傷つけ、人生に悪影響を与えるかについて描いています。斎藤由貴も、広末涼子も、ぜひ「水は海に向かって流れる」を観てほしいですね!
 
 一条真也の映画館「アンモナイトの目覚め」で紹介した2021年のイギリス・オーストラリア・アメリカ合衆国合作映画では、ケイト・ウィンスレット演じる古生物学者メアリーとシアーシャ・ローナン演じる化石収集家の妻シャーロットが同性愛の関係となります。もし、「アンモナイトの目覚め」の日本版を製作するとしたら、メアリー役は斉藤由貴、シャーロット役は広末涼子というキャスティングを思い浮かべました。わたしは両女優のファンなのですが、ともに国民的アイドルだったにもかかわらず、その私生活でのスキャンダルから、「魔性の女」の印象が強いですね。そして、彼女たちの後継者としての雰囲気をプンプン漂わせているにが広瀬すずです。もちろん彼女は独身ですし、恋愛も自由ですが、斎藤由貴や広末涼子が持っている「魔性の女」感があるのです。いつか、斎藤・広末・広瀬の揃い踏みの「細雪」なんか観てみたいですね!
 
 話がずいぶん脱線しました。「水は海に向かって流れる」での広瀬すずは、デビュー作の「海街diary」から8年。すっかり大人の女性の魅力を感じさせる存在になりました。今回は料理を作ったり、食べたりするシーンが多かったのですが、彼女の料理はどれも美味しそうでしたね。あと、「水は海に向かって流れる」では、広瀬すずの横顔のシーンが非常に多いことに気づきました。もちろん正面から見た顔も美しい彼女ですが、「広瀬すずって、こんなに横顔が綺麗だったんだ...」と思いました。でも、その横顔はどれも憂いを秘めたものでした。前田哲監督は、横顔を写すことによって、榊千紗の悲しみを表現しようと思ってのかもしれません。いま、「悲しみ」と言いましたが、深い悲嘆のことを「グリーフ」といいます。そして、「水は海に向かって流れる」はグリーフ映画です。
 
 ともに親がW不倫して家を出て行った経験を持つ千紗と直達(大西利空)は「親に捨てられた」という共通のグリーフを抱えています。そんな2人がシェアハウスで知り合って、少しづつ心を通わせていく様子は見ていて微笑ましいものでした。「一生、恋愛はしない」と言う千紗の閉ざされた心を直達は次第に解きほぐしていきます。でも、10歳も年齢の離れた2人が安易に恋愛関係にならなかったところは良かったと思います。「水は海に向かって流れる」というタイトルについてですが、千紗の悲しみに共感して流した直達の「世界で一番小さな海」である涙が、やがて悲しみの行き先としての「海」に流れるという意味なのかなとも思いましたが、もうひとつの見方もできると気づきました。それは、「心を自然に任せる」ということです。水が川に流れ、川が海に流れるのは自然の摂理です。それと同じく、閉ざされた心を解き放って、自然な感情のままに生きるという意味もあるのではないでしょうか?
 
 広瀬すずも良かったですが、直達役の大西利空も良かったです。現在17歳という彼は可愛らしい顔をしていますが、乃木坂46の5期生の川﨑桜によく似ています。つまり、女顔なのですね。「もしかして、ジャニーズ?」と思いましたが、所属はトップコートでした。生後5か月で芸能界入りした彼は、2012年放送のテレビドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(フジテレビ系)で初めてレギュラー出演を果たします。特技は野球で、読売ジャイアンツのファン。バスケットボールや将棋も好きだそうです。4歳からはじめたゲームも好きで、バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」ではアジア大会に出場し、1万チーム中26位に。夢は、優しくて演技もうまい役者さんになることだそうですが、これから楽しみなイケメン俳優ですね。広瀬すずと大西利空が並んでいる姿はじつに絵になります。容姿を重視することを「ルッキズム」などと排斥する動きもありますが、映画はやはり「美男美女」がスクリーンを飾ることが王道ではないでしょうか?
 
 そんな大西利空が演じる直達は、年上の千紗に心を寄せていきます。自分たちがW不倫によって親から捨てられた存在であると知ったときは共感を超えた同志のような感覚もあったでしょうが、直達は次第に異性としての千紗に惹かれていきます。これは千紗が料理上手で、直達の「胃袋をつかんだ」ことも大きかったでしょう。最初に会った夜のポトラッチ丼(異様に肉が高級な牛丼)を口にしたときから、直達は千紗に胃袋をつかまれてしまいました。でも、10歳も年齢の離れた2人が安易に恋愛関係にならなかったところは良かったと思います。映画の後の物語の続きがどうなっていくのかは知りませんけどね。
 
 年上の女性に憧れる直達の姿を見て、わたしは多岐川裕美の「酸っぱい経験」という1980年の歌謡曲を連想しました。カゴメ「トマト&レモン」のCMで、年下の男の子を愛しく思う大人の女性の歌です。わたしはこのCMが大好きで、白いシャツが印象的だった多岐川裕美の魅力にメロメロになっていました。そして、「東京の大学に入学して、こんな綺麗なお姉さんと知り合いたいな」と思ったものです。(笑)当時のわたしは17歳で、現在の大西利空と同い年でした。ちなみに、この「酸っぱい経験」は三浦徳子の作詞ですが、秋元康が作詞した乃木坂46の2曲目シングル「おいでシャンプー」(2012年)の原曲ですね。
 
 さて、「水は海に向かって流れる」の舞台はシェアハウスです。大家である漫画家の役は高良健吾が務めていますが、なかなかいい味を出していました。彼の主演作品では一条真也の映画館「悼む人」で紹介した2015年の映画が素晴らしかったですが、「横道世之介」という2013年の映画にも主演しています。長崎県の港町で生まれ育った横道世之介(高良健吾)が、大学に進むために東京へと向かう物語です。周囲の人間を引き付ける魅力を持ち、頼まれたことは何でも引き受けてしまう性格である世之介は、祥子(吉高由里子)から一方的に好かれてしまいます。じつは、この「横道世之介」は今月27日に北九州市のNPO法人認定抱樸のイベントで上映され、同法人の理事長である「隣人愛の実践者」こと奥田知志さんと高良健吾さんがトークショーを行うことになっています。わたしも奥田さんから紹介されたのですが、あいにくその日は東京でグリーフケアの会議が入っていました。でも、奥田さんから高良さんを紹介してほしかったです!
 
 「水は海に向かって流れる」の主題歌は、スピッツ「ときめきpart1」。しみじみと心に染みる名曲でした。それにしても、スピッツ、なつかしいですね。2017年に公開された広瀬すず主演映画「先生! 、、、好きになってもいいですか?』の主題歌もスピッツの「歌ウサギ」でした。わたしは、もともとスピッツの「ロビンソン」や「空も飛べるはず」が大好きで、よくカラオケでも歌っていました。1987年に結成されたスピッツは、ボーカル&ギターの草野マサムネが高校時代から温めていた名前で、「短くてかわいいのに、パンクっぽい名前である」ことから命名したそうです。犬種の日本スピッツも由来となっており、「弱いくせによく吠える」といったパンクバンドの意味も込められているとか。また「SP」の音から始まる名前が気に入っており、それにしたかったとも草野が語っています。そういえば、現在、彼らのドキュメンタリー映画が公開されているようです。この日、ユナイテッドシネマ金沢で予告編が流れていました。いずれ同劇場でも上映されるようなので、タイミングが合えば観たいですね!